難治性疾患に挑む──ルクサナバイオテク、1.5億円調達と製薬原料ライセンス契約を発表

細菌感染症治療薬の開発を行う創薬スタートアップ株式会社Arrowsmithが、2025年8月にプレシリーズAラウンドで総額3億円の第三者割当増資による資金調達を完了した。主力開発パイプラインである緑膿菌感染症向けファージカクテルARW001は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」第8回公募に採択され、初年度で4.6億円、最大で50億円規模の補助金枠を確保した。
Arrowsmithは2025年2月に設立された。細菌の一種であるバクテリオファージを利用した治療薬の開発に注力しており、従来の抗菌薬が効きにくい薬剤耐性菌による感染症に対し、新たな治療選択肢を提供することを目指している。2020年から5年間、アステラス製薬や岐阜大学と共同で研究を進めてきた成果をもとに、リードプログラムARW001など複数の開発パイプラインを持つ。主な開発対象は緑膿菌感染症で、これは院内感染や医療機器関連感染症の主要な原因となっている。
ARW001は、複数種類のバクテリオファージで構成されている。特徴としては、標的となる細菌への広い適応性や高い殺菌力、安定性が挙げられる。また、独自の合成改変技術を活用したファージも組み込まれており、バイオフィルム(細菌が集団で形成する病原性の高い構造体)を分解する機能性遺伝子を有している。これにより、従来治療が困難とされてきた感染症モデルでの有効性が期待される。今後は非臨床試験を経て臨床試験へと進み、ほかの細菌感染症を対象とした後続パイプラインの開発も予定している。
代表取締役CEO兼CScO(Chief Scientific Officer)の安藤弘樹氏は、製薬企業や学術機関での研究協力を経て現職に就いている。これまでファージ応用技術の社会実装に向けた事業化を主導してきた。
医薬・創薬系スタートアップ業界では、新たな治療モダリティの開発と官民連携による研究開発が進展している。抗菌薬市場では新薬の上市が停滞し、多剤耐性菌(AMR)が世界的な公衆衛生上の課題となっている。米国疾病対策センター(CDC)によれば、米国内で毎年約280万人が薬剤耐性感染症に罹患し、推定3.5万人が死亡している。1990年代以降、大手製薬企業は抗菌薬のパイプラインを縮小しており、これに対応するため、政府主導の研究開発支援やスタートアップへの投資、共同研究の動きが活発化している。
ファージセラピーは欧米で臨床応用例が出ているものの、日本国内での事業展開は始まったばかりである。国内ではC4U(CRISPR型遺伝子編集技術)、FerroptoCure(新規抗がん剤研究)などが創薬エコシステム強化事業に採択されているが、ファージに特化した事業は数少ない。
今回の資金調達には、ジャフコ グループやJICベンチャー・グロース・インベストメンツなどのベンチャーキャピタルが参加している。加えてAMEDの公的補助金枠を活用することで、研究開発初期から事業化に至るまでの資金繰りや競争力の強化につながる。AMEDによれば、第8回公募では11件の申請があり、書類審査を通過した7件のうち4件が最終的に採択された。AMEDは企業と大学・公的研究機関の連携を促進し、次世代創薬分野での事業化を支援する体制を整備している。Arrowsmithもニューモダリティ創薬推進コンソーシアム(Nモダコンソーシアム)に参画し、異なる技術や疾患ターゲットを持つ企業との共同開発に取り組んでいる。
ファージセラピーの事業化には、規制対応や臨床評価、事業モデル確立といった多角的な課題が残る。今後は非臨床試験・臨床試験の進捗、国内外での規制対応、共同開発先の拡大などが中長期的な成長の鍵となる。AMEDの創薬エコシステム強化事業など、関連する公的機関による最新情報や進捗も随時公表される見込みである。
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