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がん治療薬の最前線、リンクメッドが挑む診断と治療のシームレスな進化

国産放射性医薬品の開発を手がけるリンクメッド株式会社が、シリーズBラウンド最終クローズとして3億円の追加資金調達を実施した。これによりシリーズB累計調達額は38.5億円、創業以来の累計資金調達額は約50億円となった。今回の調達では、ニッセイ・キャピタル14号投資事業有限責任組合およびIMI投資事業組合が新たに参加した。調達資金は、主力パイプラインである放射性医薬品「64Cu-ATSM(開発コードLM001)」の第III相治験の実施や、国内製造体制の構築に活用される。
リンクメッドは2022年7月に設立された研究開発型スタートアップで、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)における研究成果を基盤として発足した。主にがん治療を目的とした放射性医薬品の研究開発に従事している。中心となる開発品である64Cu-ATSMは、がん細胞の低酸素環境に集積する性質を持ち、特に再発・難治性の悪性神経膠腫(脳腫瘍)に対する診断・治療両用薬(セラノスティクス)の実用化を目指す。セラノスティクスとは、診断(diagnostics)と治療(therapeutics)を一体化させた医薬品の開発領域を指す。
代表取締役社長は吉井幸恵氏。長年、QST分子イメージング診断治療研究部で上席研究員を務め、放射線によるがん治療薬の研究開発に従事してきた。医療現場での経験を活かし、アカデミア発のスタートアップとしてリンクメッド設立を主導した。なお、吉井氏は創業者の一人である。
放射性医薬品の分野は、がん細胞のみを標的とする精密医療の進展や、既存の抗がん剤に比べ副作用リスクの低減が期待できる点から、国内外で注目が集まっている。特にセラノスティクス領域は、診断と治療を同時に行えることから、大手製薬企業による新規核種の開発やグローバル提携が活発化している。米国や欧州ではノバルティス、バイエル、アストラゼネカ傘下のRadiomedixなどが競合として存在し、すでに上市や提携事例が増えている。一方、日本では国産核種を基盤とした医薬品開発が限られており、これまで海外依存が課題となってきた。しかし、近年はアカデミア発ベンチャーを中心とする国産化・量産化への取り組みが加速し、国内サプライチェーンの構築が進みつつある。
放射性医薬品市場規模は、2023年に51億5000万米ドルと推計され、2024年には54億8000万米ドルに達すると予測されており、今後はセラノスティクス製剤の普及により市場拡大が見込まれる。また、難治性がんへの新規治療モダリティ(治療手法)として、医療インフラや規制対応の整備が進行している。こうした環境の変化を背景に、国産放射性医薬品の開発や量産体制の確立が産業政策上の重要課題となっている。
今回の資金調達は、主に64Cu-ATSM(LM001)開発と生産体制構築に充てられる。LM001は、低酸素化したがん細胞に高集積し、放射線により細胞核のDNAを直接攻撃する特徴を持つ。また、陽電子放射断層撮影(PET)に対応しており、薬剤の体内分布をリアルタイムで把握しながら治療を行える点も特徴である。2024年6月には、主に再発・難治性悪性神経膠腫患者を対象としたランダム化比較第III相治験(STEP-64試験)が国内で開始された。この治験は医師主導で進んでおり、国産放射性治療薬として初の第III相試験となる。
生産体制については、千葉市内に自社工場を建設中である。国内での64Cuの製造および製剤化体制を整備し、将来的な量産や他パイプラインへの展開を視野に入れている。工場は創薬支援プラットフォームとしても機能し、今後の事業拡大の基盤となる計画だ。今回調達した資金は、第III相試験の推進、製造体制の確立、人材・組織体制の強化に充てられる予定である。
シリーズBラウンドの出資者には、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、DBJキャピタル、ペプチドリーム、大阪・関西万博活性化投資事業有限責任組合、三井住友信託銀行、ロッテホールディングス、野村スパークス・インベストメントなどが名を連ねる。事業会社、金融機関、大学系ファンドなど多様な出資者による支援が、事業化や生産体制の構築を後押ししている。
今後は、64Cu-ATSMの国内承認・上市に向けた治験データの蓄積や薬事申請が主な課題となる。加えて、量産体制の確立や創薬支援プラットフォームを通じた新規パイプライン展開にも取り組む方針だ。
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