サプライチェーンの核 調達部門を「光り輝く部署」へ──A1Aが挑む製造業コスト競争力の再構築

サプライチェーンの核 調達部門を「光り輝く部署」へ──A1Aが挑む製造業コスト競争力の再構築

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自動車をはじめとする量産製造業の調達部門では、長らく担当者個人の知識や経験に依拠した材料調達が行われてきた。

自動車1台に使われる部品は約3万点とも言われ、サプライチェーンは長く複雑だ。多数のサプライヤーとコミュニケーションを重ねながら、効率的な調達によりコストを抑え、技術的要求に応える部品を調達し、数年間単位で安定供給を確保するのは容易ではない。

そのような中で現場では、異なるフォーマットの見積書や図面情報が飛び交い、担当者が過去の記憶を頼りに調達先を判断しているケースもあったという。

こうした課題に正面から向き合うのが、A1A株式会社だ。A1Aは2018年創業。ピボットを経て、2024年7月に自動車製造業向け調達データプラットフォーム「UPCYCLE」をリリースした。同社によると、現在は日本の大手自動車メーカーの多くに導入されているという。

2026年4月には、JAFCOをリード投資家とするシリーズBラウンドで総額約10億円を調達した。今回の資金はAI機能の強化や組織拡大に投じ、2028年までに国内自動車系企業への導入シェア30%、組織規模を現在の約4倍へ拡大することを目指す。

なぜA1Aは、量産製造業の中でも「調達」という領域に深く入り込むのか。代表取締役の松原脩平氏に、創業の背景からプロダクトの進化、今後の展望まで聞いた。

1%のコスト変動が、数十億円の差になる世界に特化する

──量産製造業の調達部門に着目した背景を教えてください。

松原氏:キーエンスで浜松地区の営業を担当していた頃、輸送機器の製造企業をよく訪問していました。その中で驚いたのが、同じ会社でも工場が違うと、同じ製品を異なる価格で購入しているケースが少なくなかったことです。当時は見積書も紙で管理されていて、会社全体で情報を一元管理するのが難しかった。そこに大きな課題感を持ちました。

実際に調達担当者が扱う情報の例(画像:同社提供)
画像:同社提供

キーエンスを退職した後にVCでの経験を積み、その問題意識をもとに2018年にA1Aを創業しました。

量産製造業は、調達改善のインパクトが非常に大きい業界です。自動車1台は約3万点、スマートフォンでも約1万点の部品で構成され、その多くを外部調達に頼っています。売上の6〜7割が調達コストになる企業もあり、仮に売上1兆円規模であれば、1%の価格変化が数十億円単位の損益に直結します。1円単位のコストにまで厳密に向き合う業界だからこそ、調達部門のデジタル化には大きな価値があると考えました。

市場として見ても、国内には約1200社、海外を含めると約8000社の量産メーカーがあります。現在は輸送機器メーカーを中心とした約250社に特化しており、国内主要完成車メーカーの多くに導入されています。

──一度、ピボットされたそうですね。

最初は、購買担当者80人ほどにヒアリングを行い、「業界横断で使えるデジタル見積プラットフォーム」をコンセプトにした「RFQクラウド」を2019年にリリースしました。製薬、機械、自動車、電子部品など幅広い業界から引き合いがあり、立ち上がりは順調に見えました。

ただ、実際に運用を始めると2つの課題が見えてきました。1つは、サプライヤーに情報入力してもらう必要があったことです。見積書のフォーマットが異なることで生じる調達部門の課題を解決しようと、指定のフォーマットに入力してもらう形式にしましたが、サプライヤーがその形式で返してくれなければ、データは蓄積されません。

もう1つは、業界ごとに調達の考え方が大きく異なっていたことです。たとえば製薬業界では、サプライチェーンの安定性を重視して複数社に発注を分散することがあります。一方、自動車業界では、基本的に最安値の1社を選定するケースが多い。つまり、同じ「見積」でも、解くべき課題や意思決定の基準が業界ごとにまったく違っていたんです。

このままでは、誰のどんな課題を解決するプロダクトなのかを明確に言えなくなると感じ、量産製造業、それも調達領域に絞ってピボットする決断をしました。

──UPCYCLEでは、データ入力の課題をどう解決しましたか。

ポイントは、バイヤー側にもサプライヤー側にも「入力する必要がない」設計にしたことです。現場に新たな入力負荷を求めると、どうしても運用が回らなくなる。そこで私たちは、A1Aのオペレーションチームが間に入り、バラバラのフォーマットで届く見積書をAIで読み取り、人の目による確認も行いながら、構造化データに変換する仕組みをつくりました。

加えて、メール連携も実装しています。DXを掲げる企業の中には、メールを「属人化の温床」として否定する考え方もありますが、私たちは逆でした。メールは世界中で最も広く使われている共通インフラです。現場の実態に合わせて、メールのやり取りそのものをデータ化するほうが現実的だと考えました。

実際、普段通りに見積依頼ややり取りをするだけで、自動的にデータが構造化され、UPCYCLEに蓄積されていくため、ユーザーが別途データ収集の手間をかける必要がありません。この設計は導入企業から非常に好評です。

メール連携に加え、AIが類似の部品を検索する機能などを搭載している。ホルムズ海峡閉鎖などの有事にも調達コストの変動をリアルタイムに可視化する機能を、2026年6月にリリース予定であるという。
メール連携に加え、AIが類似の部品を検索する機能などを搭載している。ホルムズ海峡閉鎖などの有事にも調達コストの変動をリアルタイムに可視化する機能を、2026年6月にリリース予定であるという。

──競合はいるのでしょうか。

国内外を見ても、私たちと同じ領域で正面から競合するプレイヤーは、ほとんどいないと認識しています。

私たちが向き合っているのは、年間100万個単位で生産される量産領域です。この世界では、部品1つあたり1円のコストダウンでも、年間で見れば100万円、1000万円、あるいはそれ以上の改善につながります。量産製造業に特化していること自体が、私たちの大きな特徴だと思っています。

深めるか、広げるか。A1Aはその両軸を追う

──今後の事業展開を聞かせてください。

大きくは「深める」と「広げる」の2軸で考えています。

まず深める方向では、1社あたりの契約規模を引き上げていきたい。調達部門だけでなく、より多くの業務や意思決定の場面で使っていただける状態をつくることで、1社あたりの提供価値を高めていきます。

一方で広げる方向では、現在の自動車・輸送機器から、電気、機械、住宅などへ対象業界を広げていきたいと考えています。最終的には国内約1200社の量産メーカー全体に対するカバレッジを高めていきたいです。

──プロダクトの拡張領域について詳しくお聞かせください。

製造業では、コストの6〜7割が設計段階で決まると言われています。だからこそ、調達部門が持つ実価格データを上流の設計にフィードバックし、コストをシミュレーションしながら設計できる環境をつくりたいと思っています。

調達部門は、技術情報とサプライヤ情報の交差点である(画像:同社提供)
調達部門は、技術情報とサプライヤ情報の交差点である(画像:同社提供)

さらに、下流にある物流コストや、部品のライフサイクル全体も視野に入れています。企画から量産終了までの間に蓄積される情報やノウハウを、個人の経験に閉じず、組織の資産として活用できる状態をつくりたい。そのための基盤としてUPCYCLEを育てていきたいと考えています。

業界を絞って深く掘るという判断は、汎用AIの台頭という観点から見ても正しかったと感じています。製造業の調達に特化したデータと文脈を持っていることが、私たちの強みです。「SaaSがAIに置き換えられる」という議論もなされている現在ですが、業界固有の知識と実データを積み上げ続ける私たちのアプローチは、その流れとは異なるところにあると思っています。

──最後に、製造業をどんな形に変えていきたいですか。

製造業そのものを変えていくという大きな目標はもちろんあります。ただ、まず私たちが実現したいのは、「調達」という部署をもっと光り輝く存在にすることです。

海外では、CPO(調達責任者)の役職が置かれるほど、調達は経営において重要な機能として認識されています。一方で日本では、調達という仕事の存在意義や重要性が、まだ十分に評価されていないと感じています。

これまでの日本では、ものづくりの力が強く、「良いものを作れば売れる」という考え方が一般的でした。しかしこれからの時代、自社だけで製品をつくり、競争力を維持していくことには限界があります。日本には、優れた技術や知見を持つサプライヤーが数多く存在しています。そうした力をきちんと取り込み、製品づくりに反映していかなければ、日本の製造業は厳しくなっていくと思っています。

だからこそ、調達はもっと注目されるべきです。私たちのシステムを使ってくださる調達担当の方々が、「調達が強いから、この会社は強い」と胸を張れる状態をつくりたい。その積み重ねが、調達力を強みにした日本の製造業の競争力につながっていくと考えています。

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