AI駆動型SCMで日本の中小企業が世界へ羽ばたく──VALANCEが描くビジョン


宇宙機器、ドローン、ロボティクス等の先端産業が注目を集める中、開発現場では、多品種・高精度の金属部品が求められることが多い。このような部品は少量生産で、開発の試行錯誤に伴って形状の変更も生じやすいため、一般的な量産ラインでは対応することが難しい。そうした部品の製造は熟練技術者の経験と知識に支えられており、納品まで数週間を要することもある。
NASAでも、部品製造のリードタイム短縮に資する先進製造技術の導入・開発が進められており、部品製作のリードタイムをいかに短縮するかが、先端産業の開発サイクル高速化の重要条件と見られている。
こうした課題に対し、部品製造をソフトウェアとAIで自動化することでリードタイムを短縮しようとしているのが株式会社YAMASTROだ。図面をソフトウェアにアップロードすると、自動で見積算出やG-code(マシンを動かすためのプログラム)生成を行い、5軸CNCマシン※による部品製造まで一気通貫で行う「ソフトウェア駆動の工場」実現を目指す。
2025年10月の設立から約4カ月、2026年2月にはシードラウンドでインキュベイトファンドを引受先とする1億円の資金調達を完了したと発表。
代表取締役の清水佑磨氏に、事業の核心や創業の経緯、今後の展望についてインタビューした。
※5軸CNCマシン:切削加工を行う工作機械の一種。XYZの直線3軸に、回転傾斜軸2軸を加えることで多方向に同時制御し、複雑な立体部品を高精度かつ効率的に加工できる。
──事業内容について教えてください。
清水氏:高精度な金属部品を、AIソフトウェアで高度に自動化された工場で製造することを目指しています。
従来は量産が難しかった「多品種・少量・高精度」の金属部品について、AIを活用した自動化によって効率的な生産を可能にします。
宇宙、ドローン、ロボットといった先端産業では、微妙に形状の異なる高精度な金属部品が数多く使われています。金属部品には鋳造やプレス加工で製造されるものもありますが、特に多品種・少量で高い精度が求められる部品は、切削加工によって作られることが多いです。こうした切削加工による製造プロセスはなお属人的で、部品の納品に時間がかかるため、開発側が試行サイクルを高速で回せない状況が続いています。
私たちは、この状況を部品供給側から変えたいと考えています。高精度金属部品を迅速に供給できるようになれば、宇宙、ドローン、ロボットといった先端産業の開発サイクルは大きく加速し、市場全体の成長にも繋がります。
工場を動かすソフトウェアは自社開発し、工場設備には最先端の5軸CNCマシンなど既存の設備を活用する予定です。自社で工場を保有・運営し、部品製造を担うビジネスモデルになります。ソフトウェアと加工マシンを垂直統合することで、他社が追いつけない製造能力を持つことが差別化の源泉になると考えています。
──なぜ今まで高精度金属部品の量産が難しかったのでしょうか。
マシンで部品を実際に切り出す工程にかかる時間はそれほど長くありません。問題は加工を始める前にあります。図面を確認し、見積を算出し、G-codeを作り、製造の段取りを整える。この工程に数週間を要することもあります。また、これら全工程が熟練技術者の判断に依存していて、ノウハウは彼らの頭の中にある。技術者の高齢化も進む中で、私たちはそうした高精度金属部品製造のノウハウが失われてしまうリスクにも直面しています。
私たちは、熟練技術者の知識や判断をソフトウェアとして再現し、AIによって継続的に改善していく仕組みを作ろうとしています。図面をアップロードすればAIが自動で見積や効率的な製造工程を割り出す。それを担当者が承認すれば、すぐにG-codeが生成されてマシンが動き始める。そういうフローを実現したいと考えています。

──教師データはどのように取得するのでしょうか。
熟練技術者の判断とそれを裏付ける知識をまず言語化するところから始めます。熟練技術者は図面を見た瞬間に、「この素材でこの形状なら、この工具を使ってこう削るから見積はこれぐらい、G-codeはこうなる」という一瞬の判断をするのですが、そうした暗黙知をまずルールベースのソフトウェアとして再現する。「素材の厚みが3ミリ以上ならこのプロセス、以下ならこちら」というシンプルな分岐から始めていくイメージです。
ルールベースで何かしらのアウトプットが出るようになれば、それが学習データになります。それにAIを組み込み、製造を続け、製造データを蓄積していきます。熟練者による修正や実際の加工データをもとにフィードバックループを構築することで、見積やG-codeの精度・速度も上がっていく。「作れば作るほど賢くなる仕組みを工場に組み込む」ということを目指していきます。
参考にしているのは、航空宇宙・防衛向けの精密部品を、AI・自動化・ロボティクスで量産するアメリカのHadrian社です。同社は、シードで約1000万ドルを調達し、工場設備を最初に作り実際の加工データを学習に活用しています。私たちはまず、熟練者の頭の中をソフトウェアに落とし込み、次回以降のラウンドで実際の加工マシンを購入して実加工データによるフィードバックループを構築することで、彼らが行った手順をいくつかのステップに分けて達成しようと考えています。

──ソフトウェアはどのような加工マシンにも対応できるのでしょうか。
G-codeはメーカーどころか機種によっても仕様が異なります。あらゆるメーカーに対応しようとするとパラメータが膨大になりすぎて、開発が発散してしまう。そのため、まずは1社、1機種に絞り、それに対応するソフトウェアを開発する予定です。シリーズAの段階ではDMG森精機やヤマザキマザックの機械を主に検討しています。データがマシン内に閉じずに外部と連携できることが、採用する機械の一つの条件となります。製造データのフィードバックループが回らなければ、私たちのモデルが成立しないからです。
今後、マシンの調達やソフトウェアの開発という面でメーカーとの協業も検討していますが、そこは開発プロセスを考慮し慎重に判断したいと思います。
──競合優位性については。
高精度金属部品を作ること、つまりアウトプットだけで見れば、町工場から大手メーカーまで競合はいくらでもいます。ただ、AIソフトウェア駆動の工場で自社製造するプレイヤーという意味では、国内には存在しない。
製造業のスタートアップの多くは、受発注管理や調達フローの効率化ソフトを提供しています。それは勿論大事なことですが、製造のコアは「どう作るか」のはずです。そこをソフトとAIで再設計してマシンとつなぎ、実際に5軸切削加工を前提とした複雑形状の金属部品を作るところまでやろうとしているプレイヤーは、少なくとも私たちの認識する限り、国内に見当たりません。
──市場規模と成長性をどのようにご覧になっていますか。
まず最初にアプローチしたいのは、宇宙、ロボット、ドローンなど新興産業の領域です。各領域で必要とされる高精度な金属部品の市場規模を合わせて試算すると、現状で約5000億円規模、5年後には1兆円を超える水準になる見通しです。自動車など既存の大型市場はまだ視野に入れていません。新しい産業が生まれ続けている以上、対象市場はこれからも広がっていくと考えています。
──清水様の創業に至った経緯を教えてください。
新卒でモルガン・スタンレーに入りましたが、正直あまり幸せじゃなかった。もともと憧れていたのは、スポーツ選手や起業家のような、リスクを取ってその道で生きていくと決めた人たちです。自分でも何かやらなければと思い、比較的時間を確保しやすい企業に転職してキャリアの方向性について考えました。
大学院ではAIや機械学習の研究もしていて、技術的な素地はありました。
ただ当時の機械学習は、写真に「犬」か「猫」かのラベルを大量に付与してようやく判別できるようになる、そういうレベルだった。今は生成AIが登場し、人の判断に入り込めるような臨界点に来たという感覚が、ここ1〜2年でありました。それが起業の背中を押した理由の一つですね。
その後、東京大学の起業家プログラムFoundXに入ったのが昨年の3月ごろです。そこでメンターからHadrian社を紹介してもらった瞬間に、「面白そうだ、こんなことが実現できたら最高だ」というワクワク感があった。この感覚を大事にしようと決めて、現場の方々やVCと対話しながら仮説を磨いていき、インキュベイトファンドとのシードラウンドにたどり着きました。
──今後のロードマップについて教えてください。
ロードマップとしては、段階的に技術開発と生産体制の構築を進めていく考えです。
まずシード期では、熟練技術者の暗黙知をソフトウェアに落とし込むことに集中します。ソフトウェア開発には、早くて1〜1.5年程度を見込んでいます。現在、ソフトウェアの開発を進めるため、熟練技術をソフトウェアに落とし込む “製造プロセスアーキテクト”とソフトウェアエンジニアの2名の創業メンバーを募集しています。
次にシリーズAでは、4〜5億円規模の資金調達を想定しており、加工機を導入してシード期に開発したソフトウェアと統合します。これにより、実際の無人加工を実現し、リードタイム短縮の効果を検証します。
その後のラウンドで工場を建設し、さらに先のフェーズでは工場拠点を拡大していく計画です。
本格的な製造開始までの期間は、最短で3〜4年、長ければ5年程度になると見ています。
──事業展開については。
初期には、宇宙やドローン、ロボットといった新興産業のスタートアップにアプローチしていきます。新しいものへの抵抗が少なく、「早く部品を届けてくれるなら試してみよう」となりやすい。自動車メーカーや既存の大手は安定性と信頼を何より重視するので、新しいプレイヤーが入り込むのは難しいです。
まずは新興産業で実績を作りながら、徐々に対象を広げていく。その先には海外展開も視野に入れています。競合としてHadrian社が存在するため、アメリカやヨーロッパよりも、アジアが現実的なターゲットです。ソフトウェアとマシンさえあれば、熟練技術者の育成をすることなく工場を複製できるというモデルの強みが、海外展開でこそ生きてくると考えています。
──最後に意気込みをお聞かせください。
製造業のスタートアップは、どう物を作るかというコアな部分ではなく、受発注や在庫管理など、周辺の効率化に集中してきた印象があります。私は逆で、ソフトウェアとAIを前提にした工場を作り、製造業を再定義したい。人手が8を担い、ソフトウェア・AIが2を担うというのが従来の発想なら、私が目指すのはその逆です。ソフトとAIが8〜9割を担い、人が介在するのはエラー対応など最小限の場面だけ。
Hadrian社がアメリカでそれを実証しつつあります。同じことが日本でもできないはずがない。あとは創業者である私自身がどれだけやり切れるかです。10年後、20年後に製造業のスタンダードと呼ばれるものを、一部でも作れたらと思っています。

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