AI×フィジカル領域の勝機とエコシステムの進化──「スタートアップの成長はどこへ向かうのか 2026 春編」

AI×フィジカル領域の勝機とエコシステムの進化──「スタートアップの成長はどこへ向かうのか 2026 春編」

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KEPPLE編集部
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2026年春に開催された「B Dash Camp」。カンファレンス冒頭の注目セッションとして、「スタートアップの成長はどこへ向かうのか」が行われた。本セッションには、衆議院議員の小林史明氏、野村證券の武田純人氏、ソフトバンクの宮澤弦氏が登壇。モデレーターはB Dash Venturesの渡辺洋行氏が務めた。

強烈な二極化が進むグロース市場

セッションの冒頭、モデレーターの渡辺氏から提示されたのは、現在のグロース市場におけるパフォーマンスの二極化だった。AI関連やディープテック企業への期待が高まる一方で、かつて市場を牽引してきたSaaS企業への評価は、相対的に厳しさを増している。

野村證券の武田純人氏
野村證券の武田純人氏

武田氏はこの現状について、次のように説明する。 「日経平均とグロースで明確にパフォーマンスが二極化しているなと。カテゴリーで見ても、評価されているところと、そうではないところが二極化している。これに対してどう立ち向かっていくかがポイントだと思っています」

未上場市場では、個々の資金調達額は大きく崩れていないものの、調達件数は2022年をピークに減少していると、渡辺氏は指摘。投資対象の「絞り込み」が起きており、特にディープテックに資金が集中する傾向は当面継続すると述べた。

B Dash Venturesの渡辺洋行氏
B Dash Venturesの渡辺洋行氏

こうした市場環境の中で、企業が成長の「次の一手」として選んでいるのがM&A戦略だ。渡辺氏は、上場企業の中でM&Aに注力する姿勢を明示する企業が増えていると指摘。あわせて、MBOの増加にも触れた。上場企業が資本市場との向き合い方を見直し、再成長のための選択肢を模索する動きが広がっていることが示唆された。

議論は、驚異的な成長を遂げるOpenAIやSpaceX等、米国のトップ企業との差にも及んだ。

渡辺氏は「(AIや宇宙など)これから日本でもしっかり取り組んでいこうとしている分野で、アメリカと比べた桁の差が本当に大きい。企業価値で見ると、100倍近い差がついている」と、日米のスケールの違いに言及した。 

二極化と選別が進む株式市場、M&Aを通じた業界再編の動き、そして米国との圧倒的なスケール差。

日本のスタートアップはこの環境をどう捉え、いかにして戦い、新たな産業を創出していくべきか。その具体的な「勝ち筋」と、国を挙げたエコシステム強化の展望に焦点を当てた議論も交わされた。

「フィジカルAI」と周辺産業への波及

圧倒的な資本力でAIの基盤モデルやインフラへの投資を進める米国に対し、日本が取るべきアプローチは何か。議論の中で浮かび上がったのが、AIをソフトウェアの世界に閉じず、製造業やロボティクス、現場実装へと広げる「フィジカルAI」の可能性だ。

AI OSや基盤インフラで米国勢と正面から競うのではなく、日本の強みを持つ産業領域にAIを組み込み、バーティカルなソリューションとして外需を取りに行く。その方向性が、日本の勝ち筋の一つとして示された。

ソフトバンクの宮澤弦氏
ソフトバンクの宮澤弦氏

特にロボット産業において、宮澤氏は「安川電機、ファナック、そしてソフトバンクが買収したABB(ロボティクス事業)という世界のトップ3が日本資本になったことは大きい」と指摘。さらに、産業ロボット分野では中国製品が排除される傾向にあるため、西側諸国としての「地の利」を活かせるポテンシャルが十分にあると語った。

オンラインで登壇した小林氏は、国が重点的に取り組むAIを含む戦略17分野について、「(戦略17分野に投資していけば)、地方に工場やデータセンターをめちゃくちゃ建てることになる。だから建設とか電気工事といった領域も実は成長産業になってくる。(戦略17分野から)派生する分野にもぜひ注目してもらいたい。特にAIは産業の裾野が広いので、日本で強みを発揮できる会社も多いのではないか」と、AIやディープテックの進化に伴い、データセンターの建設や電気工事といったインフラを支える周辺産業にもビジネスチャンスがあることや、地域活性化の可能性について示唆した。

官民連携で描く「意思ある楽観」の未来

渡辺氏は、AIや宇宙に莫大な資金が集まるアメリカとの差を念頭に、「日本でも新しい分野への投資が進んでいるのは良いこと」と述べた上で、日本でもディープテック企業の成長が経済を牽引していくとの見立てから「悲観はしていない」と述べた。 

武田氏は、成長企業のバリュエーションのつき方について「スピードに対してプレミアムがつくか、成長の品質に対してプレミアムがつくか、二通り」とした上で、半導体など、現在進行形で高い成長率を示す領域では、成長スピードそのものにプレミアムがついていると指摘。一方で、SOMが明確に見えており継続的な成長が見込まれる企業には、「成長の品質」に対するプレミアム評価がつくと説明した。同氏は、これらを踏まえた上で日本企業各社がどのような成長ストーリーを描くのかが重要になると語った。

セッションの終盤では、日本のエコシステム全体を底上げするための国の最新政策も共有された。小林氏からは、スタートアップの初期売上を創出するためにSBIR(中小企業技術革新制度)を「補助金モデル」から、国や自治体による発注に近い「委託型モデル」へ見直す方針や、大企業からのカーブアウト支援、そして買い手側のリテラシーを高めるための「M&Aガイダンス」の策定などが挙げられた。

激変するグローバル環境下で、日本のスタートアップエコシステムが直面する壁は決して低くない。しかし、登壇者らは一様に未来への期待を口にした。宮澤氏は、AI領域における日本の戦い方について「日本は後出しじゃんけんの匠になるべき」とユニークな表現で提言する。

「AIのスタートは多少遅れたが、その分『いいものを選んで全力でやる』ということができるだろう。しかし、AI実装がこれ以上遅れると5年、10年でものすごい差が開き、じゃんけんにも参加させてもらえなくなる。今がまさに動くべきとき」と、即座のアクションを促した。

最後に小林氏から会場の起業家たちへ、力強いメッセージが送られた。

「なんとなく悲観から入っちゃいましたけど、悲観は気分、楽観は意志で勝ち取れますから。みんなで楽観を勝ち取りに行きましょう」

今ある日本のアドバンテージを活かせば、次の一手は必ず出てくる──。そんな熱気と確信に満ちた空気とともに、セッションは幕を閉じた。

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