製造業の見積業務をAIで効率化する匠技研工業、「Pre-DX」から始めるデジタル化

製造業の見積業務をAIで効率化する匠技研工業、「Pre-DX」から始めるデジタル化

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工場経営DXシステム「匠フォース」を開発する匠技研工業が、シリーズAラウンドにて第三者割当増資による5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回のラウンドでの引受先は、ファーストライト・キャピタル、Angel Bridge、アニマルスピリッツ、ジェネシア・ベンチャーズ、静岡キャピタルと個人投資家。

匠フォースは、製造サプライヤー企業向けの工場経営DXシステムだ。「見積」業務に軸足を置き、図面管理から原価計算までをオールインワンで完結する。図面をもとに過去の類似案件の情報を検索するなど、AIが担当者の仕事をアシストし、適正で効率の良い見積業務を支援する。

図面イメージ図
図面データをもとに、AIが自動で図面情報をシステムに登録する機能も備える

匠フォースは2022年9月にリリース。ARRは1億円を突破した(2024年12月時点)。2030年には4000社への導入を目指している。

今回の資金調達により、製造業特化AI(Vertical AI)「匠フォースAI」の開発にも本格着手する。

代表取締役社長 前田将太氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

まずは業務適正化支援を。「Pre-DX」から丁寧に進める製造業界改革

―― 匠フォースで解決を目指す課題について教えて下さい。

前田氏:製造業界の市場規模は100兆円から120兆円といわれており、大きく分けて、完成品メーカーとサプライヤーという2つのプレーヤーが存在します。前者は自動車メーカーのように完成品を販売する企業で、後者は、メーカーに対して部品を供給する企業です。製造業市場の99%をサプライヤーが占めています。

サプライヤー企業が抱える課題として、人手不足や技術承継、原価高騰と商慣習による利益減少など、取り組むべき課題はたくさんあります。中でも当社が注目したのは、見積や原価計算、値決めの難しさです。

製造業では必ず図面を見て、部品の形状や寸法、許容される誤差の範囲、材質などを確認しながら、コストを計算します。どの機械を使うかを加味した工程設計も考慮する必要があり、加工経験が必要です。さらに、外部のパートナー企業に委託する範囲を見極めて、希望納期や取引先との関係値を考慮して見積を行います。

見積はベテランでないと対応できずに属人化していたり、非効率だったり、多くのサプライヤー企業に共通する課題でした。まずは見積業務のDX化を進めることで、大きな課題解決の一歩になると考えています。

―― 製造業にはアナログなイメージもあります。どのようにシステム導入やDXを進めていくべきでしょうか。

DXが上手くいかないという話もよく聞きますが、原因は誤った順序で改革を進めてしまう点にあると考えています。まずはDXに向けて、オペレーション自体を見直して「Digital-Ready」な状態を作るのが最初です。これを我々はPre-DXと呼んでいます。デジタルのベースがない状態でDXやAI活用に取り組んでも、業務に落とし込めるはずもありません。

そのため当社では、デジタルを前提とした業務プロセスを構築するところから伴走支援しています。どんぶり勘定になっている原価計算のロジックを見直したり、20年前から変わっていなかった見積単価を見直したりと、DXの下地を整えなければ始まりません。それからようやく、システムの活用による効率化に着手すべきなのです。

製造業変革ロードマップ
前田氏は業務プロセスを適正化する「Pre-DX」の重要性を強調する

匠フォースなどのSaaS活用でデータが溜まり「AI-Ready」な状態となれば、高度なAIによる飛躍的な生産性向上を目指せるわけです。それまでの前段階の苦労が大きく時間がかかっても、それを支援するのがベンダーとしての責任だと思っています。

スタートアップスカウト

サプライヤー企業の課題解決で日本のものづくりを健全化

―― 匠フォース開発のきっかけは。

私は法曹家系で育ったのもあり、弁護士を志して東大の大学院で学んでいました。東大がスタートアップの育成・輩出に力を入れて取り組んでいたこともあり、社会課題を解決する手段としてスタートアップという手段があることを知りました。それから学部時代に傾倒したラクロス部の同期とビジネスコンテストに出て、高評価いただいたことが創業のきっかけです。

代表取締役社長 前田将太氏

創業当初は、教育や飲食などさまざまな分野で事業を立ち上げてはピボットを繰り返しました。しかし、インパクトの大きい社会課題を解決したいと強く思うようになり、すべての事業を撤退します。その後、レガシーな課題を抱えていそうな業界や企業をとにかく訪問しまして。製造業の現場を見ると原価計算や見積の課題が大きかった。敷居は高いと思いつつも、課題の大きさから製造業マーケットに踏み込むことを決めました。

―― サプライヤー企業の課題を解決するインパクトはどのように考えていますか。

製造現場では、1円でも安く1秒でも速く製造できるよう日々努力を重ねています。それが、値決めを1%ミスしただけで吹っ飛んでしまいます。原価計算が不十分だと、作れば作るほど赤字になってしまうケースもあります。サプライヤー企業にとって見積は、経営において非常に重要なのです。

さらに、多くが中小企業であるサプライヤー企業は、取引の優位性で、大手の多いメーカー企業に劣ります。原価が高騰する昨今でも、業界の慣習として常にコストダウンを求められるため、サプライヤー企業は難しい立場に置かれています。利益率がどんどん低下し、必要な設備投資やIT投資ができず、経営難に陥ることも懸念されます。

日本のものづくりを支えているのはサプライヤー企業であると言っても過言ではありません。そんなサプライヤー企業の業務を改善し、フェアに取引できる未来を作っていくことは、日本経済に大きな影響を与えると考えています。

ビジョンはサプライチェーンを横断した構造改革

―― 今後の展望を教えてください。

目先2~3年では、現場で本当にコアとなるデータを活用するソリューションを提供していくため、さまざまなデータ連携を図っていくことが必要と考えています。自社のみならず、外部の生産管理システムを手掛ける企業様とも協力しながら進めていきます。

定量目標としては、2030年時点でARR120億円、導入社数4000社を目指します。市場の2%でこの規模なので、ポテンシャルの大きいマーケットです。

さらに先を見れば、我々が「IX(Industrial Transformation)」と呼んでいる産業全体の改革を目指していきたいです。ものづくりは1社だけでは完結しません。会社単位ではなく業界全体を横断して連携することで、サプライチェーン全体の業務効率を強化することが、私たちの描く未来ビジョンです。

―― 最後に一言お願いします。

製造業と聞くと馴染みのない業界だと思うかもしれません。しかし身の回りを見渡せば、スマートフォンや自動車、家電など、メーカーによって製造されたものが溢れています。私たちの生活は製造業によって支えられているのです。

そんな製造業の課題を解決することは、日本経済に大きなインパクトを与えます。今年は採用や組織作りにも注力するので、私たちの解決する課題やマーケットに興味を持った方はぜひご連絡ください!

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