FAVOLIST5が1.1億円調達、パーソナルAIコンシェルジュ「Lovvit」で次世代エンタメ市場に参入

FAVOLIST5が1.1億円調達、パーソナルAIコンシェルジュ「Lovvit」で次世代エンタメ市場に参入

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FAVOLIST5株式会社は、AIによる感情理解を基盤とした次世代文化インフラの構築を目指すスタートアップだ。同社が開発する「Lovvit(ラビット)」は、ユーザーの「好き」を深く理解し、パーソナルAIコンシェルジュとして機能するサービス。従来のレビューサイトやSNSが抱える信頼性の問題を解決し、個人の価値観に寄り添った新しいコミュニケーションプラットフォームを提供している。

同社は2025年7月30日、J-KISS型新株予約権の発行および城北信用金庫からの融資を含むデットファイナンスによって、総額1.1億円の資金調達を実施したと発表。投資家には孫泰蔵氏、元日本マイクロソフト社長の古川享氏、佐藤航陽氏(株式会社スペースデータ代表取締役CEO)、東海オンエアの福尾亮氏などの著名エンジェル投資家が名を連ねている。

今回、代表取締役の有田雄三氏にサービスの独自性、創業背景、そして海外展開への戦略について話を聞いた。

TOP3ランキングで価値観を分析

——御社の取り組む事業について教えてください。

有田氏:私たちは自社事業を「AI時代の文化インフラ」と位置づけています。会社のミッションは「好きでつながる世界をつくる」ことです。

具体的には、「Lovvit」という次世代SNSを開発しています。これは従来の星評価やレビューとは全く異なる「TOP3ランキング投稿」を核とした特許技術により、ユーザーの価値観や嗜好を深く理解するプラットフォームです。現在は映画ジャンルでベータ版を展開しており、将来的には飲食店、音楽、書籍、旅行、アートなど様々な分野への拡張を予定しています。

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自分以上に自分の「好き」を理解するAIコンシェルジュが育つ

最終的な目標は、ユーザー一人ひとりの「好き」を本人以上に理解する、エンタメ特化のパーソナルAIコンシェルジュを育成することです。

——なぜ「TOP3ランキング」という形式にこだわるのでしょうか。

単なる星評価では見えない、その人独特の価値観を捉えるためです。例えば、レビューサイトで3.3点のお店が自分にとっては1位で、3.6点のお店が3位ということは日常的にありますよね。

TOP3ランキングを作る時、ユーザーは自分の体験を俯瞰しながら順位付けをします。3位と2位、2位と1位を分ける判断基準こそが、その人の価値観の核心部分なんです。私たちはAIでこの価値観の差分を分析し、その人だけの「好き」を理解するコンシェルジュを育成します。

このサービス自体が高品質なデータ収集システムでもあります。ユーザー同士がコミュニケーションを取りながら「人生を変えた映画TOP3」「一生忘れられない寿司店TOP3」といったランキングを投稿することで、感情に基づいた生きたデータが蓄積されていく。このクレンジングされたデータがあるからこそ、精度の高いAIコンシェルジュが実現できるのです。

——AIとの会話機能や音声UIについても教えてください。

映画好きの友達とチャットするかのように、AIとの会話が可能です。AIがレビューを作成してくれるだけでなく、自分では言語化できなかった感情も言葉にしてくれる機能を搭載しています。文章が苦手な方でも、AIが問いかけることで、心の奥底にある熱い想いを一緒に紡ぎ出してくれます。

音声入力にも対応しており、今後は音声UIを大幅に強化していく予定です。カレンダーと連携することで、ユーザーが外食をした際にAIが能動的に話しかける機能も想定しています。

ベトナム拠点で高速開発を実現

——ベータ版を利用しているユーザーの反応はいかがでしょうか。

先週だけでも400ユーザーほどに参加いただき、活発にフィードバックを収集しています。ベトナムの開発チームとリアルタイムで連携し、日々改修作業を進めているところです。

具体的なフィードバック内容としては、「マイアーカイブ」という視聴済み映画の登録機能の操作性改善や、ゲーム性の強化などがあげられます。

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コメント欄を廃止し、価値観の違いは新たなTOP3投稿で表現、『Mee!!』機能で対立ではなく「違いを楽しむ」文化を醸成

特に、単発のランキング投稿で終わらせるのではなく、「3つのテーマ別ランキングを投稿すると新機能が解放される」「10個投稿すると特別な機能が使える」といったプログレッション要素の導入を求める声が多数寄せられました。また、「TOP3ランキングをより手軽に投稿できる仕組み」への要望も数多くいただいています。

——ユーザーの参加方法や運営への関わり方について教えてください。

現在は招待制を採用しており、既存ユーザーからの「テーマ指定バトン招待機能」による招待が特徴です。

このバトン機能は私たちの特許技術の一つです。既存ユーザーがアクション映画のTOP3を投稿する際、システムが「このジャンルに詳しい友達2人にバトンを渡しませんか」と提案します。招待を受けた方には「あなたの価値観を信頼している○○さんが、あなたのアクション映画TOP3を聞きたがっています」というメッセージが届く仕組みです。この機能により、各分野の専門性を持つユーザーが有機的に集まり、高品質なコミュニティを形成できています。

運営面では、徐々にガバナンス投票権をアクティブユーザーに配布し、将来的にはユーザー主導の民主的な運営体制への移行を目指しています。

広告に依存しない3つの収益軸

——既存サービスとは異なるビジネスモデルを目指されていますね。

現在存在する様々なレビューサイトは信頼性の問題を抱えています。グローバルでは4人に1人がレビューを信じておらず、74%のユーザーが広告に疲弊している状況です。日本でもXの情報を信用している人は19%しかありません。

そこで私たちは、広告やアフィリエイトを一切排除した、純粋な「好き」に基づくおすすめデータベースの構築を目指しています。これにより、商業的な意図に左右されない、本当に信頼できる情報プラットフォームを実現したいと考えています。

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広告もアフィリエイトも完全排除した信頼のプラットフォーム

——具体的な収益化の方向性を教えてください。

大きく分けて3つの収益軸を考えています。

1つ目は、ユーザー主導のCtoCモデルです。プロのナレーターとコラボレーションして音声コンテンツを作成する際の手数料収入を想定しています。これは中東で成功している音声SNS「Yalla」を参考にしたモデルです。Yallaは月間アクティブユーザー数4460万人、年間売上約467億円を実現しており、広告一切なしでギフティングや投げ銭がメインの収益源となっています。

2つ目は、プレミアム機能のサブスクリプションです。有料会員になることで、AIコンシェルジュの高度な機能を利用できるようになる仕組みです。

3つ目は企業向けマーケティングリサーチです。例えば化粧品会社が関東圏の20〜30代女性に対してマーケティング調査を行いたい場合、該当するユーザーにインセンティブを提供して「これまで使ってよかったファンデーションTOP3」といったランキングに答えてもらい、その際に手数料をいただくというモデルです。

エイベックス出身CEOの創業背景

——代表はもともとエンタメ業界出身ですね。

エンターテインメント業界に長くいた経験から、人の「好き」という感情が持つパワーの大きさを実感していました。これは本当に尊い感情だと思っています。

創業は2020年ですが、きっかけはコロナ禍でした。国や人々がどんどん分断されていく状況を目の当たりにして、「好き」という感情で人と人が繋がる社会と世界を、自分たちなりの方法で実現したいと考えたのがスタートでした。

有田雄三氏 写真
エイベックスでは、音楽プロデューサーやクリエイティヴディレクターとして、数多くのヒット曲に携わってきた有田氏

私は元々、音楽やエンターテインメントに魅了されてエイベックスに入社し、音楽プロデューサーとして活動していた経験があります。目の前でファンの人たちを喜ばせたい一心で、良い楽曲やライブの制作に取り組んできました。

エンドユーザーや熱狂的な「好き」を持つ人たちを間近で見ながら、その人たちと一緒に何かを作り上げてきた経験が、今のサービス開発の原点になっています。

——開発拠点をベトナムに置かれた背景について教えてください。

孫泰蔵さんから「Web3でサービスを作っているなら、ベトナムを見ておいた方がいい」とアドバイスをいただき、2023年に初めてベトナムに行ったんです。実際に現地を見て、これは確実にポテンシャルがあると確信し、そこから急遽現地での立ち上げを決めました。

ベトナムは仮想通貨市場で世界2位の規模を誇り、国民の21.2%が仮想通貨を保有しています。また音声コンテンツの利用も活発で、週1時間以上音声コンテンツを聞く国民が47%に上る。政治的安定性も高く、東南アジア展開の拠点として最適と判断しました。

現在、ベトナムには私を含めて9名のチームがあります。開発6名、バックオフィス1名、マーケティング1名という構成です。立ち上げ当初からAIファーストな開発体制の構築に注力し、1年をかけてAIを完全に組み込んだ開発チーム体制を整えました。その結果、従来比で約50倍の開発スピードを実現し、ユーザーからのフィードバックを即座に改善に反映できています。

著名投資家が注目する「感情データ」という新領域

——今回投資していただいた方々との連携についても教えてください。

孫泰蔵さんと佐藤航陽さん、お二人が描いている世界観と私たちの取り組みには非常に強い親和性があります。

佐藤航陽さんは現在のChatGPTを含めたAIについて、人間の論理的思考という表層部分、わずか5%程度の領域しか理解できていないと指摘されています。残り95%を占める感情や直感といった領域は、これまでデータ化自体が困難でした。

私たちは人の「好き」という感情データを、広告収益ではなくユーザー自身の生活を豊かにするために活用したいと考えています。このアプローチは、お二人が重要視されている未来像と合致しており、将来的な事業連携の可能性についても前向きな議論をさせていただいています。

——将来的な資金調達についても聞かせてください。

シードの調達については既に複数のVCからお声がけいただいているのですが、現在は慎重に検討している段階です。単純に資金を提供していただくだけでなく、信頼関係を築けるパートナーかどうか、そしてお金以上の価値あるリソースを提供していただけるかを重視して判断したいと考えています。

例えばジャフコアジアの渋澤さんが去年の12月に私たちのオフィスまで足を運んでくださいました。それほど情熱と興味を持って接してくださる方で、かつアジア全体への出資実績と豊富な出資先ネットワークをお持ちです。

今後資金調達を行うのであれば、彼のように、私たちのビジョンに共感し、事業成長に向けて本質的な価値を提供してくださる投資家の方々と組んでいきたいと考えています。

東南アジア経由で世界展開へ

——今後の展望と意気込みを聞かせてください。 

グルメジャンルについては、早ければ8月中、遅くとも9月にはリリースしたいと考えています。今後は、映画や飲食店だけでなく、「音楽」「書籍」「旅行」「アート」など、多様なジャンルへの展開も視野に入れています。

グローバル展開では、多くのスタートアップが欧米市場を優先する傾向にありますが、私たちは東南アジアに大きな可能性を感じています。人口が増え続け、今まさに成長余地のある市場です。同じアジア圏として感性も近く、ここでしっかりと基盤を築いたうえで、欧米への展開へとつなげていく。この順序が最も自然で、かつ有効だと考えています。

最終的な目標は、世界で最初に、かつ圧倒的にユーザーに支持される「エンタメ特化のパーソナルAIコンシェルジュ」をつくることです。私たちは、エンドユーザーの深層ニーズを理解し、テックとエンタメの両方に深く関与してきた立場です。だからこそ、誰にも真似できない価値を生み出せる。そう確信しています。

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