“弁護士AGI”の開発を進めるLegal Agentが描く、生成AI時代の企業法務とは

“弁護士AGI”の開発を進めるLegal Agentが描く、生成AI時代の企業法務とは

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生成AIを活用した法務サービスを提供するLegal Agentが、5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回のラウンドの引受先は、ANRIとBoostCapital。

Legal Agentは、企業法務の世界で活動する弁護士の朝戸 統覚氏が昨年10月に創業。AIの活用により、人材不足が叫ばれる企業の法務部門からのアウトソース業務を短納期で請け負うほか、M&A対応など従来の法律事務所の業務も手がけ、すでに30社近い顧客を抱える。

CEO 兼 代表弁護士の朝戸氏に、リーガルテックの活用に伴う課題や同社サービスの特徴、今後の展望について詳しく話を伺った。

「実務に耐えるリーガルテック」が生まれにくい理由

――企業法務の世界でAIの力が求められている背景は。

朝戸氏:まず、事業会社側では法務人材の不足が続き、優秀な人材の取り合いが起きています。多くの企業で事業部からの質問対応や契約書レビューといった業務をアウトソースする必要に迫られているものの、法律事務所にとってこうした業務は往々にして採算が合わず、引き受け先を見つけるのも一苦労です。また、法律事務所からのアウトプットは、指摘が細かすぎる、納期の面でも事業スピードに合わないなど、企業のニーズにマッチしていない傾向も見られます。

一方、M&A対応や国際取引対応、不正調査などを担う法律事務所側では、業界全体で長時間労働が常態化しています。タイムチャージを基本とする弁護士費用は、発注側にとっては不透明な面もあることからコストカットの対象になりやすく、事務所側は実労働時間よりも少なく請求せざるを得ないケースが珍しくありません。仕事の性質上、ミスが許されないことに加え、ほぼ人力で業務が行われているため、労働時間の短縮が難しいのです。

――テクノロジーの活用が進みにくい理由は。

大前提として、弁護士以外の者が個別具体的な法律事務をしてはならないと解釈される弁護士法の規定があります。実際には、企業法務の現場で必要な知識・ノウハウの大部分が「個別具体的」な内容、例えば「この契約先の場合、特に注意すべき点は〇〇と〇〇」といった暗黙知で占められています。このため、各種のリーガルテックサービスでは、業務を効率化しようにも限界があるのです。

例えば、リーガルリサーチサービスは確かに関連書籍を検索する上では便利ですが、実務上、文献に依拠した回答で済む範囲はごく一部にすぎません。

契約書レビューのためのSaaSも、確認すべき個所の抽出はしてくれますが、それらの指摘の中から、業務上の文脈に応じて本当に必要な修正点を見極められる人材がいない限り、使いこなすことはできません。対応している契約書の種類も限られており、例えばスタートアップ投資に必要な投資契約書や株主間契約書などは含まれていないこともあります。

実用に耐えるAIを実現するには、現場の暗黙知を取り込めるクローズドな環境と、AIの提案内容を精査した上でサービス提供する弁護士資格者の存在が欠かせません。Legal Agentは、これらを満たす事業の具現化に挑んでいます。

――現在はどのようなサービスメニューを提供していますか。

法務のアウトソース対応のほか、M&A対応、登記関連業務、訴訟対応など一般的な法律事務所のサービスメニュー全般に対応しています。並行して、社内のオペレーションのAI化を順次進めており、法務アウトソースに関しては、すでにかなりの業務をAI化できています。

スタートアップスカウト

――実際の業務フローをご紹介ください。

まず顧客企業にて、SlackやTeamsなど普段使っているコミュニケーションツールに当社アプリをインストールいただき、AIを常駐させます。例えばSlackで契約書レビューを依頼する際は、ユーザーはSlack上のワークフローを活用して契約書の種類や当該契約における自社の立場などレビューに必要な情報をインプットし、契約書ファイルを添付します。すると、AIが瞬時にレビューを行い、結果を当社の担当弁護士に送付。弁護士は内容を精査して契約書ファイルに反映し、依頼者に納品します。一般の法律事務所では、3~5営業日かかることが多い契約書レビューですが、当社では基本、即日対応しています。

サービス開始当初は、そもそも法務担当者がいないことが多いスタートアップから導入を進めた後に、大量の業務で法務部門がパンクしているエンタープライズへと広げる計画でした。現在、狙い通りにスタートアップのクライアントが増えているのに加え、すでにエンタープライズでも数社に導入いただいており、想定以上の手応えを感じています。

正式版を今春ローンチ 日本を代表する“弁護士AGI”に

――起業を決めた経緯は。

弁護士になった当初から、いずれ自分の事務所を構えたい気持ちは持っていました。今回、リーガルテックのスタートアップとしての起業に至ったのは、前職であるスタートアップ法務を得意とする法律事務所に勤務していた際に、多くの起業家の方と交流するなかで、たくさんの刺激を受けたことが大きいです。結局外からサポートするだけでは飽き足らず、自ら起業する道を選びました。

企業法務における生成AIの活用は、まさに今、取り組みが始まったばかり。今後5年ほどのうちには、いち早くクローズドなナレッジを満載した社内AIツール、言わば“弁護士AGI”をつくり上げた法律事務所が勝ち残る時代が来るでしょう。私も早くスタートラインに立ちたい思いが募り、Legal Agentの立ち上げに踏み切りました。

――今回、調達した資金の使途は。

一部、広告展開も想定していますが、最優先したいのは企業文化の基礎を共につくる人材の獲得です。AIに精通したエンジニアと、企業法務に明るい優秀な弁護士をいかに集められるかが、当社事業の命運を左右すると考えています。

――今後の事業展開は。

今後AIでカバーできる範囲を拡大し、今春には正式版をローンチする計画です。その後、PMFが見えた時点でシリーズAの資金調達を行ってサービスのつくり込みを加速させ、一気に拡販を図りたいと考えています。

導入先は2年目は200社、3年目には300社程度を想定しています。サービス内容に関しては、M&A対応のような大規模案件は従来、弁護士の実労働時間がふくれあがりやすく、弁護士AGIが力を発揮しやすい領域と見ているため、対応できる弁護士も増やしつつ、当社の強みに育てたいところです。また、国内の企業法務市場は規模が限られることを踏まえ、将来的にはアジア進出も視野に入れています。

実務に耐えるAIの開発は、企業の法務部員の人材不足を解消するとともに、弁護士の業務を効率化し、健全な労働環境を実現するための最適解です。Legal Agentは、生成AI時代の企業法務をリードする存在を目指し、走り続けます。

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