EDGECORTIX株式会社

エッジ向け人工知能(AI)半導体の開発を手がけるEdgeCortix株式会社は、シリーズBラウンドの初回クローズを実施し、累計調達額が約150億円(1億米ドル)に到達したと2025年8月18日に発表した。今回の調達には、2024年末以降に採択された政府助成金も含まれている。出資元は国内外のベンチャーキャピタルや産業系投資家で構成されており、今後のグローバル市場展開および次世代AI半導体の量産体制の強化を目指す。
EdgeCortixは2019年設立のファブレス半導体スタートアップで、独自アーキテクチャによるエネルギー効率重視型AIアクセラレータと、ハードウェア・ソフトウェア協調型開発手法に基づく「MERA」コンパイラを軸に事業を展開している。MERAは、多様なAIモデルに対応しつつ、性能と省電力性の最適化を実現するソフトウェアツールであり、AI専用プロセッサとの組み合わせにより、ロボティクスや産業用IoT、通信インフラ、防衛・航空宇宙、自動運転など、低遅延かつ省電力が求められる領域への導入が進む。
創業者兼CEOのサキャシンガ・ダスグプタ氏は、半導体設計およびAIアーキテクチャ分野で豊富な実務経験を有する。設立以来、東京を拠点としながら、米国・インドにも技術拠点を展開することでグローバルな開発体制を整備してきた。EdgeCortixによれば、複数産業での導入実績が順調に進み、国内外の投資家や政府機関から事業成長性を評価されたことが調達拡大の背景となった。
エッジAI半導体市場は、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の普及、データセンターからエッジデバイスへのAI処理分散化などの動向を背景に、近年規模を拡大している。電力消費の増大がグローバルな課題となる中、従来のGPU型半導体に加えて、用途特化型のプロセッサ(ドメインスペシフィックアーキテクチャ)への需要が高まる。世界の AI アクセラレータ市場規模は、2024年に255億6000万米ドルに達すると推定され、2033年には2568億万米ドルに達すると予測されている。
海外では NVIDIA、AMD、Qualcomm、欧州の Graphcore、中国の Horizon Robotics などが競合となる。加えて、国内でもスタートアップや半導体IDHが競合として存在している。
今回のシリーズB調達には、新規投資家としてヤンマーベンチャーズ、NTTファイナンス、Pacific Bays Capital、SiC Power、Aero X Venturesが参加した。既存投資家のSBIインベストメントやGlobal Hands-On VC(GHOVC)も引き続き出資している。EdgeCortixは今回調達した資金を主力AIアクセラレータ「SAKURA-II」の量産対応、次世代チップレット型プラットフォーム「SAKURA-X」の開発および製造体制強化、グローバルサポート体制の整備などに充てる予定である。同社のチップレット戦略は、複数の半導体チップを組み合わせることで性能や拡張性を高め、様々な業界用途に適用することを目指している。
2024年末以降、経済産業省傘下のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による2件(合計約70億円)の大型プロジェクト採択を受け、研究開発リソースの強化が進んでいる。特に今年度採択されたプロジェクトでは、リアルタイム生成AIやエッジ端末でのオンデバイス学習を可能とする次世代AIチップレット「NovaEdge」の開発に注力している。今後は熊本県のJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)工場での量産も計画されており、国内サプライチェーンを意識した体制構築が進行中である。
実用化に向けては、RISC-Vベースのプロセッサや独自アクセラレータ、再構成型ソフトウェアの連携による高性能AI処理を、スマート工場や自律移動ロボット、防衛・宇宙分野、低消費電力IoT端末などに提供する方針を示している。エッジ向けAI半導体分野では、NVIDIA「Jetson」シリーズやQualcomm製品、国内勢ではルネサスエレクトロニクスの「RA」シリーズなどが競合するが、EdgeCortixはソフトウェア互換性や省エネ性能、オンデバイス学習対応を差別化の軸としている。
EdgeCortixは今後もシリーズBラウンドの追加クローズを予定し、2027年初頭を見据えた新製品投入計画や、合成AI、通信インフラ、スマートエッジ分野での商用展開強化を進めていく。半導体開発を巡っては、国内外のスタートアップや大手企業、政策当局、投資家による競争と協調が続いている。