「AIが受付、弁護士が監修」クラウドリーガルが描く、次世代法務のかたち

「AIが受付、弁護士が監修」クラウドリーガルが描く、次世代法務のかたち

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a23s株式会社が提供する「クラウドリーガル」は、生成AIと弁護士の連携によって企業法務の課題に取り組む新しい支援モデルだ。同社はこのたび、プレシリーズAラウンドにおいて総額1.6億円の資金調達を実施した。

本ラウンドのリード投資家は株式会社ANOBAKAで、日本生命グループのニッセイ・キャピタル、株式会社リコーのCVCであるRICOH Innovation Fundが参加している。

企業経営における法務体制の整備は不可欠だが、法務人材の確保やノウハウの偏在といった構造的な課題が横たわっている。クラウドリーガルは、契約書の自動生成と法律相談のオンライン化という二つのサービスを柱に、こうした課題をテクノロジーと専門家の力で解決しようとしている。

今回の資金調達に際して、代表取締役の﨑地 康文氏に、サービスの仕組みや創業の背景、そして今後の展望について伺った。

法務の外部委託で法務業界の人材不足に一石

―― クラウドリーガルの事業内容について教えてください。

﨑地氏:クラウドリーガルは、企業法務を外部から支援する「ALSP(Alternative Legal Service Provider)」に分類されるサービスです。従来の法律事務所とは異なり、テクノロジーを活用することで、より効率的かつ柔軟な形で法務業務を提供しています。

現在は、常時50名以上の弁護士がサービスに関与しており、広く協力いただいている専門家も含めると、そのネットワークは100名を超えます。社内法務部や顧問弁護士の機能を補完・代替できる体制を整えているのが特徴です。また、すべてのプロセスがオンラインで完結するため、地方でも首都圏と同等のクオリティでサービスを提供できます。

業務の初期段階、たとえば依頼内容のヒアリングや情報整理は、AIエージェントが対話形式で対応します。従来は弁護士の手間がかかっていたこうしたプロセスをAIが担うことで、業務効率が大きく向上しました。

CL画面
顧客からの依頼にAIエージェントが応答、最終的な判断は弁護士が行うことにより、業務の効率化と質を両立

もっとも、AIのみでは判断の正確性に課題が残るケースもあるため、最終的な内容確認や契約書の監修は弁護士が必ず行う仕組みになっています。効率性と信頼性のバランスを追求した設計が、クラウドリーガルの大きな強みです。

サービスはすでに無料ユーザー含めて5000社以上に利用されており、月額11,000円のベーシックプランでは、契約書の自動作成や一部の法律相談が利用可能です。

ーー具体的にどのような企業に使用されているのでしょうか。

個人事業主から上場企業まで幅広くご利用いただいています。特に中小企業は、社内に法務部がなかったり顧問弁護士が不在だったりするケースが多いので、我々が契約書作成や法律相談を一手に引き受けています。

最近では、エンタープライズ企業からの問い合わせも増えてきました。高度な専門知識が求められる法務部では、人材の採用難や人手不足が深刻化しています。加えて、契約書の作成・レビューにとどまらず、コンプライアンス対応や国際取引に関する法的確認など、業務範囲も広がっています。そうした中で、定型的な契約関連業務をクラウドリーガルにアウトソースすることで、法務部のリソースを戦略的業務に集中させることができるんです。

契約書作成画面
質問に答えれば契約書が完成、法務部の負担を極限まで軽減

AI×弁護士で効率と信頼を両立ーーALSP市場の可能性

―― 日本でいち早くALSPモデルを打ち出した企業と伺いました。

はい。当社は、日本におけるALSPモデルの先駆けとして、明確な形でサービス展開をスタートしました。今後は同様のモデルに参入する企業も増えてくると思いますが、私たちは初期からオペレーション面の整備に注力してきた点で、一定の優位性があると考えています。

具体的には、マニュアルの整備や、弁護士との対応フロー、連携体制の構築といった運用面の基盤を丁寧に作り込んできました。こうした「見えづらいけれど重要な部分」が整っているからこそ、安定した品質で継続的にサービスを提供できる体制が築けているのです。

ーー日本市場でのALSPの展望についてどう見ていますか。

ALSPは欧米では既に一般的なサービス形態として定着しており、日本国内でも近年その存在が徐々に認知され始めています。背景には、法務部門の人手不足や業務負荷の増大といった構造的な課題があります。

一方で、過去に注目されたAI契約書レビューなどのリーガルテックは、実務との乖離が課題視されるようになりました。法務の専門性の高さゆえに、AIだけでは正確な対応が難しく、最終的には弁護士によるチェックが必要となるため、かえって業務効率を下げてしまうケースも見られています。

その点、ALSPはサービス設計の段階から弁護士の関与を前提としており、AIと専門家が補完し合う体制を構築しています。契約書の作成や法律相談を一気通貫で完結できる点において、現実的かつ持続可能な法務支援モデルとして、今後さらなる普及が期待されます。

弁護士もクライアントも負担を感じない社会に

ーー起業しようと思った経緯を教えてください。

技術の力で日本企業をより良くしていきたい、そうした思いから、弁護士として主に知的財産法務に取り組んできました。

しかし、2016年からの海外勤務や、米国での留学経験を通じて、「知財を守るだけでは、企業の成長を本質的に支援することはできない」と感じるようになったんです。

帰国後は、医療系スタートアップのCOOとして経営に関わり、現場での事業立ち上げにも挑戦しました。その過程で、外部の法律事務所を利用した際に、煩雑なやり取りや対応の遅さ、費用対効果の不透明さといった課題に直面したのです。

こうした経験を通じて、スタートアップが法務を十分に活用できていない背景には、構造的な障壁があると強く認識するようになりました。自分自身が法務の当事者であり、課題の当事者でもあるからこそ、その解決に本気で取り組むべきだと考え、法務領域での起業を決意しました。

―― 資金調達の背景や使途について教えてください。

今回の資金調達では、まずクラウドリーガルのプロダクト強化を進めていきます。AIと弁護士がよりスムーズに連携できるよう、システムやワークフローを改善し、サービス提供のスピードと精度をさらに高める狙いです。

あわせて、知的財産デューデリジェンス(IP DD)のAI活用にも注力します。IP DDは、M&Aや資本提携の際に対象企業の特許や商標を調査・評価するプロセスですが、従来は数百万円単位のコストがかかっていました。当社の技術を活用することで、その費用をおよそ20万円程度まで抑え、より多くの企業にとって利用しやすいサービスに進化させていきます。

さらに今後は、国内だけでなく海外にも視野を広げていく予定です。海外の法律事務所と連携することで、日本企業が海外進出する際にもシームレスな法務サポートを受けられる体制を構築していきたいと考えています。

ーー今後の意気込みをお願いします。

弁護士業界はいまだに、上下関係の厳しさや長時間労働といった旧態依然とした慣習が根強く残っています。私たちは、そうした環境に風穴を開け、テクノロジーと仕組みの力で「もっと自由に働ける弁護士のあり方」を実現したいと考えています。

同時に、クライアントにとっても、法務がもっと身近で、必要なときにすぐ相談できる存在であるべきです。その両者をつなぐ新しい選択肢として、ALSPモデルを社会に根づかせていく。企業法務の常識を更新する。その第一歩を、私たちは確かに踏み出しています。

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