気候変動に耐える農業へ──WAKU、グルタチオン資材で1.8億円を調達

気候変動に耐える農業へ──WAKU、グルタチオン資材で1.8億円を調達

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株式会社WAKUが2025年7月、プレシリーズAラウンドにおいて総額1.8億円の第三者割当増資による資金調達を実施した。今回のラウンドの引受先はANOBAKA、慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)、朝日メディアラボベンチャーズ、ちゅうぎんキャピタルパートナーズ、AgVenture Lab、および個人投資家が名を連ねている。

WAKUは2022年設立のスタートアップで、植物由来の成分「グルタチオン」を活用したバイオスティミュラント(生育促進資材)の開発、製造、販売を手掛けている。グルタチオンは生体内で抗酸化作用を持つ物質として知られ、植物が持つ光合成活性やストレス耐性の向上に寄与する点が注目されている。WAKUではこの成分を独自に農業資材化し、農作物の高温耐性や収量向上への応用を進めてきた。既に埼玉県深谷市の大規模ネギ生産法人をはじめ、国内70件以上の圃場で実証実験や導入が行われている。

代表取締役の姫野亮佑氏は、バイオテクノロジーや農業関連分野での経験を持つ人物であり、WAKUの創業者でもある。創業以降、新素材の開発や営業基盤の構築に注力し、今回の資金調達により事業規模の拡大を図る。出資者によると、姫野氏の現場重視の姿勢と顧客開拓力が事業成長を支えてきたという。

WAKUのグルタチオン農業資材は、地球温暖化や異常気象の影響による農作物の高温障害や収量減、品質低下といった課題への対応策として開発されている。日本国内では2023年以降の猛暑によってコメや野菜の収穫量が減少し、農林水産省の統計によれば2023年のコメ収穫量は前年比約4%減、野菜でも2~3%以上の減少が見られた。加えて、農業現場では労働力不足や肥料・農薬価格の高騰といった課題も顕在化しており、生産効率の向上と持続可能性の確保が求められている。

こうした背景の中、近年注目されているのが「バイオスティミュラント」と呼ばれる新しいタイプの農業資材である。バイオスティミュラントは従来型の肥料とは異なり、作物の生理機能やストレス耐性を高めることで収量や品質の向上を目指すものだ。欧州ではバイオスティミュラントの法整備や普及支援が進み、国際的な市場規模も拡大中である。富士経済などによる市場調査では、世界市場は2028年までに年平均成長率11.8%で成長する見通しが示されている。日本国内でも農協やJAによるグリーントランスフォーメーション(みどりGX)政策の推進とあわせて導入検討が進められているが、国産バイオスティミュラント資材の開発・普及は進むが流通は限定的である。

WAKUは、グルタチオンの効果検証結果をもとに、気候変動の影響を受ける農家の具体的課題に応えるための製品開発、実証、普及体制の強化を進めてきた。今回調達した資金は、グルタチオンを活用した新プロダクトの研究開発、国内生産者向けの営業体制強化、そしてバイオスティミュラントの普及が進む欧州地域を中心とした海外展開準備の3分野に重点的に投入する方針だ。WAKUの資材は全国70件以上の生産者が幅広い圃場で試験導入されており、高温耐性の向上や苗の活着促進、根張りの強化などの効果が実地データとして報告されている。

農業資材分野では、国内外で多数の競合企業が存在する。国内では農薬・肥料大手が微生物資材や生理活性物質関連の研究を進めており、バイオスティミュラント領域へのスタートアップ参入も増えている。海外ではValagroやBiolchim(いずれもイタリア)、BASF(ドイツ)などがグローバル展開しており、市場競争は激化している。

WAKUは、今後の事業展開として農業領域以外にも林業、藻類培養、化粧品などヘルスケアやバイオ産業への応用も検討している。バイオスティミュラント技術の活用が、サーキュラーエコノミーや持続可能な産業創出といった社会的テーマに対してどのような役割を果たすかが焦点となる。

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