はじめに
植物は医薬品や生活用品の材料として古くから活用されてきたが、近年ではバイオテクノロジーの進歩により、これまで活用されていなかった植物の有用な成分を使用した新製品の開発が進んでいる。
market.us※によると、世界の植物市場の規模は2023年には1619億米ドルとなり、2033年までに約3126億米ドルに達すると予想されている。
植物市場には、ハーブ、スパイス、エッセンシャルオイル、植物抽出物など、幅広い植物由来の製品が含まれており、近年急速に成長している。これらの製品の中には、石油由来の化学製品や合成繊維の代替として機能し、環境負荷の低減することから注目を集めており、今後も成長が期待されている。
今回は、植物由来の製品や素材を開発するスタートアップについて触れる。
スタートアップ6選
ファーメランタ株式会社
企業HP:https://fermelanta.com
合成生物学を利用した独自の遺伝子導入技術により、植物由来の多様で複雑な化合物(二次代謝産物)を持続可能かつ安価に製造できる発酵生産プロセスを開発している。大腸菌などの微生物に多段階(20個以上)の遺伝子を組み合わせることで、これまで植物からしか抽出できなかった天然化合物の成分を人工的に生成する。
米国で研究が進んでいる分野ではあるものの、一つの微生物に20個以上の遺伝子の導入を可能にした技術は、他に類を見ない同社の強みである。この技術により、既存の医薬品・化粧品・健康食品の原料や、精製の難しかった生薬成分まで健康増進に寄与する化合物の開発が可能となった。
2023年6月には、シードラウンドにてBeyond Next Ventures、Angel Bridge、Plug and Play Japanを引受先とした第三者割当増資による2億円の資金調達を実施した。
株式会社ディッシュウィル
企業HP:https://dishwill.info
大豆などの植物由来原料を用いて肉に近い食感や味を再現する、プラントベースフードの製品企画を行う。パティやチャーシュー、ゆでたまご風食品などの食品を製造している。同社が製造するプラントベースフードは、国内五つ星ホテルのヴィーガン向けメニューへ採用された実績を持つ。大豆ベースのプラントベースフード製造には、素材となる粒状大豆たんぱくの生産など、中間の加工プロセスが発生する。
今後は、大豆を用いた食品の製品企画に限らず、大豆の生産や加工までを自社で新設する工場で行う計画だ。人口増加を背景とした食料不足が懸念される中、同社は環境変化に左右されない食品生産の仕組みを目指している。
2023年11月には、HAKOBUNE、TPRを引受先としたJ-KISS型新株予約権による資金調達を実施した。
株式会社NIL
企業HP:https://nil-co.jp
髪と頭皮のためのエイジングケアブランド「SUNA」を開発、提供する。SUNAは、白髪や髪のやせ細り、頭皮のダメージなどの現代の悩みに焦点を当て、「植物のチカラと最先端技術で、安全安心に健康的なエイジングケア」を叶えるための製品だ。一般的なナノ粒子よりさらに小さいサイズで、浸透・吸収されやすくなるようデザインした状態でナノ化するSNP(スーパーナノ粒子)技術が特徴。SUNA製品にはメラニンの生産を促進する効果があるオリジナル成分のタラタンニンを配合し、SNP技術で有効成分を毛根までダイレクトに浸透・吸収させることが可能となる。
2024年2月には、ヘアケアブランドSUNAから、髪の芯に着目した大人ケア「SUNA リペアシャンプー オーガニックゼン」を、応援購入サービス「Makuake」にて先行予約販売を開始した。
株式会社Circulife
企業HP:https://circulife.jp
山林を整備する際に間引かれた間伐材から環境負荷の低減に貢献する「木糸」を製造し、木材の繊維を原料とする糸「木糸」生地を製造する。間伐材は伐採したまま放置されることもあり、これらの間伐材を木糸として活用し、地域の林業の活性化やCO2削減を目指す。同繊維は、靴・服・カーテンなどの製品に用いられる。
2023年7月には、非加熱15秒で染まる草木染め染料「Circular Dye/サーキュラーダイ」を発売した。
Bioworks株式会社
企業HP:https://bioworks.co.jp
植物由来の新素材「PlaX」を開発する。PlaXは、サトウキビを原料とするポリ乳酸にBioworksが独自に開発する植物由来の添加剤を加え、品質と機能をアップデートさせた新しい合成繊維。植物由来のため石油を利用せず、また、燃やしてもCO2を発生しないため環境問題にも貢献する。
2024年1月には、Lavender Hill Capital、Purpose Venture Capital、ヤギ等を引受先とした第三者割当増資による4.15億円の資金調達を実施した。2024年3月には、取締役執行役員の坂本孝治氏が代表取締役社長CEOに就任した。
株式会社UniBio
企業HP:https://unibio-jp.com
植物内で作られるタンパク質「植物由来EGF(上皮成長因子)-Uni+」を開発・製造する。植物由来EGF-Uni+は、細胞増殖因子のひとつである上皮細胞増殖因子(EGF)活性を有する植物内で作られたタンパク質で、化粧品原料として用いられる。製造工程において、動物由来の成分を使用していないため、人獣共通感染症の原因となる病原因子が製品に混入する可能性はない。一過性遺伝子発現法というバイオ技術を用い、植物内で有用タンパク質を生産し、製品化を目指す。
2023年10月には、THE THIRD ASIAN CONFERENCE FOR PLANT MADE PHARMACEUTICALS(PMP Asia2023)に参加した。
おわりに
今回紹介した企業は、植物を活用した製品の開発と普及を加速させている。これらの取り組みが持続可能な未来への一歩となり、食物関連のスタートアップの動向にも大きな影響を与え、さらなる注目が集まりそうだ。
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※market.us 「Botanicals Market」