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世界が取り組む風力発電、日本で注目の洋上風力
近年の環境意識の高まりを受け、ヨーロッパを中心に取り組みが先行している風力発電。風力発電には、主に陸上風力と洋上風力の2タイプがある。陸上風力は、一定以上の風速がある広い陸地が向いているとされており、特に米国や中国で導入が進む。一方で、日本ではこうした土地が限られ、北海道や東北の沿岸部を中心とした一部地域への導入にとどまっている。
グリーン成長戦略の中で重点分野に指定されている洋上風力は、陸上よりも風が強く風況が安定しているとされる海上に発電機を設置するものだ。技術発展に伴い急速に普及が進んできており、2020年末時点で18か国で導入されている。
国別の導入量内訳を見ると、上位5か国は英国、中国、ドイツ、オランダ、ベルギーとなっており、ヨーロッパで導入が進んでいることがわかる※。
ヨーロッパで洋上風力の導入が進んでいる理由としては、偏西風により安定的な発電量が確保できる、政府がルールを整備したため事業者の開発リスクが低減されているといった要因がある。
洋上風力発電は、発電機を洋上に浮かべる浮体式洋上風力発電と、発電機を海底に固定する着床式風力発電の2タイプに分けられる。浮体式洋上風力発電は、日本近海のような水深が深い地形に向いているとされるため、日本における風力発電に適した方法の一つであると考えられている。
風力発電の推進には、部品製造やメンテナンスなども欠かせない。今回は、風力発電に関連した事業を手掛けるスタートアップ5社を紹介する。
スタートアップ5選
LEBO ROBOTICS株式会社
企業HP:https://www.leborobotics.com/
風車オーナー向けに、自社ロボットを用いた風力発電機のブレードの点検・補修サービスを提供している。風力発電機の羽根の部分であるブレードを、メンテナンスロボットにより撮影・点検を実施し、必要に応じてロボットを用いた補修作業を行う。従来、人が行っていた高所作業の一部をロボットで代替することにより、人手不足の解消やメンテナンスコストの削減が可能となる。
ロボットを通じたサービスに限らず、風力発電機のメンテナンスに必要な補修材料も自社開発している。さらに、地上カメラで撮影したブレードの映像を AI とプロが分析するブレード AI 分析サービスも提供している。
2023年2月にはシリーズAラウンドにて、Abies Ventures Fund、三井住友海上キャピタル、KDDI等を引受先とした、第三者割当増資による3億円の資金調達を実施した。
株式会社アルバトロス・テクノロジー
企業HP:https://www.albatross-technology.com/
同社は、船舶海洋工学を専門とし、東京大学などで教員を務めた秋元博路氏が2012年に合同会社として設立。海上に大型風車を浮かべて発電を行う「浮体式洋上風車」をはじめとした潮流・海流タービン、波力タービンの実用化に取り組む。構造重量を減らし、ローテクノロジーを組み合わせた単純構造により、設備費(CAPEX)と保守費(OPEX)を削減することができる。火力や原子力発電に頼らない、輸入燃料に依存しない社会を目指す。
2023年12月には、シリーズAラウンドにて、日本政策投資銀行などを引受先とした4.2億円の資金調達を行った。
株式会社日本風洞製作所
風洞試験装置や、流体関連の実験機器の設計・開発・製造・解析などを手掛ける、九州大学発のスタートアップ企業。コンパクト風洞試験システム「Aero Optim」は、整った気流を生み出し、空気抵抗や流れの観察をするために活躍する試験装置で、乗り物の開発やスポーツ、航空宇宙産業など、流体が関わる多くの分野で活用される。さらに、設計・解析・試作までワンストップでサポートするサービスも行っている。
2022年7月には、第三者割当増資による6.2億円の資金調達を実施した。
北拓株式会社
企業HP:http://www.hokutaku-co.jp/company.html
風力発電機器の定期点検や、交換・修理などのメンテナンスなどを行う。自然災害、事故で破損、故障したパーツの交換、修理を行う。また、風力発電機のブレードコンディション点検や軽微な補修には、高所作業専用重機を用いないロープアクセスチームが、最短・低コストでのサービスを提供する。他にも、自社で保有する風力発電所を活用し、実践的な風力メンテナンス研修も行っている。
2024年1月には、成長を遂げるための一環として、商船三井と資本業務提携を締結した。
レラテック株式会社
風況調査を行う神戸大学発のスタートアップ企業。洋上風況を対象に、「観測」「シミュレーション」「解析」を一気通貫で提供できる風況調査を実施している。GISや衛星画像を活用して観測候補地点を選定する。
また、CFDモデルやメソ気象モデルを用いたシミュレーションに基づき、プログラミング言語やGIS(地理情報システム)を利用して、発電量評価やサイト風条件評価を実施する。神戸大学大学院 海事科学研究科の海洋・気象研究室(教授 大澤輝夫)のノウハウを活かし、日本の洋上風力発電のさらなる発展と風況観測への理解促進を目指す。
2022年3月には、風力発電のための風況調査サービスにおいて協力し、今後の洋上風力発電市場の成長に寄与するため、豊田通商と資本業務提携契約を締結した。
2030年度に向けた再エネ施策に注目
風力発電の未来を支えるこれらのスタートアップ企業は、技術革新と持続可能なエネルギーの普及に向けて重要な役割を果たしている。日本が2030年までに陸上風力、洋上風力共に発電量の大幅拡大を掲げている中、浮体式洋上風力発電などの新技術の導入が進まなければならない。今後も、持続可能な未来の実現に向けた政策や企業の取り組みに注目したい。
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※REN21「RENEWABLES 2021 GLOBAL STATUS REPORT」