Visual Bankが11億円調達、知的財産保護とAI学習データの両立で市場拡大に挑む

Visual Bankが11億円調達、知的財産保護とAI学習データの両立で市場拡大に挑む

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Visual Bank株式会社がシリーズBラウンドで約11億円の資金調達を実施した。リード投資家は三井住友海上キャピタルで、CDIBクロスボーダー・イノベーション・ファンド、インキュベイトファンド、あおぞら企業投資、SMBCベンチャーキャピタル、W fundなども参加した。

Visual Bankは2022年設立のスタートアップで、主な事業領域はビジュアルコンテンツの管理・流通、AI学習用データセットの開発・提供、そしてクリエイター向けAI支援サービスの運営にある。特に、アマナイメージズの完全子会社化を起点とし、画像・音声・動画・3D・テキストといった多様なコンテンツの権利処理済みデータをAI開発者やIP創作者に提供している。さらに、AIによる漫画家支援サービス「THE PEN」を展開し、クリエイターの作画作業をAIツールで補助するなど、現場の課題解決を重視する事業構成が特徴だ。

代表取締役CEOの永井真之氏は外資系金融機関などを経て2022年に創業。共同創業者・取締役の飯塚文貴氏はトレーディング、事業投資管理、事業立ち上げなどを経験している。創業時からM&Aを積極的に活用し、既存の伝統企業とAIを核とした新規事業開発を並行する手法を採ってきた。

AIとIPの分野では、近年生成AI技術の発展に伴い、高品質で権利処理が明確な学習データの必要性が高まっている。画像生成AIや音声認識などの領域では、著作権リスクの回避と多様なデータソースの確保が業界共通の課題となっている。Visual Bankは、権利クリアな大規模データを安定的に供給する体制の構築に注力。同分野では、国内外でGetty ImagesやShutterstockなどが競合しており、グローバル市場でも競争が激化している。経済産業省およびNEDOが推進する生成AI普及プロジェクト「GENIAC」においても、Visual Bankは実証事業者に選定されている。国内AIデータ関連市場の規模は今後も 拡大する見通しだ。

今回調達した資金の主な用途は二つに絞られる。第一に、クリエイター支援事業「THE PEN」の開発・拡充を進める。漫画家やクリエイターの作業をAI補助ツールで効率化し、現場での導入促進を目指す。第二に、AI開発用データライブラリ「Qlean Dataset」の機能強化に取り組む。Visual Bankは国内外数百以上のデータパートナーと提携し、約2億点のデータを管理している。今後はM&Aによる事業基盤拡充や、AI領域に精通した人材の採用、漫画IPに特化したデータ収集・加工基盤の整備も見据えている。

Visual Bankの事業の根幹は、AI開発者とデータホルダー(個人・企業・研究機関)をつなぐプラットフォームの構築にある。データの管理、権利処理、対価還元までを一貫して担うことで、大規模かつ安全なデータ流通とAI開発のインフラ提供を実現している。また、産業技術総合研究所グループと連携し、権利リスクを最小化した国産画像生成AIモデルの共同研究も進めている。このモデルでは、数式駆動型の教師あり学習(フラクタル幾何画像生成)と権利処理済みデータを併用することで、商用利用可能な生成AI基盤の開発を目指している。

さらに、研究機関や大学向けに80種・50万点以上の学習データセットを無償提供するアカデミア支援プログラムも開始。研究初期段階での質の高いデータ確保という課題解決に取り組み、国内AI技術の発展にも寄与している。

Visual Bankは今後、知的財産とAI技術の境界領域におけるデータ提供の拡充、研究から商用利用までの安全性確保、国内外パートナーとの連携強化を進める計画だ。AI開発やIP分野が直面する権利リスクやデータ調達、品質管理などの課題に対し、どのような具体的な解決策を打ち出していくかが今後の焦点となる。

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