株式会社Acompany

サイバーセキュリティ領域のスタートアップ、株式会社Acompany(アカンパニー)は、シリーズBラウンドで約11億円の資金調達(第三者割当増資)を実施した。
今回の調達では、SBIインベストメントがリードインベスターを務め、グロービス・キャピタル・パートナーズ、Central Japan Innovation Capital(東海国立大学機構傘下)に加え、個人投資家として大手外資系コンサルティング企業元日本代表やIT企業経営者が参加した。これによりAcompanyの累計調達額は約21億円となる。
Acompanyは2018年に設立され、秘密計算(Confidential Computing)技術を活用したデータ利活用基盤の開発・提供を主軸としている。企業や自治体が取り扱う機密性の高いデータを、安全かつ柔軟に活用できる環境を提供することを事業の中心に据える。近年、個人情報や機微情報の取り扱いに対する規制が世界的に強化される中、データ活用の際にも情報の安全性が求められている。こうした背景を受け、Acompanyはハードウェアベースの秘密計算環境であるTEE(Trusted Execution Environment)を応用したプラットフォームを展開している。TEEは、データや処理を暗号化したまま実行できる技術であり、外部からの不正アクセスや情報漏洩リスクを低減しつつ、AIモデルの学習や高度なデータ分析を実現する。
同社が提供するプロダクトには「AutoPrivacy AI CleanRoom」や「AutoPrivacy Governance」がある。AutoPrivacy AI CleanRoomは、生成AIなどの高度なデータ活用ニーズに対応するもので、AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)のホスティングや、機密性の高いデータベースの構築、アクセス権限の管理を秘密計算技術と組み合わせて実装する。また、AutoPrivacy Governanceは、個人情報や機密データのガバナンス強化を支援するソリューションであり、法令遵守や社内外のデータ管理体制強化に寄与している。これらのサービスは、日本国内の大手企業や自治体からの導入事例も増加傾向にある。
代表取締役CEOを務める高橋亮祐氏は、名古屋大学在学中にエンジニアとして活動を始め、2018年6月にAcompanyを創業。デジタルキーやデジタルアセット管理システムの開発、総務省・NICT起業家万博など複数のビジネスコンテストで入賞。2019年に大学を卒業後、2020年から秘密計算の実用化に注力。2021年に「Forbes JAPAN 30 Under 30」、2022年に「Forbes Asia 30 Under 30」に選出。同年、プライバシーテック協会を設立し会長に就任している。
秘密計算市場は、Apple、Google、Metaなどの米国テクノロジー大手が生成AI基盤サービスへの応用を進めており、2032年までに3500億ドル(約50.75兆円)規模拡大が見込まれている。国内では政府によるガバメントクラウド政策や、医療・金融・製造業の機密情報取り扱いに対する規制強化を背景に、関連ガイドラインや法制度の整備が進行中である。国内外ともに市場はまだ発展途上だが、今後は米国国防総省や先進的なテクノロジー企業と国内事業者の競争が激しくなるとみられる。一方で、研究開発力や法制度対応、商用化の推進力が必要とされるため、参入障壁の高い分野でもある。
今回の資金調達を通じて、ハードウェア型秘密計算技術の開発体制強化や新規プロダクトの拡充を図る方針だ。また、国内産業界へのソリューション普及とともに、医療・金融・安全保障・国防分野への社会実装を進める。今後は海外展開や共同研究の推進を通じて、データ利活用とセキュリティ担保を両立する社会基盤の構築を目指す計画である。