つばめBHB株式会社

気候変動問題への世界的な危機感が高まる中、企業や投資家の関心は「脱炭素」にとどまらず、実用性とスケーラビリティを備えた技術・事業モデルへとシフトしている。エネルギー安全保障やインフレ対策といった社会経済的な背景も相まって、環境負荷の低減に寄与する「クリーンテック(クライメートテック)」の潮流は一層加速している。
この分野の最前線を示す存在として注目されるのが、米Cleantech Groupが毎年発表する「Global Cleantech 100(GCT100)」だ。これは、気候変動対策に資する世界の有望スタートアップ100社を選出するもので、2009年の開始から2025年版で16回目を迎えた。今号では、52カ国・18773社を対象に、社内外の有識者らによる2万件以上の評価を経て、20カ国100社が選出されている。
アジア地域からも複数の有力スタートアップがランクインしており、グローバル規模でのクリーンテック競争が加速している。
「気候危機 × 実装力」が鍵──世界市場の注目は“実ビジネス化”へ
GCT100の発表に合わせてCleantech Groupは、世界的なベンチャー投資額の減速を指摘する一方で、真に実用可能な技術・ビジネスモデルを持つスタートアップへの選別が進んでいると分析している。
2022年には約530億ドルに達していたクリーンテック分野への投資額は、2024年には約360億ドルと減少した。このように市場全体が調整局面に入る中でも、実用性と経済性を兼ね備えたスタートアップが際立った存在感を見せている。
たとえば、アメリカのMantel(産業用の高温溶融塩を用いたCO₂回収)、オーストリアのArkeon Biotechnologies(微生物による発酵でアミノ酸を生成するフードテック)、アメリカのRedoxBlox(産業向けの熱・化学エネルギー貯蔵ソリューション)といった企業が、2025年版のGCT100に選出されている。
背景には、インフレ、地政学的リスク、データセンターによる電力需要の急増などの構造変化がある。特にAIの台頭によりデータセンターの消費電力が増加し、発電・蓄電技術への需要が高まっている。また、「防災」「生物多様性」などのインパクトベース評価の重要性が増しており、社会的効果を測れる技術が注目されている。
日本企業の存在感が急上昇、つばめBHBは日本初のGCT100入り
日本からは、アンモニア合成の小型プラントを開発するつばめBHB株式会社が初の選出企業となった。独自のエレクトライド触媒を活用し、低温・低圧でのアンモニア製造を可能にする同社の技術は、従来型の大型プラントに比べて分散型供給に適しており、農地や工場内での地産地消を実現できる点が高く評価された。

このほか、アジア太平洋版のAPAC Cleantech 25には、AZUL Energy株式会社(燃料電池触媒)、株式会社Thermalytica(断熱材)、株式会社3DC(グラフェン素材)などが選出されている。いずれも大学発ベンチャーであり、日本国内の研究開発力がスタートアップという形で実を結んでいる例である。
「分野別注目スタートアップ」から見える国内勢の強み
レポート本編では、GCT100と国内スタートアップ94社を同一カテゴリで比較する「カオスマップ」も掲載されており、以下の分野において特に日本企業の活躍が目立っている。
エネルギー貯蔵:環境負荷低減を目指す電池開発が活発
エクセルギー・パワー・システムズ株式会社(ニッケル水素電池)、株式会社里山エンジニアリング(木材由来のウッドバッテリー)、PJP Eye株式会社(植物カーボン使用バッテリー)といった企業が、脱リチウムや再資源活用といった観点から独自性の高い技術開発を進めている。
農業・フードテック:自動化と代替タンパク質が主軸
農業分野では、AI自動収穫ロボットのinaho株式会社やAGRIST株式会社が、省人化ニーズに応える形で成長している。代替タンパク質領域では、ミルワームやカブトムシなどを活用した昆虫プロテイン事業を展開する株式会社Booon、株式会社TOMUSHIなどが登場しており、廃棄物の再利用という文脈でも注目を集めている。
炭素回収・活用:大学発スタートアップの台頭
株式会社OOYOOや株式会社JCCL(CCS技術)、Symbiobe株式会社(微生物活用による資源化技術)など、大学や研究機関での成果を事業化する動きが加速している。これらの企業はNEDOなどの支援も受けながら、技術実証段階から商用化を目指している。

グリーンファイナンスと海外協業が成長のカギ
三菱商事やダイキンなどの大企業は、Breakthrough Energy VenturesやMarunouchi Climate Tech Growth Fundといったグローバルファンドに出資することで、最先端技術の動向把握と連携の基盤を築いている。
一方でスタートアップ自身による海外進出の動きも加速している。株式会社SustechはサウジアラビアのHamah Holdingと、エレファンテック株式会社は台湾メーカーと提携を発表しており、日本国内の市場制約を乗り越えるための越境型連携が今後の鍵を握る。
求められるのは「実需」と「越境」
「グリーンであること」が前提条件となった現在、差別化の鍵となるのは「実用化された技術」と「グローバル市場での競争力」である。日本のスタートアップも、技術起点のモデルから脱却し、社会実装を見据えたスケーラブルなビジネス構築が求められている。
GCT100に見る世界の潮流は、日本にとって挑戦であると同時に、技術の社会的価値を世界に示す好機でもある。今後、日本発クリーンテックが世界のエコシステムでどのように評価されていくか、引き続き注視したい。
クリーンテック領域の最新動向をさらに詳しく知りたい方へ
本記事のもととなった『クリーンテック2025 世界・日本のトレンドを徹底解説』は、世界52カ国・18,773社から選ばれたGCT100選出企業を起点に、国内スタートアップ94社を分野別に整理・分析したレポートです。業界マップや企業事例、投資動向の詳細も網羅されています。
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Writer

高 実那美
株式会社ケップル / Data Analysis Group / Database Division / アナリスト
新卒で全日本空輸株式会社に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わるほか、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信も行う。