脱炭素テックトレンド──2024年グローバル・クリーンテック100&国内スタートアップをピックアップ

脱炭素テックトレンド──2024年グローバル・クリーンテック100&国内スタートアップをピックアップ

written by

高 実那美

気候変動問題への世界的な危機感が高まっている。昨年ドバイで開かれた国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、世界の平均気温上昇を産業革命以前の1.5℃に抑えるという目標(2015年パリ協定で採択)を達成するため、2025年までのGHG排出量のピークアウトや再エネ発電容量の増加、CO2除去や水素などを含むゼロ・低排出技術の加速などが明記された※1。気候変動問題への社会的、経済的な取り組みが重要視されており、環境への負荷を低減させる製品やサービス、プロセス、技術などを指すクリーンテックへ注目が集まっている。

クリーンテック業界の発展に貢献する組織「Cleantech Group」は、持続可能な成長を促進するイノベーションに焦点を当てた、調査、コンサルティング、イベント運営を行う企業として2002年に米国を拠点に設立された。同社は2009年から毎年、世界で最も有望なクリーンテック領域のスタートアップ100社を社内外の有識者による選定のもと、Global Cleantech(GCT) 100として発表しており、世界中のクリーンテック投資家から注目されている。

15年目を迎えた2024年は、世界65カ国の25,435社の中から、21カ国100社のスタートアップが選出された。

世界のクリーンテック市場

クリーンテックとは、環境への負荷を低減する技術全般を指し、再生可能エネルギーやEV、バイオプラスチック、CO2吸収貯蔵、リサイクルなど幅広い分野が含まれる。一方、近年注目されているクライメート(気候)テックは、クリーンテックから派生した分野で、CO2排出量削減といった地球温暖化対策に焦点を当てた技術や取り組みを指す。

再生可能エネルギーやEVといったクリーンエネルギーへの移行に向けた投資は、2023年に約1.8兆米ドルとなり過去最高を記録した※2。一方で、2050年頃までにネットゼロを達成するためには、2024年から2030年の間に毎年4.8兆米ドルの投資を行う必要があるとされており、さらなる技術発展と資金供給が求められている。

世界の気候変動対策を牽引するEUでは、2019年に脱炭素と経済成長の両立を図る欧州グリーンディールが定められ、2050年までにEU域内における気候中立を達成するという目標を掲げている。米国では、2022年8月に過度なインフレを抑制しつつエネルギー安全保障と気候変動対策を進めることを目的とした法律、インフレ抑制法(IRA)が成立し、気候変動対策として3,910億米ドルの予算が充てられた。クリーンエネルギー導入の税制控除などにより、気候変動対策を加速させる狙いがある。

世界で最もCO2排出量の多い中国は、2030年までのCO2排出量ピークアウト、2060年までにカーボンニュートラルを実現することを目指しており、2023年のクリーンエネルギー投資は世界全体の38%を占める6,760億米ドルで世界最大となっている※2

2024年のGCT 100選出企業が、2023年に調達した資金は計28億米ドル※3にのぼるとされる。CVCからの投資が全体の28%を占め、例えば、炭素の削減・除去に取り組むスタートアップを支援する10億ドル規模のファンドであるMicrosoft Climate Innovation Fundは、選出企業の内5社(Electric Hydrogen、Eavor、Rondo Energy、AMP Robotics、Boston Metal)へ投資している。

同社は、グリーン水素のような最新の技術から、地熱発電や蓄電、廃棄物分別、鉄鋼といった既存の産業や技術の脱炭素化に貢献する企業など、幅広い分野で台頭するクリーンテックへ投資を実行している。またクリーンテックに特化したVCとしては、スイスのEmerald Technology Venturesや米国のEnergy Impact Partnersがあり、2024 GCT100では、前者がINERATECやPaptic、後者は6KやAerosealなどに投資している。

太陽光発電やEVといったクリーンテックの代表的な分野は成熟しつつあり、クリーンテックは次の段階に進んでいる。それは、これまで変革が求められながらも長年の組織体制や技術の問題から改変が難しいとされてきた重工業の分野での脱炭素化の動きである。

鉄鋼や建設をはじめとした重工業は環境へ多大な負荷を掛けており、削減に対して厳しい目が向けられている。投資家は、工業からの排出削減に貢献するスタートアップへの投資割合を増やしており、2022年までの10年間に約8%未満だった配分は、2022年以降14%に上昇しているとされる※4

2024 GCT100では、製鉄分野の脱炭素化に取り組むスタートアップである米国発のBoston Metalが選出されている。伝統的に鉄鋼の生産時に大量に燃やしてきた石炭を、電気を使用する溶融酸化物電解技術に置き換えることで排出量を実質ゼロにする技術を構築している。同社は、2024年1月に気候テックへの投資を行う丸の内イノベーションパートナーズから2,000万米ドルの資金調達を行ったと発表し、鉄鋼における生産量の70%以上を占めるとされるアジア市場でのビジネス拡大に務めていくとした。

日本のクリーンテック市場

国内では、2021年に政府がグリーン成長戦略※5を発表し、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて成長が期待される14の重点分野を掲げている。2024 GCT 100に関連する分野では、太陽光・地熱、水素・燃料アンモニア、自動車・蓄電池、次世代電力マネジメントなどがあり、多くのクリーンテックが国内でも求められている。

GCT 100に日本企業が選出された例はないものの、複数のカテゴリーで選出企業と類似するビジネスが誕生しており、特に、アグリ・フードテック、スマートホームをはじめとしたエネルギー管理、代替プラスチックといった分野で多くのスタートアップが存在している。国内では、より生活に近い分野でのスタートアップの創出が進んでいると考えられる。一方、鉄鋼やリチウム抽出など、現在世界で注目されるクリーンテックでは、主に輸入に頼る分野であることなどから国内スタートアップの該当は無いが、上場企業などで取り組みが見られる。日本が2023年に行ったクリーンエネルギー投資は320億米ドルで、国別順位ではスペインの322億米ドルに次ぐ8位となっている※2。1位中国(6,759億米ドル)、2位米国(3,031億米ドル)、3位ドイツ(954億米ドル)の対GDP投資額がそれぞれ3.8%(中国)、1.1%(米国)、2.1%(ドイツ)であるのに対し、日本は0.8%に留まるなど絶対額、割合共に低いことが分かる※6

国内でもグローバルなクリーンテック企業を創出していくための取り組みが必要となる中、三菱地所は2024年秋に向け、気候テックに特化したイノベーション拠点(仮称)Japan Climate Tech Labの設立を進めている。スタートアップをはじめとした産、官、学の連携によるイノベーションの推進を目標としている※7。また環境課題に取り組む企業への投資に特化したVCの存在(環境エネルギー投資、丸の内イノベーションパートナーズなど)や、アクセラレーションプログラム(SUITz Tokyo)の構築など、国内においても気候変動に対する取り組みが増えてきている。

本レポートでは、2024年のGCT 100選出企業をカテゴリー分けし、類似事業を展開する国内スタートアップ101社をそれぞれのカテゴリーへ分類し紹介していく。

アグリ・フードテック

農業や食料分野におけるクリーンテック企業を、2つの小カテゴリーに分け紹介していく。

アグリテック

本カテゴリーには、2024 GCT100選出企業を4社、国内企業を5社分類している。

アグリテックの世界市場規模は、2022年に221億米ドルと評価され、2032年には759億米ドルに達すると予想されている※8

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※1 外務省「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)結果概要」
※2 BloombergNEF「Global Clean Energy Investment Jumps 17%, Hits $1.8 Trillion in 2023, According to BloombergNEF Report」
※3 Cleantech Group「The Numbers Behind the Companies」
※4 PwC Japanグループ「2023年版 気候テックの現状 気候テック投資の世界的な減少を反転させるには」
※5 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
※6 セカイハブ「【2023年】世界の名目GDPランキング (IMF)」
※7 三菱地所「国内初 "気候テック"に特化したイノベーション拠点 「(仮称)Japan Climate Tech Lab」2024年秋開設」
※8 Spherical Insights「Global Agritech Market Insights Forecasts to 2032」

新卒で全日本空輸株式会社に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わるほか、KEPPLEメディアやKEPPLEDBへの独自コンテンツの企画、発信も行う。

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