ラストワンマイル配送プラットフォーム「CREW Express」を運営する株式会社Azitは、2022年5月に3.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、Logistics Innovation Fund、coconala Skill Partners、90sの3社。
調達した資金は、プロダクト開発と組織体制強化に充て、サービスの拡大を目指すとしている。
2013年11月に設立された同社は、当初はライドシェアサービス「CREW」を展開していた。しかし、新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言下では人の移動が極端に減り、事業転換を余儀なくされ、それまで培ってきたネットワークと配車のディスパッチ部分のテクノロジーを活かして、現在はラストワンマイルの配送領域へ参入している。
紆余曲折を経て今回の資金調達に至った、株式会社Azitの代表取締役CEO 吉兼周優氏に、詳しく話を伺った。
―― まずは、Azitの事業についてお聞かせください。
吉兼氏:「CREW Express」は、フードデリバリーのようなお客様の元に今すぐに届けたい配送から、オフィスや店舗間の企業内配送などの当日配送まで、事業に必要なラストワンマイル配送の一括構築と効率化を実現します。具体的には、配送人員不足の課題解決のためのマーケットプレイスと、配送の効率化を実現するSaaSを提供しています。
マーケットプレイスでは、全国で現在1万台以上のネットワークを持っているので、この中から最適・最安値の配送手段を探すことができます。時間単位もしくは件数単位で発注することができるようになっています。
SaaS は、国内では唯一無二のAIによる最適稼働を実現する配車管理システムを提供しており、従量課金にてご利用いただけます。
現在、弊社のサービスを多くのお客様にご利用いただき、北海道から沖縄まで毎日稼働している状況です。
―― 具体的にどのような事例がありますか。
最もイメージしやすいのはフードデリバリーになると思います。飲食店ではどこも、Uber Eatsや出前館などのデリバリーサービスを利用していますが、手数料が相場で35%と高く、顧客情報を全く得られない、などの背景から自社のデリバリーに移行する流れがあります。
実際、マクドナルドやスターバックスコーヒーなどのグローバルカンパニーから広まり、世界的なトレンドになっており、国内でも飲食業界の経営者の方々は、デリバリーをどう自社に移行していくかというところに取り組んでいらっしゃいます。
ただ、アルバイト採用では配達人員の確保が難しかったり、さらに、フードデリバリーサービスのような効率化された配送体制ではなく、昔ながらの出前のように各店舗に車両を置く形態になってしまうなど、自社での構築はなかなか難しい状況があり、私たちが支援させていただいています。
その他の事例としては、百貨店の松屋銀座にて、百貨店の商品を当日配送するにあたって、配送に関しても松屋水準でのサービス提供を目指されていた中で、私たちが当日配送ルートを手がけています。
―― CREW Express が取り組む業界の課題について、教えてください。
やはり最も大きいのは配達人員の確保の部分で、どのように人員を集めれば良いか、どのくらいの給与が適切か、このあたりが分からず苦労している方々が多いです。
フードデリバリーサービス各社も配達人員を確保するために、報酬レンジが上がってきています。また、配達員確保のキャンペーンを実施しているタイミングでは時給相場が上がり、キャンペーンが終わると下がるといった具合に、時給相場自体が変動している状況があります。そのような中で、私たちがマーケットプレイスとしてそれらの情報を提供しながら、サービス展開をしています。
また、私たちの特長としては、自前のネットワークだけでなく、さまざまな方とパートナーを組んでいる、いわゆるアグリゲーターのポジションを取っており、それにより多くの選択肢の中から最適な配送を提供することができます。
―― 事業を始めようと思ったきっかけを教えてください。
もともと会社自体は学生時代に設立しており、アプリ開発会社として、様々なアプリケーションを作っていました。大学を卒業するタイミングでフルコミットでスタートアップを続けようという話になりましたが、続けていく決断をした背景としては、特定の領域で事業をやりたかったというより、今では10年来の共同創業者を含むこれまで一緒にやってきたメンバーや、一番最初の投資ラウンドで入っていただいた投資家の方々とともに仕事をしたい、というモチベーションが大きかったです。
様々なアプリケーションを作る中で、やっぱりテクノロジーとスタートアップが好きで、テクノロジーで課題解決ができて、スタートアップど真ん中のテーマをやりたいと思っていました。
ちょうどその頃、グローバルを見渡すとUberやDiDi、Grabなどのモビリティスタートアップが台頭してきている中で、なぜ日本はモビリティのスタートアップがないのだろう、と。
将来的に実現しうる自動運転もそうですし、そもそもスマートフォンの位置情報でより最適化した実装をできると思っており、大学時代にダイナミックプライシングや最適化のアルゴリズムを研究していたのとデザインにこだわったプロダクトづくりは学生時代のAzitでも挑戦し続けていた分野だったので、私たちが開発していけると思いました。
かつ、ライドシェアに関しては、国内は厳しい法規制がある領域で、シニアな経験のある人は参入してこないだろうと思い、やり方を考えるところから始めようと、2015年に「CREW」を始めました。
―― その後、コロナの影響もありピボットを経験しています。
実は、モビリティ領域をやるにあたっては、人の移動だけをやりたかったわけではなく、デリバリーに関しては、ずっと関心を持っていて、早いタイミングでやりたいと考えていました。ビジネスの伸ばし方の違いなどはありますが、テクノロジーによる課題解決はかなり近しいと思っており、実際グローバルでは、ほとんどのモビリティスタートアップはデリバリー領域も手がけています。
ただ、ライドシェア事業だけで重たい事業ではあったので、まずはリソースを集中させていました。
そんな中新型コロナウイルスの感染拡大で、あっという間にトラクションが100分の1になるのを目撃し、マーケット環境的に配車アプリケーションは続けられないという判断をしましたが、その後、新しく事業を立ち上げていくにあたっては、自社の強みと世界的な技術変化の流れを鑑みた際にデリバリー/ラストワンマイルをやるのはほぼ確定していました。そこからプロダクトを作って、2020年12月に「CREW Express」を公開しました。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
現在は、エンタープライズ企業のソリューションに注力しているので、特にフードチェーン、加えて医薬品・医療系を中心に展開していきたいと考えています。医薬品の配送は今年になり、私たちの取扱量だけでも3倍ほどになっています。このように、各領域の状況を注視しながら、対象領域を広げていきたいと思っています。
また、中長期的には配送と連携が必要なサプライチェーン全体に提供サービスを拡大していきたいと考えています。例えば、フードデリバリー、医薬品配送に関しても、注文や決済のプラットフォームと連携して配送情報を取り扱うようにしていったり、倉庫の管理まで広げていったりと一貫して提供できるようなサービスを目指していきたいと考えています。