株式会社フェリクス

九州大学発の創薬スタートアップ株式会社フェリクスが、第三者割当増資により総額12.5億円の資金調達を実施した。調達資金は主に未熟児網膜症予防薬「FLQ-101」の米国臨床試験推進や組織体制の強化、次世代医薬品の研究開発に充てられる。
2019年2月設立のフェリクスは、九州大学大学院薬学研究院の研究成果を基盤とする。小児失明の主因である未熟児網膜症(ROP)と、加齢黄斑変性症(AMD)という二つの眼疾患に対する治療薬の開発に取り組む。フェリクスが強みとするのは、「脂質過酸化物の蓄積によるフェロトーシス(細胞死)」に着目した独自の化合物スクリーニング技術であり、これが同社の医薬品開発パイプラインの源泉となっている。
主力のFLQ-101は、未熟児網膜症の予防を目的とした低分子経口薬として開発されている。既に米国食品医薬品局(FDA)からファストトラックおよびオーファンドラッグ(希少疾患用医薬品)指定を取得していることから、開発の迅速化と市場投入への道筋がついている。加えて、加齢黄斑変性症向けの治療薬FLQ-104やFLQ-105もパイプラインに加わっており、こちらは2025年以降の臨床試験開始を予定している。
代表取締役の國信健一郎氏は、九州大学大学院薬学府および長崎大学医歯薬総合大学院を修了し、博士(医学)取得。ニプロ株式会社にて、薬事・臨床開発戦略、保険償還、CMC、経営企画、ベトナム工場設立・運営など、製薬業界における幅広い実務経験を有する。創業チームには九州大学薬学研究院の研究陣が加わっており、研究知見とビジネスノウハウを融合した体制で医薬品開発を進めている。
未熟児網膜症(ROP)は、低出生体重児や早産児の間で発症リスクが高い眼疾患であり、欧米・アジアを問わず小児失明の主要原因となっている。ROPに起因する医療費や介護費の社会的負担も大きく、市場規模は、2024年に23.7億米ドルに達するとされている。一方、加齢黄斑変性症(AMD)は高齢者に多く見られる疾患で、グローバルな市場規模は約2兆円と見積もられている(2023年時点の市場調査より)。いずれの疾患も現時点で十分な治療・予防策がないため、医療現場ではアンメット・メディカル・ニーズが顕著である。
医薬品開発分野では、近年日本の大学発バイオベンチャーがシード段階から米国など海外における治験や事業化を志向する動きが活発化している。フェリクスのFLQ-101もその一例で、米国での迅速な実用化を視野にFDAの特別指定を受けている。競合プレーヤーとしては、米国や欧州の大手製薬企業系パイプラインのほか、国内でも再生医療ベンチャーが存在するが、未熟児網膜症予防薬の低分子新薬開発は限定的となっている。2023年の国内バイオ関連スタートアップへの年間投資額は過去最高を記録しており、資金流入や出口戦略の動向も業界で注目されている。
今回の資金調達には、米国主要製薬企業やBeyond Next Ventures、慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)、三菱UFJキャピタル、FFGベンチャービジネスパートナーズ、科学技術振興機構(JST)など、複数の機関投資家が参加した。これによりフェリクスは、米国におけるFLQ-101の第1b/2相臨床試験(tROPhy-1試験)を2025年夏に開始する予定だ。FLQ-101は経口投与が可能な低分子化合物であり、炎症や異常新生血管の予防効果が期待されている。調達した資金は米国での臨床開発チームや事業開発体制の強化、加齢黄斑変性症向けパイプライン(FLQ-104、FLQ-105)の研究開発にも活用される。
医薬品開発においては、米国での治験進捗が今後の事業展開を大きく左右する。バイオベンチャーにとっては、多様な資金調達や事業提携、知的財産戦略、上市後の事業開発力などが競争力の鍵となる。フェリクスの取り組みは、グローバルな創薬バリューチェーンへの日本発スタートアップの参入事例としても、業界内で注目されている。