UPWARD株式会社

UPWARD株式会社がフィールドセールス向けSaaS「UPWARD」の開発および業界特化型ソリューションの拡充を目的に、約11.7億円の資金調達を実施した。今回のラウンドでは、RJバリューPlus 1号投資事業有限責任組合が新たに加わり、NVCC10号投資事業有限責任組合、Salesforce Venturesなど既存投資家も引き続き参画した。
UPWARDは、2002年3月の設立以来、顧客管理(CRM)と地理情報技術(GIS)を組み合わせたフィールドワーカー向けSaaSを手掛けてきた。「UPWARD」は、営業担当者のスマートフォンから活動データを自動で収集・記録する機能を持ち、訪問営業や外回り営業(フィールドセールス)の効率化に特化した設計となっている。独自のジオフェンシング(位置情報によるエリア検知)技術により、営業先での滞在記録を自動化する仕組みを提供していることが特徴だ。また、マッピング機能や最適な訪問ルートの自動提案、活動内容のAIによるレコメンド、データの可視化や分析など、営業現場の業務効率化を多角的に支援している。導入企業は国内外の大手企業や公共団体を含め400社を超えている。
代表取締役 CEOの金木竜介氏は、位置情報サービスやGIS技術の分野で長年の経験を持つ技術者である。金木氏は、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)に精通し、2016年にクラウドCRMとGISを高度に連携させたセールスエンゲージメントサービス、UPWARDを立ち上げた。2020年代以降は製品のクラウド化やAI機能の導入を進め、国内外の大手企業の業務効率化やデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援してきた。副社長やCFO、CTOなど経営陣にもIT・データサイエンス・ビジネスディベロップメント領域で豊富なキャリアを持つ人物が参画している。
フィールドセールス向けSaaS市場は、営業活動のデジタル化と情報共有のニーズ拡大を背景に成長している。営業支援ツール(SFA)や顧客管理(CRM)をクラウドで提供するサービスは年々拡大傾向にあり、国内市場は2021年から2024年にかけて年平均成長率が10%台後半と推計されている。2026年には400億円規模に達する見込みであり、グローバル市場でも今後10年間で年平均成長率約12%という高水準の成長が続くとされる。
一方で、SFAやCRMツールの導入企業の多くが「現場での定着が進まない」「記録入力が煩雑」「ツールが複雑で運用に手間がかかる」といった課題を抱えている。UPWARDは、こうした市場課題に対し、現場のフィールドワーカーがスマートフォンだけで活動記録や次の行動提案を容易に受け取れる設計や、入力自動化・業界特化APIによる利便性の向上で応えてきた。特許技術による滞在検知やAI活用型ルート最適化といった機能で差別化を図り、導入時のカスタマーサクセスサポートや運用定着のしやすさについても一定の評価を得ているとされる。
今回調達した約11.7億円を活用し、UPWARDは特許技術とAIを組み合わせた営業活動の自動化・高度化を進める。主な取り組みとしては、営業活動の記録自動化やAIによる顧客接点機会の創出、業種特化型ソリューションパッケージの開発が挙げられる。医療、介護、小売、保守点検など、現場での移動や顧客との直接接点が多い業界では、こうした自動化・可視化ニーズが高まっている。
UPWARDはまた、自治体によるインフラ点検や災害時の現地調査など公共領域での活用事例も有しており、近年は公共機関との連携も強化している。2024年にはアジア太平洋地域での事業展開も本格化し、現地パートナーとの協業を進めている。人材採用面では、リモートワークやハイブリッドワークを推進し、全国・国外からの多様な人材獲得にも取り組んでいる。
競合環境としては、Salesforceをはじめ、Sansan、HubSpot、Zohoなど国内外のSFA/CRM大手がB2B営業支援ツール分野で多様なサービスを提供している。フィールドセールスや位置情報活用、ルート最適化への特化は、今後大手の参入や海外SaaSベンダーによる機能拡充の動きも予想される。価格面でも自社運用コストや導入規模に応じた競争が続いており、自動化・AI活用による生産性向上と現場での定着度の両立が、業界全体の課題となっている。
UPWARDは今回調達した資金をもとに、開発体制の強化を進め、国内外のフィールドワーカーの生産性向上を目指す現場DXサービスの開発に取り組む方針である。