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生体データ活用でドライバーの事故を防止、運送業界の新たな支えに

生体データを活用した業界特化型サービスを提供する株式会社enstemが、総額1.1億円の資金調達を実施した。これにより、累計調達額は2.5億円に達した。
今回のラウンドでは、NXグローバルイノベーションファンド、楽天キャピタルなどが引受先となった。2025年2月にはマーキュリア・サプライチェーンをリード投資家とする第三者割当増資によって1.4億円を調達しており、今回の追加出資により、物流・流通分野に知見を持つ企業との連携が強化される見通しだ。
enstemは2019年設立。ウェアラブルデバイスから取得される生体データの解析を基盤とし、現場従事者の健康および安全管理を支援するSaaSプロダクトを開発・提供している。主なサービスは、運送業ドライバー向け「Nobi for Driver」と、製造・倉庫・建設などの現場従事者向け「MAMORINU」の2つ。Nobi for Driverは2022年6月にリリースされ、これまでに累計300社以上に導入されている。導入先では健康起因事故、過労、熱中症リスクへの対応が進み、業界内で一定の存在感を示している。2024年にリリースされたMAMORINUは、作業負荷やバイタル情報の可視化による異常兆候の早期検知、安全確保、業務改善を支援する。
代表取締役の山本寛大氏は、Googleで中小企業向け広告支援に従事した後、Cogent Labsにて自然言語処理プロダクトの事業開発を担当。2019年にenstemを創業し、現場向けバイタル可視化サービス「Nobi for Driver」「MAMORINU」を展開している。
物流業界では慢性的な人手不足や高齢化、長時間労働などの構造的課題が続き、2024年問題(働き方改革関連法による時間外労働の制限)の影響も加わり、事業継続の難度が増している。特に健康管理の徹底不足による事故や労災件数の多さが問題視されており、厚生労働省の統計によると、トラック運送業における脳・心臓疾患の労災発生率は全産業平均の約10倍にのぼる。運転中の体調急変による事故や、現場作業員の熱中症・転倒といった健康起因ロスの削減は、業界全体の喫緊の課題となっている。
一方、IoTやウェアラブルデバイスを使ったリアルタイムモニタリングの導入は、欧米と比較して日本では遅れが指摘されている。導入コストや現場での定着の難しさが要因とされ、短期的な取組みに終わるケースも多い。
enstemのサービスは、スマートウォッチなどの汎用ウェアラブルデバイスを現場業務に適用し、独自のユーザーインターフェースやAIを用いた異常検知ロジックを組み込むことで、現場従事者の日々の心拍数・ストレス・位置情報などを取得・分析する仕組みだ。これらのデータをもとに危険兆候を自動でアラートし、管理者と労働者の双方にリアルタイムで情報提供する。ドライバー向けには居眠りリスクや健康起因事故の低減、現場作業員向けには作業負荷の可視化・労働災害の予防に活用されている。また、令和6年度国土交通省の「過労運転防止認定機器」に選定されるなど、行政との連携も進んでいる。
同分野では、類似のバイタル管理ソリューションを提供するベンチャーや、車載IoT機器・ドライブレコーダー大手の参入が進む。一方、現場業務特化型では従来の点呼管理システムや運行管理ソフトの進化が見られるものの、バイタルデータとAI解析をコアとする企業は限定的である。
enstemは現場起点での機能開発と外部連携を重視しており、2025年6月には商用車専門オンラインプラットフォーム「トラック王国」を運営するトラックオーコクと協業を開始した。両社はトラック王国の法人向けネットワークと、enstemの体調可視化サービス(MAMORINU/Nobi for Driver)を組み合わせることで、物流・建設・製造現場での導入拡大を図り、業界横断的な安全・健康データのデジタル化を推進する計画である。
今回の資金調達により、enstemはプロダクト開発体制の強化(AI・データ活用による新機能の実装)、営業・カスタマーサクセス・エンジニアなどの人材採用、さらには展示会出展や業界連携、海外展開に向けたマーケティング活動の加速を図る。現場の“見えないリスク”を可視化し、すべての労働現場をより安全・健やかにするための基盤づくりが、次のフェーズへと進み始めている。
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