Tokyo Artisan Intelligence株式会社

エッジAI技術を提供するTokyo Artisan Intelligence株式会社が、シリーズB+ラウンドにて約11.1億円の資金調達を実施した。今回の調達では、JR東日本コンサルタンツや九州旅客鉄道(JR九州)が新たに資本業務提携先として加わり、AI活用の業界横断的推進と独自半導体チップ開発への本格着手が発表された。
Tokyo Artisan Intelligenceは、2020年3月に設立された東北大学発のスタートアップ企業。主力事業は、ディープラーニングを基盤としたエッジAIプラットフォームの開発および提供である。同社は、ニューラルネットワークの圧縮技術やハードウェアへの効率的な実装技術を用い、産業機器・製造装置・鉄道インフラ分野でAIの現場実装を行ってきた。たとえば鉄道の線路点検を自動化する軌道モニタリング装置や、新幹線の確認車両に搭載する支障物検知AIシステムなどがその一例であり、従来は人手に頼っていた点検作業の効率化や省人化に貢献している。また、AI人材の育成にも取り組み、業界全体の技術底上げを支援している。
代表取締役CEO兼CTOは中原啓貴氏。中原氏は東北大学と東工大の教授も務める。専門は半導体設計やAI、組込みシステム。学生時代からコンピュータ・アーキテクチャを研究し、FPGAや深層学習に早くから取り組む。2019年に英インペリアル・カレッジに客員研究員として滞在し、帰国後にTokyo Artisan Intelligenceを創業。AIと半導体の研究開発を軸に、大学教員の新たなキャリアモデルにも挑んでいる。
エッジAI分野では、通信遅延の回避や現場データのセキュリティ確保、過酷な環境下での耐久性などが重要な要件となる。とくに鉄道や製造業では、業務効率化や安全性向上、さらには労働人口減少への対応が急務となっている。日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少傾向が続いている。競合にはソニーによるエッジAIカメラ、米NVIDIAの組込AIソリューション、大手電機メーカーやイスラエルのスタートアップが存在するが、Tokyo Artisan Intelligenceは現場実装力やオーダーメイド型の提案、国内外大手インフラ事業者との協業実績を強みとしている。
今回の資金調達ラウンドでは、三井住友海上キャピタルが既存投資家としてリードし、JR東日本コンサルタンツおよびJR九州が戦略的に資本参加した。調達資金は、AIおよび半導体開発体制の強化、量産体制の整備、人材採用や組織拡張などに投じられる予定だ。さらに、現場ごとの多様なニーズに応じて回路構成を柔軟に書き換えられる「再構成可能AI半導体チップ(FPGAなど)」の自社開発を加速させる計画も明らかにしている。こうした半導体は、リアルタイムなAI処理や消費電力・発熱の抑制といった現場の要請に応えるものであり、産業用途における実用化が期待されている。
自社開発のエッジAIプラットフォーム「SEASIDE-R6」は、鉄道や製造現場といった厳しい環境下での概念実証や量産導入がすでに始まっている。AI処理の高負荷化に伴い、発熱や冷却といった技術課題も顕在化しており、今回の調達資金により、次世代バージョンへの再構成可能AI半導体チップの実装を進める。
今後はエッジAIコンピュータと再構成可能チップの開発をさらに加速させ、高度なAIシステムの実装を通じて社会課題の解決を目指す。