ごみを運ばずに資源化、廃棄物の処理課題を解決する分散型インフラとは──JOYCLE小柳氏
ごみを資源に変える「小型アップサイクルプラント」を提供するJOYCLEがシードラウンドの資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、ANOBAKA、中部電力ミライズ、三友環境総合研究所、鎌倉投信、寺田倉庫ならびに前澤友作氏など個人投資家。融資を含む総額1.7億円の資金調達となる。
今回の資金調達により、新サービスの実証実験や海外展開を進める。
「運ばずに資源化する」小型ごみ処理プラント
JOYCLEが問題意識を持つのは上昇するごみ処理コスト。人口減少により、各自治体による焼却炉の維持が困難となっている。また、ごみ運搬時に発生するCO2排出も問題視されている。
従来の大型焼却施設での処理とは別に、同社が解決策として必要性を唱えるのが「運ばずに資源化する」小型資源化装置。発生したごみを焼却施設まで運搬せず、装置を設置した施設内で処理できる。ごみを単にリサイクルするだけでなく、より付加価値の高い製品に生まれ変わらせる「アップサイクル」を実現する点が特徴だ。装置で処理したごみはバイオ石炭やセラミック灰などの資源に生まれ変わる。
装置の運用効率や環境貢献を可視化するダッシュボード「JOYCLE BOARD」も開発した。装置にIoTセンサーを取り付けてデータを取得することで、ごみ処理に関するコスト削減効果を可視化する。CO2削減のデータを使ったカーボン・クレジットの生成も構想する。
離島や地方など、装置を常設しない地域向けには、装置を搭載した車でエリア内の施設を訪問する「JOYCLE SHARE」も実証実験を進めている。今後は東南アジアを中心とした海外への早期展開も計画する。
今回の資金調達に際して、代表取締役CEO小柳 裕太郎氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
小型資源化装置の普及に必要な「可視化」
―― 事業開始の背景について教えて下さい。
小柳氏:日本は世界で最もごみ焼却炉が多い国です。千基以上の焼却炉があります。一方で人口減少の影響で各自治体の税収が減少し、焼却炉の維持が困難になっているのです。
維持コストの高さから焼却炉の数が減少することで、複数の自治体で焼却炉をシェアする動きが活発になっています。一方でごみの運搬コストが増加し、長距離輸送によるCO2排出量の増加が懸念されています。運送業界の深刻なドライバー不足もこの問題を悪化させる要因です。
こうした状況を考えると、ごみを運ばずに資源化したり、資源化の過程で生じる熱で発電してエネルギーを作ったりできる分散型のインフラが間違いなく必要になっていくだろうと考えています。
―― 従来の装置では実現できないのでしょうか?
理想の装置を探して全国を回りましたが、運ばずに資源化できても、費用対効果や環境への効果といった重要な情報を可視化することはできないアナログな装置がほとんどでした。必要なものであっても効果が定量的に把握できなければ、自治体や事業者での導入は難しくなってしまいます。
そこで早稲田大学と九州大学と連携し、装置のデータを可視化するダッシュボードを開発して提供開始しています。沖縄地域では可視化の実証実験も行いました。離島では島間でごみを船舶輸送しているのですが、このESG負荷が大きくなっている。沖縄の離島エリアで廃棄物の分散処理に関する実証実験をしたところ、ESG負荷削減量が大きかったのです。今後過疎化が進んでごみの運搬コストが増える地域では、分散型のごみ処理インフラによるESGへの貢献効果が高いという実績をつくれました。
―― 創業のきっかけを教えてください。
以前勤めていた双日では化学品の営業を担当し、入社1年目でパプアニューギニアへ駐在しました。現地では生活のために子どもたちが何時間もかけて水を汲んでいる。その負担を減らす海水淡水化装置導入プロジェクトをリードしましたが、実現には至りませんでした。自身の力不足を痛感する出来事でした。人々により多くの選択肢を提供したいと強く思うようになったのがこの頃です。
それから数社に渡って環境分野の事業に携わる中で感銘を受けたのが、鹿児島県大崎町のリサイクル率向上の取り組みです。一方で、住民へのインセンティブがなければリサイクルの推進には限界があります。
焼却炉を閉鎖する自治体が増える中で感じたのは「このままではごみ処理のインフラが維持できなくなるのではないか」ということ。地域住民へのインセンティブを与えつつ課題解決につながるような仕組みはありませんでした。それならば自ら作るしかないと、JOYCLEを起業しました。
日本の分散型インフラを世界に まず狙うは東南アジア
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
来年に向けた装置の量産体制構築や海外市場への拡販に向けた資金として調達しました。また、シードラウンドではありますが事業会社を中心にラウンドを実施しています。各社との連携も進めていきます。
たとえば今回ご参画いただいた寺田倉庫の施設や倉庫でもかなりのごみが出ていて、処理コストが年々重たくなっているそうです。倉庫を活用してより良い装置を開発するような形での連携を想定しています。また、三友環境総合研究所は北海道で医療廃棄物を取り扱っている企業です。医療廃棄物のコスト上昇という業界の課題に対処するため、彼らの工場を活用し装置の共同開発を進めています。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
離島エリアや感染性廃棄物処理にコストがかかる病院での装置導入を進めていきます。また、資源化装置のない場所でも現地でごみ処理ができるよう、装置を搭載した車でごみの発生源に直接訪問する「JOYCLE SHARE」の開発も進める予定です。各地からごみを運ぶのではなく、装置付きの車で訪問し、現地で処理することで人材不足を解消するアプローチです。
さらなる環境負荷低減を目指し、国内での事業展開を進めつつ早期の海外進出を計画しています。実は日本は焼却炉の数が多くごみ処理に対する意識が高い一方、海外では埋め立てゴミから出るメタンガスの問題が深刻化し、その対応に悩んでいる国も多い。タイやインドネシアなどの東南アジア諸国を中心に、2026年頃から本格的に拡販を進める予定です。
私たちが取り組んでいるのは喫緊性の高い社会課題の解決です。新たな社会インフラ作りを目指している。今まさにルールメイクが求められている中で、ただ環境にやさしいだけではなく、収益を生む事業にできるはずです。共にサステナブルな社会インフラを作ることに関心のある企業はぜひお声がけいただければと思います。