ゴミから固形燃料へ、震災支援から生まれた持続可能なエネルギーソリューション

ゴミから固形燃料へ、震災支援から生まれた持続可能なエネルギーソリューション

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KEPPLE編集部

目次

  1. 身近なゴミからエネルギーを創る技術
  2. 震災支援の経験から技術開発に着手
  3. 環境保全と経済性を両立するエネルギー

地震大国日本では、2011年の東日本大震災を経て、災害時のインフラ環境構築の重要性が高まっている。また、昨今の地政学リスクから国内外の資源・燃料情勢が日々変化する中、有事の際のエネルギー源の確保は大きな課題である。

脱炭素化の観点からも限りある資源を枯渇させることなく、安定したエネルギーを供給していくために、日本政府もさまざまな政策による後押しを進めている。

エネルギー領域において多様なスタートアップが挑戦を続ける中、10年に渡り持続可能なエネルギー生成システムの研究開発に取り組んできたのが、サステイナブルエネルギー開発だ。

身近なゴミからエネルギーを創る技術

同社は、ゴミからエネルギー原料を生成する「ISOPシステム」を開発する。

ISOPシステムは、燃えるゴミを亜臨界水処理技術で分解し、生ゴミや紙くず、プラスチック製包装容器、木質系廃棄物などを固形燃料などに変換することができる同社の特許技術だ。

亜臨界水処理とは、高温・高圧(100℃〜374℃、0.1MPa〜22.1MPa)の条件下で有機物を効率的に分解し、飼肥料などに再利用する技術である。

ISOPシステムでは、ゴミ分別の必要がなく、金属などの無機物を除くどのような生活ゴミでも一括で処理ができる。分散自立型装置で移設など柔軟な設置が可能だ。ゴミの悪臭を消臭する効果もあり、処理したゴミから、固形燃料を生成できる点が特徴である。食品廃棄物については肥料化などのマテリアル利用をすることも可能だという。

ISOPシステムの流れの説明
画像:サステイナブルエネルギー開発提供

同社はさらに、合成燃料製造装置の開発を行う。合成燃料とは、二酸化酸素と水素を原料として作られる「人工的な炭化水素油」のことだ。軽油や灯油と同様に、既存の燃料インフラをそのまま利用できる。

合成燃料製造装置の流れ
画像:サステイナブルエネルギー開発提供

同社は、これらの技術を基盤としたソリューションの展開により、温室効果ガス削減やエネルギー価格高騰の課題を解決し、再生可能エネルギーの発展と災害に強い地域社会の実現を目指している。

ISOPシステムについては、すでに大手企業や地方自治体とPoCによる実績を積み重ねており、今後は初期費用がかからないサブスクリプション型でのシステム提供を計画している。2025年下期にはサービスを開始する見込みだ。

2023年4月には、東京都とセブン&アイホールディングスが推進する、サプライチェーンにおける再生可能エネルギー利活用のパートナー企業として採択された。

代表取締役社長 光山 昌浩氏に、技術開発のきっかけや今後の展望などについて詳しく話を伺った。

震災支援の経験から技術開発に着手

―― ゴミからエネルギーを創出するという技術を開発した背景は?

光山氏:きっかけは、2011年の東日本大震災での支援活動です。震災の約4年前、山形県で「バイオソリッドエナジー株式会社」を設立し、公共下水道の余剰汚泥を固形燃料化する事業を始めました。この燃料は石炭火力発電所の補助燃料として使われ、現地でのボイラー需要も高まっていました。

そしてこの燃料を使った小型ボイラーの試験で良好な結果を得た10日後に震災が発生。宮城県の災害対策本部の要請で、小型ボイラーと固形燃料を避難所に供出し、温浴施設の運営支援を行いました。

現地でのゴミ処理が進まない一方で、電力復旧には1ヶ月以上かかることに気づき、ゴミをエネルギーに変える技術開発の着想に至りました。

私自身、金融機関や監査法人で経験を積んだ後、家業の環境関連の仕事に携わっていたため、環境問題やエネルギー資源は身近なテーマでした。これも開発に着手した理由の一つです。

―― 技術開発を進める中で、どのような課題がありましたか?

ゴミからエネルギーを生成するのは簡単ではなく、多くの紆余曲折がありました。最初に考えた方法は、メタン菌を使ったメタン発酵でした。しかし、メタン菌は生ゴミだけを分解するため、プラスチックや金属などを取り除く必要があり、非常に大きなコストがかかりました。

そこで、分別せずにメタン発酵できる方法を探していた際、東京工業大学の先生と出会い、高圧蒸気を利用すれば分別せずに分解できるというヒントをもらったのです。何度もプロトタイプを作り試行錯誤した結果、分別なしで分解できる技術が完成しました。

しかし、メタン菌が生きるための環境を整えるのにもコストと手間がかかりました。そこで、ISOPシステムでの生成物をそのまま固めてエネルギー源にする方法を考え、固形燃料の生成に至ったのです。

ISOP システム装置の説明
ISOP システム装置(画像:サステイナブルエネルギー開発提供)

―― 合成燃料の開発にも取り組まれていますね。

ISOPシステムの開発に取り組む中で、最大の課題となったのが高圧蒸気を生成するための燃料でした。ISOPシステムの脱炭素とランニングコスト低減を実現する目的で、何かないかと探していたところ、合成燃料製造装置と出会いました。ISOPシステムを稼働させるエネルギー供給装置としての実装を目指しています。


環境保全と経済性を両立するエネルギー

―― 御社技術による創出エネルギーをどのように活用されていくのでしょうか?

平時と有事で役割を分けて考えています。

平時については、自給自足できるエネルギーとしての普及を目指しています。エネルギー価格の高騰による課題の解決や環境に配慮した経営が求められる中で、こうした社会課題に向き合うソリューションとして提供していきます。

災害発生時には、非常用エネルギーとして被災地に迅速に供給できることを目標にしています。身近なゴミで電気を作ることができれば、ゴミ問題と電力不足の解決に役立ちます。

代表取締役社長 光山 昌浩氏
代表取締役社長 光山 昌浩氏

―― 御社の開発技術が普及すると社会にどのような影響があると思いますか?

円安や世界情勢による原油価格の高騰など、今後もエネルギーコストが下がることはないと思います。そのため、海外からの輸入に依存せず、身近な資源でエネルギーを作ることができれば、経済的なメリットが得られると考えています。

また、ゴミを燃やす際には二酸化炭素が発生しますが、弊社のソリューションによりこうした温室効果ガスを削減できるのも利点です。コストと温室効果ガスの削減を両立できれば、社会にとって有用なものとして広く利用していただけるはずです。

―― 今後の展望を教えてください。

現在、大手外食チェーン企業と2025年春頃のISOPシステムの稼働開始の商談を進めています。また、合成燃料についても、2025年度下期の市場展開を目指しています。その後の事業拡大を経て、IPOも目指しています。

ぜひ私たちの技術や目指す社会を理解していただけたらと思います。技術に興味のある学生の方々やシナジー創出に向けてコラボレーションできる企業、投資家の方々と共に取り組んでいければ嬉しいです。

Tag
  • #エネルギー
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