熟練職人の目利きをAIで実現、持続可能な鉄リサイクルの産業改革

熟練職人の目利きをAIで実現、持続可能な鉄リサイクルの産業改革

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KEPPLE編集部

近年、持続可能な資源利用の重要性が高まる中、鉄鋼業界においても鉄スクラップのリサイクルへの注目が高まってきている。鉄スクラップとは、建築物の解体工事や廃車、不要となった家電製品などの産業廃棄物から排出される鉄くずだ。

今回紹介するのは、鉄スクラップの自動解析AIシステムを開発する株式会社EVERSTEEL。同社は、これまで鉄鋼メーカーの検収員が目視で行っていた鉄スクラップの等級判定や異物検出の確認を、AIにより自動で行うアプリケーションを開発し、現在いくつかの工場の実際の製造ラインでアプリケーションが稼働している。このたび三井物産とのMOU締結を発表し、さらに事業拡大を加速していくという。代表取締役社長の田島 圭二郎氏と共同創業者の佐伯 真氏に詳しく話を聞いた。

熟練検収員のノウハウを落とし込んだ画像解析技術 

―― EVERSTEELの事業内容について教えてください。

田島氏:鉄鋼メーカーの中でも鉄スクラップを電気炉で溶かし、鉄鋼を再生産する電気炉メーカー向けに、鉄スクラップの自動解析AIシステムを提供しています。

スクラップの流れとしては、まずエンドユーザーから出た廃棄物を、鉄スクラップ業者、つまり産業廃棄物処理業者が集めます。その後、鉄素材だけを抽出するためマグネットなどを利用して選別された鉄スクラップが、電気炉メーカーに運ばれますが、どうしても除ききれない鉄以外の不純物が入ってしまいます。鉄スクラップは品種および等級を分けて流通管理されており、非鉄金属は不適合品として取り扱われるため、混入を防がなければなりません。

そのため、電気炉メーカーでは熟練検収員の方が鉄スクラップを一つひとつ目で見て、不純物を除去しています。ひとつの工場あたり、毎日1000〜2000トンのスクラップが入ってくるのに対して、検収員の方は5〜10人程しかいないのが実情です。なかなかチェックが行き届かないところを、画像認識AIを使ってより効率よくチェックすることで、不純物混入を防いで、鉄リサイクルを促進する事業を行っています。
鉄スクラップ解析システム 検収AI
――  御社の最新技術の特徴について教えてください。

佐伯氏:今まで現場の検収員が目視で判断していた鉄スクラップの品質を、当社のコア技術である画像解析によって仕分けることができます。どういった製品のスクラップなのか、含まれている成分は何かを見極め、鉄スクラップの用途や品質を示す等級規格を判断します。

鉄リサイクルの仕分けは、これまで人の判断に基づくものでしたが、細かい鉄スクラップを目で見て、すべてを正しく判断するのは不可能に近いことです。スクラップの品質を人以上に正しく判定・管理できるのが、当社の画像解析の技術です。


―― 自動解析AIシステムを開発・事業化される中で、技術的な課題をどのように克服されてきたかを教えてください。

佐伯氏:画像解析の技術を用いても非常に難しいのは、鉄スクラップの山の中から、電線やステンレスなど、鉄以外の部分が含まれているものを判断することです。鉄スクラップは大きさも形もバラバラです。例えば、廃棄物となった冷蔵庫は、扉が取れたり、潰れたりしています。そこから電線や鉄ではない部分を判断する必要があります。


田島氏:私は実際に、電気炉メーカー3社、スクラップ業者1社、合わせて4社の現場に作業員として入らせていただきました。2週間から1ヶ月、工場に毎日通い、一作業員として朝8時から夕方6時頃までスクラップを荷受けしてチェックする業務に立ち会いました。熟練の検収員の方がスクラップ一つひとつについて、安全か危険か判断しているのをずっと見ながら、なぜ今その判断をしたのかを都度ヒアリングしました。

佐伯氏:熟練の検収員の方が何十年もかけて培ってきたノウハウを画像解析技術に落とし込むために、彼らの経験や第六感による判断をいかに吸収するか、とても愚直に取り組みました。現場でお話を伺ったり、スクラップの写真を見てもらいながら、一つひとつ積み上げていった作業がようやく実りました。
現在の鉄スクラップの管理方法

鉄スクラップの健全な市場を創出

―― これまでの鉄リサイクル業界の課題について教えてください。

田島氏:鉄スクラップを集め、選別して売るのがスクラップ業者で、スクラップの等級を判断し、査定額を算出するのは買い取る側の電気炉メーカーです。検収員による属人的な等級判断のため、同じようなスクラップでも担当者によって買い取り価格が変わることもあります。一昔前は、賄賂を渡すことで買値が上がるなど、不透明な売買も行われていました。

現在も、高品質のスクラップほど高く売買される健全な市場は成り立っていません。そもそも廃棄物なので、品質の良し悪しは判断が難しいのです。スクラップをどれだけ頑張って選別しても安く買われてしまうと、コンクリートなど鉄以外のものをスクラップに詰めて、鉄を装って売りさばいて儲けを出そうという発想も生まれてきます。社会的には、これが一番の課題です。
鉄スクラップ選別の課題
―― 創業に至るまで、田島さんはどのような研究をされていましたか?鉄リサイクルに着目されて事業を立ち上げられた背景を教えてください。

田島氏:私は元々、東京大学で材料工学を学んでおり、鉄リサイクルの研究に携わっていました。鉄を溶かしてもう一度鉄にする時、混入する不純物によってどのような悪影響が出るのかという研究です。ただ、影響だけ見ていても根本的な解決には至りません。そこで画像認識と掛け合わせることを考え、スイスの画像認識技術に強い大学に留学しました。日本の電気炉メーカーにカメラを置かせてもらい、収集したデータをクラウド経由で受け取って、スイスで画像認識と鉄リサイクルを掛け合わせた研究に利用していました。それらの経験が創業のきっかけです。

消費者が環境に配慮した鉄製品を選択できる世界

―― 鉄スクラップのリサイクルがもたらすCO2排出量削減効果について教えてください。

佐伯氏:鉄リサイクルにより電気炉で鉄を製造した場合、高炉での製造と比べてCO2排出量をおよそ80%抑えられるというデータが出ています。もちろんそれだけが唯一の解決策ではなく、例えば高炉で鉄鉱石から製造する場合も、製鉄所の中で上手くエネルギーを循環させる、再生可能エネルギーを使う、石炭を燃やさず水素を活用するなどさまざまな削減方法があります。ただ、鉄の製造を鉄鉱石を中心とした方法からリサイクルに移行するのは、特に効果の大きな取り組みです。

※高炉:製鉄所の主要設備。鉄鉱石を熱処理して、鉄を取り出すための炉。炉内の温度は2000度以上になる。

鉄リサイクルによるCO2排出量削減可能性

―― 御社の技術がもたらす消費者のメリットについて教えてください。

佐伯氏:現在、日本でリサイクルによって年間に作られる鉄は全体の25%です。自動車など身の回りの製品のほとんどは、鉄鉱石、石炭から作られた鉄でできています。リサイクル鉄で作られたものは「グリーンプレミアム」などと、今はまだ特別なものとして扱われています。しかし、当社の技術を利用したリサイクルが促進されれば、リサイクル鉄で作られた品々を当たり前に手に取れるようになります。鉄の領域でも、環境に配慮した商品を消費者が自ら選択できる世界を作ることができれば、CO2排出量削減とともに消費者のメリットになると思います。


―― 国内や海外で競合となり得る技術やサービスはありますか?もしあれば、それに対する検収AIの優位性について教えてください。

田島氏:中国、韓国、ヨーロッパで同様の技術を開発している会社があります。しかし、中国や韓国の会社は、業務効率の改善を一番の目標としています。実は中国の鉄スクラップは質が高く、日本の方が不純物に苦しんでいます。日本は家電製品の小型化が進み、鉄をリサイクルするにも選別が難しく、不純物が混じりやすいからです。そのため、日本では熟練の検収員の方に目利きのノウハウが貯まっています。それを反映するAIを作ることで、本来の目的である「不純物を除去して鉄リサイクルを促進」できるのは、日本のデータだけです。大きな違いはそこだと思います。

さらに、セキュリティ面においても、国内企業である当社の製品を使った方がいいという声をいただいています。日本で海外のサービスを使うと、工場でその日に何トンの鉄が取引されているかの情報が筒抜けになります。すると、日本から鉄スクラップが海外に買い取られ、逆に高く売りつけられてしまうようなことも起きかねないからです。

国内でも数年前には取り組んでいた会社がいくつかありましたが、今はほとんど撤退してしまったようです。現場に入り込んで熟練検収員の方の技術を吸収するフェーズが必要なのですが、それがなかなかやりきれなかったのだと思います。AIにノウハウを落とし込めず、途中で離脱していった印象です。

田島氏と佐伯氏の写真

(左)田島氏 (右)佐伯氏

持続可能な鉄リサイクルのインフラ構築を目指す 

―― 今回締結される三井物産とのMOUにより、具体的にどのような取り組みを加速されるのでしょうか?

佐伯氏:現在、当社は鉄スクラップをAIで判定できるシステムを作っていますが、それを導入するだけでは、根本的な課題の解決にはならないと思っています。これを社会の仕組み、インフラとし、リサイクルの方法自体をもっと新しくする必要があります。社会に対して大きな影響力を持つ三井物産と一緒に取り組んで、スピーディーかつ大きく動けるようにするのが狙いです。前述した鉄スクラップ取引の不透明性についても、取引を担う当事者として変革していくことを目指します。


―― 今後の展望について教えてください。

田島氏:今後は、日本の現場の熟練検収員の方たちが持つ高いスキルを、さらにAIに落とし込んでサービスを磨いていくことがカギになると考えています。データが多いほどAIの技術は高まるため、まずは彼らのノウハウを言語化します。当社で大人数の作業員を雇用し、現場のノウハウを全て学んでデータを作成する専門チームを立ち上げます。

目利き作業のできるAIの精度が高まれば、鉄スクラップの本質的な価値に基づく判定が可能になります。品質のいいスクラップほど高く買い取れる客観的な判定ができるAIで、流通の最適化に取り組みます。不純物の混入しない鉄スクラップが流通する、透明な市場、社会の流れを作りたいと思っています。

将来的には、重くて大きい鉄スクラップを運搬でき、ロボットによって高度な選別ができるラインのある工場の仕組みを作りたいですね。

鉄リサイクルの実態はあまり知られていないですが、環境にもいい素晴らしい事業です。普及を促進し、事業に関わる方々の取り組みを広げていくことを目指します。

株式会社EVERSTEEL

株式会社EVERSTEELは、鉄スクラップ解析システムなどを開発する企業。 同社は、CO2排出量の多い鉄鋼業向けに、鉄スクラップの等級判定と異物検出をAI(人工知能)で自動解析する検収AIアプリケーションを開発する。鉄スクラップなどの等級分類や密閉物などの危険な異物を除去するため、検収員が目視で行っていた確認をAIシステムで解析することを目的とする。 同アプリケーションは、インターネットを利用することでリアルタイムの解析結果を現場以外でも閲覧できるほか、納入業者ごとの実績・スクラップ銘柄・重量など、データの連携が可能だという。

代表者名田島圭二郎
設立日2021年3月16日
住所東京都文京区本郷7丁目3番1号東京大学南研究棟アントレプレナーラボ202
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