医療機関の盾に──医療サイバーセキュリティクラウド開発のMTUが4.5億円調達

医療機関の盾に──医療サイバーセキュリティクラウド開発のMTUが4.5億円調達

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KEPPLE編集部

目次

  1. 患者の情報をサイバー攻撃から守る
  2. 対策が急務の医療機関、一方でセキュリティ人材は不足
  3. 医療に貢献したい、2度目の起業で事業をさらなる高みに
  4. 目指すは創薬の加速、製薬企業と病院のつなぎ役に

メディカルセキュリティクラウドサービス「Mowl(マウル)」を開発するMTU株式会社がシリーズAラウンドセカンドクローズにて、第三者割当増資による4.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回のラウンドでの引受先は、Gazelle Capital、ユナイテッド、D4V、Iceblue Fund、90s、トグルホールディングス。

今回の資金調達により人材採用を強化し、サービスの全国展開を加速する。

患者の情報をサイバー攻撃から守る

同社が支援するのは、医療機関のサイバーセキュリティ対策だ。医療業界におけるサイバー攻撃は近年増加を続けている。

民間企業の情報セキュリティ事故に関する報道を目にしていれば、医療情報の漏洩がいかに深刻な問題となるかは想像にたやすい。医療システムがウイルスに感染すれば、院内における医療活動が停止し、患者の生命が危機にさらされる可能性もある。

こうした背景から、医療機関や関連事業者は、厚生労働省・経済産業省・総務省の3省が策定した2つのガイドライン、通称「3省2ガイドライン」に準拠してサイバーセキュリティ対策を行うべきとされる。また、2023年4月より、病院や診療所、助産所におけるサイバーセキュリティの確保が義務化された。

一方で、IT人材の不足や対応すべき項目の多さから、実際のサイバーセキュリティ対策に課題を感じる医療機関も多い。

Mowlは、ITセキュリティ部門やデータ管理部門の業務を支援する、メディカルセキュリティに特化したクラウドサービスだ。医療機関のセキュリティ対策の状況を可視化し、独自の「偏差値」を算出してレポーティングする。すでに35の医療機関で導入されている。

メディカルセキュリティレポートのサンプル

今回の資金調達に際して、代表取締役CEOの原 拓也氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

対策が急務の医療機関、一方でセキュリティ人材は不足

―― 医療機関に対するサイバー攻撃の現状とは?

原氏:医療機関へのサイバー攻撃による被害は、この数年増え続けています。実際に攻撃を受けて、患者情報の漏洩を恐れて、要求された金銭を支払ってしまうケースもあるほどです。被害が表にはあまり出ていなかっただけで、医療機関はそれぞれで対策を進めています。

人的インシデントによる被害を防ぐには限界がありますが、そもそもシステム的な対策をできていない病院も多いのです。ITリテラシーがあまり高くないため、システムの構築を業者任せにしてしまっているという課題があります。

病院内でシステムエンジニアを雇用していても、サイバーセキュリティへの対策が主業務である人は多くありません。そのため、病院だけでガイドラインに準拠した対応をする難易度が高くなっています。

メディカルセキュリティサポート サンプル
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医療に貢献したい、2度目の起業で事業をさらなる高みに

―― 創業のきっかけを教えてください。

私はがん家系に生まれ、祖父母をがんで亡くしました。私にとって非常に苦しい経験で、医療に貢献できる仕事に就きたいと思うようになった大きなきっかけです。

新卒では医療とは別の分野の会社に就職をしましたが、第二新卒でジョンソンエンドジョンソンに入社しました。営業として数年勤めた後に、予防治療の病院紹介マッチングプラットフォームの事業で起業して医療会社に売却し、2度目の起業で設立したのがMTUです。

―― 起業自体は以前から考えていたのでしょうか?

肺がんで亡くなった叔父が、上場企業の社長を務めていました。その叔父から「拓也はいつか自分で会社を立ち上げてみるといいよ」という遺言に近いメッセージをもらったことがあります。

叔父はサラリーマン社長だったので、経営に関して自由が利かないこともあったのだと思います。そんな叔父のメッセージを受けていつかは起業しようと思っており、ジョンソンエンドジョンソンで日本営業の表彰をされたことをきっかけに起業しました。

―― Mowlの着想のきっかけは?

病院向けのIT提供という点は変えずに事業を行う中で、3省2ガイドライン策定に携わった人が入社したんです。それが2022年の後半ごろで、医療機関におけるサイバーセキュリティ対策のニーズが増加したタイミングと合致しました。

マイナンバーカードに健康保険証情報が入ることも決まり、これから医療情報のデジタル化がさらに加速していく。そう考えた際に、セキュリティ領域は、大手SIerが単価の高いサービスを提供しているのみで参入余地が大きかった。スタートアップとして、スピード重視で事業をスケールさせられると感じたんです。

また、大きかったのはコインチェック(旧:レジュプレス)を創業した和田 晃一良さんの参画です。セキュリティ領域の専門家がいることで、強固なセキュリティクラウドサービスの開発につながりました。

目指すは創薬の加速、製薬企業と病院のつなぎ役に

―― 資金調達の背景や使途について教えてください。

データ管理に関するセキュリティ部門の開発費に加え、採用を強化する予定です。これまで業務委託の人材をうまく活用してきた一方で、自社の人材が不足しています。人材紹介会社との取引も増やし、エンジニアやセールス、CSをはじめ、広範囲な人材採用を加速します。

また、これまでは関東圏を中心にプロダクトを提供してきました。今後はウェビナーやイベントの開催も強化し、全国に向けてプロダクト提供を拡大していきます。

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

足元ではプロダクトの導入を最大化し、日本全国、そしてアジアで医療向けのセキュリティクラウドとしてしっかりとポジションを取ることが重要です。来期中に300程度の医療機関への導入を目標としています。

薬の進化は、健康寿命の延伸に貢献するはずです。そのためにも、サービス提供を通じて得た患者さんのデータを活用し、製薬会社に貢献するITプラットフォームを構築するのが先決です。プラットフォームをより多くの病院に導入し、製薬会社と病院のつなぎ役として、創薬を加速させたいと考えています。

日本は高いレベルの医療技術を持つにもかかわらず、製薬分野では世界に後れを取っていてもったいない部分があります。まずは国のセキュリティガイドラインに則ったITスタートアップとして事業拡大しながらも、将来的には「MTUのソリューションがあることで少しでも早く患者さんに薬を届けられた」と製薬会社に言ってもらえるよう、「医療 × IT × AI」の文脈で世界を代表する会社になっていきたいと思っています。

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