オンライン診療サービス「curon」を運営する株式会社MICINがシリーズCラウンドにて、第三者割当増資と融資による40.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、アルフレッサ、MTG Ventures、東邦ホールディングス、WiL Fund II, L.P.の4社。融資における借入先は、あおぞら企業投資。
今回の資金調達により、オンライン医療事業、デジタルセラピューティクス事業をはじめとする各事業の成長に加え、事業間の一層のシナジー創出を目指す。
オンライン診療を手軽に受けられるワンストップサービス
curonは、医療機関と患者をつなぐオンライン診療サービスだ。医療機関の予約、ビデオ通話による診察、決済、医薬品の配送・服薬指導までワンストップでサービスを提供する。
患者のcuron利用料金は、1回の診療あたり330円。一方、医療機関側は、導入コストや月額料金がかからず、オンライン診療を円滑に導入することが容易となる。curon導入により、患者がより手軽にオンライン診療を受けられる環境が整備され、医療のアクセス性向上に寄与する。
さらに、KDDIと協業しcuronとauウェルネスを連携してサービスを展開。また、J:COMとはテレビ画面でオンライン診療が受けられる「JCOMオンライン診療」を協働開発している。
curonの導入クリニック数は6000件を突破しており(2023年12月現在)、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、ここ数年で急速に活用が広がっているという。
さらに、デジタルセラピューティクス事業では、医学的エビデンスに基づき、疾病の管理のみならず、予防や診断、治療を支援するアプリを開発する。手術を受ける患者向けに、入院前から退院後の回復までフォローアップする治療補助アプリ「MedBridge」や、患者の呼吸音を取得し診療に活用できるアプリ「生体音測定アプリ BSA-01」などを開発している。
他にも、製薬企業向けの治験におけるDXサービス「MiROHA」や、子会社としてMICIN少額短期保険株式会社を立ち上げ、病気にかかった後の再発に伴う経済的な負担や不安を軽減するための保険も展開している。
今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 原 聖吾氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
テクノロジーの力で医療の可能性を広げる
―― 医療業界における課題について教えてください。
原氏:現在の医療においては、最適な診断や治療、保障が最適なタイミングで提供されていないという課題があると考えています。それによって、病気の発見が遅れたり、治療を途中で中断したために、症状が悪化してしまうといったケースが生じる可能性があります。また、適切な診断や治療法が不透明であったり、それが分かっていても必要なタイミングで患者に届けられないという課題も存在します。それらの解決のためには医療データの活用が欠かせません。患者のプロフィールや病気のリスク、現在の病状などの情報が蓄積されていく必要があります。さらに、病気の予防や進行を抑制するための対策にもデータが重要です。
―― curonを始めようと思ったきっかけを教えてください。
元々は、医師として医療現場で働いており、患者が病気と向き合う際に、後悔の念に苛まれる姿をたびたび目にしました。たとえば、過去に激しい喫煙歴があって末期の肺がんになった患者が「将来こんなにつらい状態になると分かっていたら、もっと健康的な生活を選びたかった」といった後悔の声を多く聞きました。
医療の領域にはさまざまな取り組みや企業、研究が存在しますが、人の健康寿命を延ばすためのアプローチやイノベーションは進展している一方で、病気に罹った患者に対する対応プロセスはあまり変わっていないと感じました。病いと向き合うための新たな解決策を提供するため、まずは医療をもっと身近に簡単にすることを通じて、医療と患者のデジタルの接点も増やすことのできるオンライン診療サービスとしてcuronを立ち上げました。
これまでに、医師として臨床現場で働いた後、シンクタンクでの業務や、MBA取得後マッキンゼーでのコンサルティングなどさまざまな経験を積み重ねてきました。それらが、新たな領域への挑戦や経営などあらゆる面で今のビジネスに活かされていると考えています。
―― さまざまな事業を手がけられていますが、どのように広がっていったのでしょうか?
「すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を。」というビジョンは創業当初から変わっておらず、医療データを活用して価値を生み出すことは念頭においてきました。最初はオンライン診療から始めましたが、ビジョンの実現のためには、複数のビジネスを組み合わせて大きな価値を作っていくことが必要だと考え、事業を広げてきました。
特にデジタルヘルスと保険は非常に相性がよいと思っています。デジタルヘルスでいろいろなデータが蓄積されていくので、それに基づいた保険を作ることができます。逆に保険に入っている方々向けにデジタルヘルスのサービスを提供することで、病気のリスクを抑えることができ、保険商品としても、より事業性を高めていくことができるだろうという発想で、事業に取り組んでいます。
―― デジタル医療分野が拡大する中、御社の強みは?
オンライン診療やデジタルセラピューティクス、臨床開発デジタルソリューションなどの市場は徐々に広がっていますが、私たちは競合がほとんど存在しない段階から、先駆けてこの領域に取り組んできました。
そのうえで、我々の強みとしては、医療従事者と患者の双方に焦点を当て、医療現場のオペレーションを深く理解しつつ、患者にもしっかりと使われるサービスを開発することに注力しています。そして、医療従事者の目線で価値を訴求し、制度や規制の変化にも柔軟に対応することで、医療現場、団体との信頼関係を築いています。そのような動きが信頼につながり、サービスが広がってきたと感じています。
個々の人生を包括的にサポートできる世界へ
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
創業以来、私たちの事業は着実に成長を続けていますが、今後の拡大を加速させるために資金調達を行いました。特にオンライン医療事業とデジタルセラピューティクス事業が、主な成長ドライバーになると考えています。
調達資金の使途としては、プロダクト開発人材の採用やオンライン医療事業では販促・マーケティングに充てます。また、デジタルセラピューティクス事業では、開発プロダクトの安全性、有効性を示すために治験を行っていきます。健康な時から病気になった時まで、より包括的にサポートできるサービスの提供を目指します。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
まずは、それぞれの事業が着実に成長し、広く利用され、信頼性を高めることが目標です。その後、長期的にはこれらの事業を組み合わせ、新たな価値を提供していくことを目指しています。
デジタルヘルスと保険を組み合わせたサービスはまだ一般的ではなく、簡単なものではありません。この二つを同時に展開していくことには苦労していますが、これは私たちにしかできない領域だと確信しています。これらを組み合わせたサービスによって新たな価値を社会に提供していきたいと思います。
私たちは医療の中心に立ち、まだ市場ができていないような新しい領域でチャレンジを続けています。それゆえになかなか上手くいかないこともありますが、新たな提供価値を見い出していくことにやりがいを感じています。
実際に、私たちのサービスを通じて適切な治療を受けることができ、初めて自分の病気に合った治療を受けることができて症状が著しく改善したという声が寄せられたり、多くの自治体や医師会に使っていただき、我々のサービスが無ければ損なわれていたかもしれない健康を生み出すことのでできる事業だと思っています。ぜひ私たちの取り組みに興味をもってくださる方には、チームに加わっていただき、共にチャレンジしていければ嬉しいです。