メンタルヘルスにおけるカウンセリング市場の規模、コロナで事業は拡大傾向【2023年4月更新】

メンタルヘルスにおけるカウンセリング市場の規模、コロナで事業は拡大傾向【2023年4月更新】

谷口 毅

  • #KEPPLE REPORT
  • #ヘルスケア

メンタルヘルスは大きな市場

世界の人口の10.7%が何かしらのメンタルヘルスの不調があるといわれている。その中でも、不安障害(人口の3.8%)やうつ(人口の3.4%)を抱えている人が目立つ※1

新型コロナウイルスの感染拡大が更なる悪影響をもたらしている。OECDの調査によると、うつ病やうつ状態の日本人の割合は、2013年時点では7.9%だったが、コロナ後の2020年には17.3%と増えた。日本に限らず、他の先進国でもうつ病やうつ状態の人が、コロナを経て2-3倍増えている※2

メンタルヘルスの問題を放置するとどのような問題があるのだろうか?まず、医療コストが増大してしまう。「うつ病の疾病費用研究」の論文※3によると、医療費の増大などによる財政逼迫が続く中では、メンタルヘルス不調への対処は緊急を要する課題といえる。企業にとっては、不調者が増えることによる生産性の下落、人事の事務負荷の増大、休職・退職の発生に伴う採用コスト増加などのマイナス面が大きい。例えば、年収500万円の会社員がメンタルヘルスの不調で半年間休職すると、会社にとっては250万円の売上を逃すことになる(年収が売上と同じと仮定した場合。実際は、売上が人件費を上回るケースが多いため、休職による売上の減少インパクトはより大きいと考えられる)。この会社員が休職しなくてもよい状態にできるのであれば、企業は喜んで月数万円程度のメンタルヘルスにかかる費用を負担すると考えられる。

メンタルヘルスの主要領域

日本では、最近注目された市場ということもあり、上場企業はまだ多くはない。2017年12月に東証一部に上場したアドバンテッジリスクマネジメントは、職場におけるメンタル疾患の早期発見・対応を行っている。2022年3月には、産業医のサポートを手掛けるメンタルヘルステクノロジーズがマザーズ市場に上場した。2023/04/05時点では、公開価格から株価が44%上昇しており、同期間にマザーズ指数が2%下落したことを踏まえると、投資家のメンタルヘルス市場への拡大期待が根強いといえる。

メンタルヘルスの領域は非常に広い。アプリなどで展開しているモバイルヘルスでは、主に瞑想・コミュニティ・デジタルセラピー・カウンセリングのカテゴリーが挙げられる。KEPPLEでは、モバイルヘルスの業界レポートも公開している。

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瞑想領域の最大手は、2020年の調達で20億ドルの企業価値がついた米国のCalmであろう(ただし、その後は調達を行っていないため、直近の評価額は不明)。瞑想プログラムや入眠コンテンツを含むアプリが月15ドルで利用可能となっており、日本でも2020年からサービスの提供を開始している。Calmの最大の競合であるHeadspaceは、2021年にメンタルヘルスカウンセリングのGingerとの合併を発表し、当時の企業価値は30億ドルと見られた。米国では、大手による合従連衡が見られる一方、日本ではアーリーステージのスタートアップが増えている。禅に基づいた瞑想アプリのInTrip、瞑想誘導音声のRelook(ARETECO HOLDINGSが2021年に吸収合併)、自律神経の状態を見える化するUpmindなどが新たな市場を開拓している。

カウンセリング企業は、専門家からのアドバイスを受けるためのマッチングプラットフォームを提供している。この領域は、今回のメイントピックであるため、後半で詳しく記載したい。

同じメンタルヘルスの悩みを持つ者同士で会話ができるツールがコミュニティである。プロに相談ができるカウンセリング市場の方が先に立ち上がっているが、カウンセリングだけでは解決できないニーズを捉えられる可能性がある。例えば、カウンセリングの合間に患者が孤独を感じ、同じような経験を持つ他者に話を聞いてもらいたいかもしれない。日本では、かいじゅうカンパニーが励まし合いや情報共有ができる『U2plus』、ベータトリップがうつ病患者の家族向けコミュニティサイト『エンカレッジ』を展開する。

デジタルセラピーは、薬物療法と行動療法を併用してメンタルヘルスの改善を試みるものである。日本では、ジョリーグッドなどがVRを用いたデジタルセラピーを提供している。薬物療法のみでは、うつ状態が再発する可能性があるため、VRを用いた行動療法で患者のマインドを変えて再発を防止する狙いがある。

カテゴリー国内企業例海外企業例
瞑想InTrip、UpmindCalm、Headspace Health
カウンセリングCotree、ココドコロ、マイシェルパTalkspace、Ginger
コミュニティかいじゅうカンパニー、ベータトリップTalk Life、Marigold Health
デジタルセラピーBiPSEE、ジョリーグッドMinded、Spring Health

メンタルヘルスカウンセリング市場

今回は、メンタルヘルス領域の中でも、カウンセリングに着目する。日本のメンタルヘルスのカウンセリング市場の規模は、300-350億円といわれているが、1兆円程度の占い市場などに比べるとかなり小さい※4市場がまだ小さい理由としては、患者側とカウンセラー側の双方に固有の問題があることが一因として挙げられる。

患者側から見ると、精神疾患を抱えていてもカウンセリングのサービスを利用する人が少ない。世界同様、日本でも人口の10%強が何かしらの精神疾患を抱えているといわれているが、そのうち精神疾患の治療のため通院しているのは、28%程度である。裏を返せば、精神疾患を抱えているにも関わらず、通院していない日本人は約950万人もいるということになる。長野県精神保健福祉センターが未治療・受診中断の精神疾患患者に未治療・受診中断の理由の聞き取りを行ったところ、「本人が病気を認めない」や「本人の受診(服薬)への抵抗」という理由が大半だった※5。精神疾患に対する社会のイメージや受診に対するネガティブな印象などが通院を妨げている可能性がある。

カウンセラー側から見ると、精神専門家医は日本に1.1万人いるが、既に業務過多になっており、診察を更に増やすのは困難といわれている。一方、臨床心理士の資格を持つ人は3.8万人いるが、そのうち半数以上は非常勤もしくは勤務しておらず、稼働を増やせる人が多い※6カウンセリングの担い手としての臨床心理士を上手く活用できていない実態が浮き彫りになっている。他にも、カウンセラーとして、保健師や産業医を思い浮かべるかもしれない。しかし、保健師や産業医はメンタルヘルスケアの専門家ではないため、適切なカウンセリングを行うのは難しい。

国内企業事例

上記のようなメンタルヘルスカウンセリング市場における課題に取り組む企業を紹介したい。2016年に創業した株式会社マイシェルパは、オンラインカウンセリングプラットフォーム「MySherpa」を提供している。BtoBモデルが主体であり、顧客である法人は、従業員数に基づく月額定額プランを払う仕組みになっている。契約企業の従業員は、MySherpa上でカウンセリング予約をすることで、無料で何回でもオンラインカウンセリングが利用可能となる。これは、カウンセリングのハードルを下げる効果がある。また、カウンセリングが行われるたびにカウンセラーに支払いが行われるため、臨床心理士の稼働や収入を増加させられる。メンタル不調者と臨床心理士双方にとって、必要なサービスといえる。

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MySherpaの競合優位性

日本では、メンタルヘルスケアのカウンセリングマッチングを提供する会社が数多くある。最大手は、BtoCモデル(患者と直接契約)が中心のCotreeであるといわれている。Cotreeは、外部からの資金調達を発表していないため、事業規模は不明である。ただ、専業の上場企業がまだ存在しないことを踏まえると、どの企業にも市場のリーダーになる可能性が残されていると考えられる。

その中でのMySherpaの競合優位性は、①国内唯一の精神科専門医が監修するツールであること、②心理療法と精神医学における有資格者のカウンセラーのみが登録していること、③オンラインによる対話カウンセリングを提供していることが挙げられる。

①について、精神科専門医である代表取締役の松本 良平氏の知見を反映させることで、カウンセラー・患者の双方に対して医学的な見解をベースにしたサポートを提供可能にしている。また、カウンセリング時に医療サポートが必要と判明した場合は、専門医への紹介をスムーズにできる。

②について、カウンセリングの質を担保できるというメリットがある。競合の多くは、資格を持たないアマチュアもカウンセリングを担っており、カウンセラーによってサービスの質のばらつきがあると考えられる。

③について、同社は、カウンセリングの際に生じる表情、口調などの非言語的なコミュニケーションが、治療では効果的と考えているため、オンラインによる対話カウンセリングを行っている。これは、チャット相談が主体のトークCARE(LINE提供)、東京メンタルヘルス・スクエア、メンタルケアーズや、電話相談が主体のエキサイト相談、ボイスマルシェなどと異なるアプローチである。

海外先行事例

海外における先行事例として、2021年にナスダックに上場したTalkspaceが挙げられる。時価総額(2023/04/05時点)は1.2億ドル、とナスダック企業の中では小粒ではあるものの、直近3年で売上が3.1倍になっている。同社によると、同業のBetterhelp(遠隔医療のTeladoc Healthが2015年に17百万ドルで買収)、Doctor On Demand、Cerebral、Brightside Healthなどよりも認知度が高いという※7

Talkspace

  • 設立期:

    2012年

  • 携帯電話のショートメッセージ、電話、ビデオ会議システムにより、セラピストや臨床医からカウンセリングを受けることができる。2021年にSPAC上場を果たす。赤字企業に対する目線が厳しくなる中で、営業赤字の解消に取り組んでいる。

同社は、BtoBとBtoCの両方のモデルを提供している。BtoBでは、クライアント企業が自社の従業員に福利厚生の一環として、メンタルヘルスカウンセリングを提供している。同社がBtoB事業に本格参入したのは、2019年からだが、2022年の売上に占める比率は54%と急速に伸びており、BtoBが同社の成長を牽引している。クライアントには、GoogleやAccentureなどの大手企業が含まれる。

TalkspaceのBtoBモデルでの成功を見ると、同じくBtoBを手がけるマイシェルパのポテンシャルが高いことが示唆される。一方、BtoC向けの売上は減少傾向であり、患者自身が費用負担をする場合の継続率には課題が見られる。

赤字企業に対する目線が厳しくなる中で、同社にとって営業赤字の解消が直近の最優先事項である。粗利率は50%程度と優良なSaaS企業の粗利率には劣るため、販促費の抑制が大事になってくる。一方、売上拡大には認知向上が重要であり、売上と利益増加の間で難しいバランスを強いられるかもしれない。

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参考
※1 https://ourworldindata.org/mental-health
※2 https://www.oecd.org/coronavirus/policy-responses/tackling-the-mental-health-impact-of-the-covid-19-crisis-an-integrated-whole-of-society-response-0ccafa0b/
※3 https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1160020107.pdf
※4 https://leading.ihs.c.u-tokyo.ac.jp/ja/schedule/reports/post/3_161124_cotree_01/
※5 https://www.pref.nagano.lg.jp/seishin/tosho/documents/paper2012carepat.pdf
※6 https://job-medley.com/tips/detail/216/
※7 https://talkspace.gcs-web.com/static-files/d1f64217-8ae8-4d42-9b9e-e31e05cfb37d


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Writer

谷口 毅

株式会社ケップル / Database Division Manager・アナリスト

新卒で資産運用会社のFirst Sentier Investorsに入社し、アナリストとしてアジア・日本の株式の分析を行う。その後、リクルートでプロダクトマネージャーを経験。2022年にケップル入社。現在はデータベース部門を管掌、および新規事業部門を兼務。スタートアップデータ拡充のためのプロダクト企画、分析、新規事業開発などを担う。

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