「不調になってから」では遅い──社員のバーンアウトを未然に防ぐBOOOST

「不調になってから」では遅い──社員のバーンアウトを未然に防ぐBOOOST

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KEPPLE編集部

近年、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」に注目が集まっている。

世界的な潮流を受けて日本でも重要性が認識され、企業経営に不可欠なキーワードとなりつつある。従業員のエンゲージメントや生産性の向上、人材流出の防止など、そのメリットから人的資本経営に取り組む企業も増えている。

一方で、人材育成やワークライフバランス、人的資本情報開示に向けた準備負担など、課題も多い。

新年度が始まるこの季節は、「5月病」と称されるように新しい職場環境への適応を求められる中で、精神に不調をきたす社員も少なくない。ストレスの蓄積や社員のモチベーション・生産性低下は、企業にとっては避けたい事象だ。社員の離職が起きてから対処するのでは遅い。

こうした中、企業向けに社員の自己成長やストレス対処を促すサービスを提供するのが2022年設立のスタートアップ「booost health」だ。

組織と個人の持続的成長を支援するメンタルケアサービス

同社が開発する「BOOOST」は、ストレスによる社員のバーンアウト(燃え尽き症候群)を防ぎ、自己管理能力やストレスケアの能力向上を支援するメンタルケアサービスだ。同社は、医師家庭に生まれた芳賀 彩花氏が設立した。

ユーザーはサービス上で質問に回答することで、悩みや状態に応じて課題解決に結びつく改善方法が提案される。定期的に実施する各セッションでは、ユーザーが自身で取るべきアクションを決めて実行するよう促す仕組みだ。

画像:booost health提供


初回セッションは、臨床心理士やカウンセラーなどの資格に加え、業務経験を持つ「コーチ」との面談を実施する。2回目以降はユーザー自身でセッションを実施するが、コーチが定期的にメッセージなどを通じて介入し、ユーザーの継続利用をサポートする。

メンタルヘルスの文脈で語られるサービスには、顕在化した不調やストレス、悩みの解消を支援するものが多い。不調になってから専門家を頼るのではなく、社員が自分自身でストレスや課題と向き合い、対処する能力を獲得するのがBOOOSTのアプローチだ。

すでに一部の大手企業でサービスの試験導入を開始。2024年中には正式リリースを予定している。

代表取締役CEO 芳賀 彩花氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

「不調になってから」では遅い

――BOOOSTの特徴について教えてください。

BOOOSTは、未然に社員の不調を防ぎ、さらに成長につなげていくメンタルケアサービスです。活躍するアスリートが専任のメンタルコーチを付けているのと似たイメージです。「不調になったら専門家に見てもらおう」ではなく、自ら悩みを自己解決してストレスケアできる状態を目指します。

心療内科医、心理士、キャリアデザインの専門家の監修を受け開発したBOOOSTのオンラインプラットフォームのセッションを開始すると、簡単な質問への回答を求められます。回答に応じて、シナリオが分岐し、認知行動療法やコーチングなどの理論に基づいた、ユーザーが取れるアクションの選択肢が提示されます。実際のアクションはユーザーが決定して実行し、振り返りまで行うことで自己肯定感があがり、課題に対する進展も得られるのでメンタルコンディションが改善していきます。

「なるべく自分で解決したい」「周りに相談するにしても、まず考えを整理したい」「前向き・建設的な自分でいたい」、私自身もそうですが、そういったビジネスパーソンのニーズに応えていきます。

また、サービス導入の効果が一時的なストレス緩和に留まるべきではないと私たちは考えています。継続的に利用することで、ストレス対処の思考法や自分にあったエネルギー充電方法を身に着け、社員が自律的にストレス対処・セルフケアをできるようになることが、BOOOSTの本質的な効果です。その結果、会社と社員の継続的なパフォーマンス向上実現に繋がることを目指しています。

コンディションやストレス耐性にどれほど変化があったのか、定量的な効果測定ができるように社員や企業向けにレポートを提供する点も特徴です。

―― なぜBOOOSTのようなサービスが必要なのでしょうか?

社員が仕事をしていく中で、自分自身の限界を超えてバーンアウトしてしまうことは珍しくありません。私自身、経営コンサルタントとして長年多くのビジネスパーソンと働いてきた中で、心身の不調が顕在化してからの対応に終始し、ご本人にも企業にとっても大きな損失になる事例を見てきました。

働き方改革などで労働時間や労働環境は近年大きく改善しました。しかし、社員へのストレスは今後違った形で発生します。VUCAの時代、社員にも決まった仕事をきちんとこなすことが求められたこれまでと異なり、新たなことに自ら取り組む主体性がより求められる風潮に変わってきています。「キャリア自律」「イノベーション」「イントレプレナーシップ」と言ったキーワードがそれを物語ります。

こういった新しい働き方や変化にうまく適応できなかったり、もしくは自分を追い込みすぎたりすると、エンゲージメント低下やバーンアウトだけでなく、静かな退職に繋がります。企業としても「辞める人は辞めればいい」というスタンスでは、少子化が進む日本で、この先優秀な人材を確保し続けることは難しくなるでしょう。

我々が実施した調査で、会社で働く人のほとんどが何らかの悩みを抱えているにもかかわらず、改善はされていないことがわかりました。悩みを抱え込んでしまう人が多く、単純に社内の相談窓口を設置するだけでは支援としては不十分なのです。

誰かを頼らず、悩みを抱えてしまう社員は多い(画像:booost health提供)


社員は突然不調になるわけではありません。危険信号が見え隠れしていても周りには相談できずに放置してしまうんです。ストレスが顕在化すると再発率も高く、休職や退職は社員にとっても企業にとっても大きなコストになってしまいます。

だからこそ、社員自身が、ストレスに対してうまく対処して課題を解決する、セルフケアの実践をサポートできるサービスが必要なのです。

企業への貢献意欲が高いほど抱えてしまうストレス

―― 創業のきっかけを教えてください。

学生の頃から、ゼロイチで新しい価値を社会に届けたいとの思いから、起業を考えていました。新卒では、自分一人の力で何かを成し遂げられるような力を身につけたいという思いから、コンサルティングファームに入社しました。

コンサルタントには高いクオリティのアウトプットが求められ、大きなプレッシャーがかかります。クライアントも同様で、責任感があって優秀な人ほど自分の限界を超えて燃え尽きてしまうんです。

その徴候は本人にとっては自覚しづらいもので、周りがなんとなく気づいていたとしても何らかの働きかけをするのは実際には難しいものです。私自身、悩みを抱える同僚のことを気にかけてはいたものの手助けを十分にできなかったことがあります。逆に、ストレスと上手に向き合っている人はどんどん自分の能力を発揮して成果を出していたんです。

代表取締役CEO 芳賀 彩花氏


ただ、こうしたメンタルケアは、不調になって初めて専門家に相談する自己責任的な位置づけになっているのが日本の実情です。実際にバーンアウトする人を目の当たりにした経験から、マイナスをゼロにするのではなく、ゼロをさらにプラスに変えていくような、未然予防に特化したサービスを作りたいと思って創業しました。

アジア圏に日本発の新たなメンタルケアを

―― 今後の展望を教えてください。

現在、数社でパイロット版のサービス提供を開始しています。小規模な部署からの導入を通じて、全社での利用を促す取り組みです。UIやUXの改善を進め、これから1年間でさらに複数の企業で成功事例を作ることを目標にしています。

また、欧米では以前からカウンセリングが主流で、カウンセラーとのマッチングサービスも多く普及しています。一方で、文化や自己開示に対する考え方が異なる、日本やその他のアジア諸国でも同じように普及するかはわかりません。日本やアジアならではのポジティブなメンタルヘルスへの取り組みを、日本発のサービスとして広げていきます。

―― 今後の意気込みをお願いします。

これまでのメンタルケアは、不調になってから初めて対処するリスク管理的な意味合いが強かったと思います。社員のストレス対処力向上に投資をすることで、休職や退職による損失を減らすだけでなく、社員のパフォーマンスが向上するはずです。

この効果に関しては、近いうちに論文の発表による明確なエビデンス化を目指しています。人的投資の効果を定量的に実証し、対症療法としてではなく、根本的に効果のあるメンタルケアにつながるサービスに成長させていきたいと思います。

Tag
  • #メンタルヘルス
  • #人材育成
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