筑波大発のAIロボティクス、食品産業のイノベーションを促進

筑波大発のAIロボティクス、食品産業のイノベーションを促進

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DeepTech Trend

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KEPPLE編集部


製造業の中でも食品産業における欠員率は近年高い値で推移しており、労働力不足は他産業と比べても逼迫した状況となっている。そのため、経済産業省の「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」や、農林水産省の「食品製造業等の生産性向上」の取り組みなど、食品産業にスマート技術導入を促進するさまざまな施策が行われている。

※欠員率:常用労働者に対する未充足求人数の割合


このような課題に向き合うのが、筑波大発のAIロボティクス企業、株式会社Closerだ。食品製造現場が直面する人手不足や生産能力の課題を、コア技術であるAI画像処理、ロボット制御技術で解決する。

同社が開発するのは、小型かつ操作が簡単で拡張性が高く、省人化に最適化されたロボットパッケージ。主力製品である包装ロボット「PickPacker」は、食品工場の包装・箱詰め作業における「つかんで置く」タスクを自動化する。今秋の本格導入を目指し、カップ味噌汁の製造工程における開発を進めているほか、今冬には大手食品メーカー工場への導入も予定している。

PickPacker


今年5月にはシードラウンドで1億円の資金調達を実施。AIロボットパッケージの導入拡大と、エンジニアを中心とした人材採用の強化を図る。同社の技術開発の背景や今後の展望について、代表取締役 樋口 翔太氏に詳しく話を伺った。

自動化の進まなかった食品産業の新たなソリューション

―― 御社の技術的な強みについて教えてください。

樋口氏:当社のPickPackerは、ロボット制御、AI画像処理、UI/UXを、自社開発コントローラーに接続しています。従来はロボットを制御するカメラを購入し、ハードウェアと合わせてシステムを構築しますが、当社はそこをワンストップで開発しているため、ソフトウェアを微調整するだけで、さまざまなパターンに対応できるのが強みです。

この先端技術によって、不定形の食品をつかむ作業や、認識の難しい反射する物などを扱えるようになります。ロボットの導入費用として一番大きい、システム構築にかかる人件費を大幅に下げることで、これまで検討段階で諦めていた工場への導入が実現します。

当社のソフトウェアをロボットに適用するために、ファナックやデンソーウェーブなど、日本を代表するロボットメーカーと連携することで、微調整をサポートしていただいています。協力を得られたのは、当社の技術によって新たな市場を開拓できる可能性を感じていただいているからだと考えています。


―― 従来の食品業界における課題について教えてください。

食品業界は人手不足が顕著で、生産力を上げたくても上げられないのが現状です。自動車や電機・電子産業に比べて、圧倒的に自動化やロボットの導入が進んでいません。ロボット業界自体も、自動車や電機・電子産業に特化しています。自動車業界が扱うのは硬くて形状の変わらないものであるのに対して、食品業界が扱うのは柔らかいものです。そのため、同じ技術では適応が難しいのも、導入が進んでいない原因です。

これまでの経験やヒアリングを通じて得られたのは、食品業界の「繰り返し作業や重労働をロボットで自動化したいが、導入できるプロダクトがない」という声です。それを、私の得意とするAIロボティクス技術で解決し、ロボットを当たり前の選択肢にしたいという思いから、自動化の進まない食品産業をターゲットにしました。

株式会社Closer 樋口翔太氏

代表取締役 樋口 翔太氏

省人化ニーズに応えるプロダクト開発

―― 事業化までの経緯について教えてください。

私は小学生のときから、自律移動型ロボットによる競技会であるロボカップのジュニアリーグ「ロボカップジュニア」への参加を通じて、ずっとロボットを開発してきました。人が操作するのではなく自ら考えて動くロボットの技術は、幼い頃から培ってきました。

高専時代にはトマト収穫のロボットを研究する中で、ロボットアームや画像処理の技術を学び、大学院に入ってからは、不定形の食材をつかむロボットハンドを研究しながら事業を立ち上げました。何度か事業の方向性を変えながら、飲食店の厨房を自動化するロボットが作れないか模索していた時に、つくば市との実証実験「つくばSosiety5.0社会実装トライアル支援事業」でロボットカフェの支援事業として採択されました。

最初は何もない状態からロボット事業をスタートしましたが、つくばに来て半年も経たない段階で、市と一緒にプロジェクトができたのは大きかったと思います。

実証実験を通して、高額なロボットの導入には、費用対効果の高い産業をターゲットにしなければならないことがわかりました。個人事業的な性質がある食品産業や農業には、なかなかロボットを導入できません。どれだけ「導入したい」と言っていても、本当に資金を投入できるのか。現場でヒアリングしながら、徹底的にニーズを調査したのが事業化に結びついたポイントだったと考えています。

―― 御社の技術がもたらす食品業界のメリットについて教えてください。

人手不足のため、多くの企業に省人化ニーズがあります。限られた人員では、求められている生産量に対応するのが精一杯で、生産量を増やしたくても増やせません。そこにロボットを導入して生産量を増やせれば、売り上げは上がります。

これまで、工場内のスペースの問題や、多品種少量生産など、費用対効果の面から導入を諦めていた企業が多かったのが実情でした。そのような現場にこそロボットを導入いただくために、食品製造現場に最適化する製品の開発を進めています。当社の技術・プロダクトで食品業界へのロボット導入の促進に貢献していきたいと考えています。

PickPacker

パーソナルロボットの普及を目指して

―― 今回調達した資金により、どのような取り組みを加速されるのでしょうか?

開発力を高めることを最優先に、エンジニアの採用を強化します。ロボットを扱えるエンジニアは非常に少ないため、チーム作りが今後の課題です。現在は、私と同じ筑波大大学院や長岡高専出身者、経済産業省のIPA(情報処理推進機構)の未踏アドバンスト事業において、2022年度実施プロジェクトに採択されたプロジェクトに関わったメンバーなど、同世代の優秀な人材が揃っています。ロボカップ、ロボコンの経験者も多いです。

このような仲間と共に取り組んでくれるフルタイムのメンバーを増やし、より迅速に開発を進められる体制を作ります。まずは、現在の15名から、20名ほどの組織にしたいと考えています。

―― 今後の展望について教えてください。

当社のロボットは汎用性が高く、同じロボットパッケージで工場内の各所を自動化していくことができます。この技術を磨き上げながら、一つの工場にロボット100台を導入するという目標に向けて、すでに話を進めている案件があります。また、食品以外にも同様のパッケージが多い化粧品などには、同じロボットで横展開できると考えています。さらにヒアリングや提案を重ね、導入数を増やしていきます。

当社の技術により、繰り返し作業や重労働はロボットに任せ、人間は本来取り組むべき作業や創造的な活動、コミュニケーションなどに注力できる世界の実現を目指します。そのために掲げているミッションが「パーソナルロボットを実現する」です。従来、大きくて高価だった産業コンピュータは、コンパクトなハードウェアとソフトウェアが一体化し、パーソナルコンピュータとして多くの人々に届けられました。これをロボットに置き換えると、今はまだ産業用ロボットの段階です。コンパクトなハードウェアと、ソフトウェアで操作できるロボットを作ることで、今まで導入が進まなかったさまざまな現場に普及させたいと考えています。

株式会社Closer

株式会社Closerは、食品生産工場や化粧品工場のライン向けに、箱詰めなどの作業を行う小型ロボットシステムを開発する筑波大学発ベンチャー企業。 同社は、製造工場などの生産ラインにおける省人化小型ロボットシステムを開発する。同ロボットは、人間一人分ほどのサイズで移動式のため、顧客の既存のラインにもそのまま導入が可能だという。食品の不良品分別や、化粧品の箱詰め、部品のピッキングなどの単純作業ができる。また同社開発のAI(人工知能)画像処理システムを搭載しており、さまざまな形状の食材に対応が可能だという。

代表者名樋󠄀口翔太
設立日2021年11月29日
住所茨城県つくば市天王台1丁目1番地1産学リエゾン共同研究センター棟202
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