製造業の人手不足解消へ、産業用ロボットの自律化で支えるものづくりDX

製造業の人手不足解消へ、産業用ロボットの自律化で支えるものづくりDX

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KEPPLE編集部

製造業における人材不足が深刻化する昨今、厚生労働省が公表した「2022年版ものづくり白書」のデータによると、その就業者数は約20年間で157万人も減少している。少子高齢化の影響でこの傾向はますます加速することが予測され、製造業界における自動化の対応は急務となっている。

そのような業界の課題に挑むのが、三次元形状処理エンジンを活用し、自律化した産業用ロボットの普及を推進するリンクウィズ株式会社だ。今年4月には、シリーズBエクステンションラウンドとして、東京大学協創プラットフォーム開発を引受先とする第三者割当増資にて、3000万円の資金調達を実施した。

点群データの高速処理をコア技術とする同社は、2015年3月に静岡県浜松市で創業。形状を見る3Dスキャナと、形状を認識・解析するソフトウェアを組み合わせて、物の形を多数の点からなる3次元座標で捉える技術を開発。ロボットに人間の目と脳の機能を与えることで、「認識して動く」能力を付加する。


リンクウィズの技術
同社は代表的な3つのプロダクトを提供する。一つめの全数生産補正ツール「L-ROBOT」は、加工対象のばらつきに合わせてロボットを自動コントロールし、製造工程におけるズレを自動補正する。二つめの品質モニタリングツール「L-QUALIFY」は、人による目視検査、治具検査のロボット化、インライン全数検査のデータ化などに対応する。

そして、三つめの「LINKWIZ FACTORY CLOUD」は、L-ROBOTとL-QUALIFYおよび設備から得られるデジタルデータを活用し、生産工程を可視化するクラウドサービスだ。品質を向上させるだけでなく、上流工程と紐づけた品質条件の導出や、品質因子の抽出が可能となり、ものづくりのDXを促進する。


リンクウィズの製品ラインナップ
同社製品の導入社数は現在60社あまりで、ライセンス数は120ほど提供している。リスク意識の高い大企業への導入が進んでおり、中小企業からの引き合いも増えてきているという。代表取締役 吹野 豪氏に、同社の技術開発の背景や今後の展望について詳しく話を伺った。

コロナ禍が転換点となり製造業DXが促進

―― 御社の技術的な強みについて教えてください。

吹野氏:当社のコンセプトは、どんなユーザーがどんなロボットを使っていても、生産の自由度を上げられることです。開発時は、人の働き方を変えるというミッションのもとで、そこを担保することを常に意識していました。

日本の代表的なロボットメーカーとして安川電機とファナックが挙げられます。ロボットはメーカーによって特徴が異なり、工場にはロボットの種類を揃えるという文化があります。それぞれのメーカーの製品は、当然ロボット言語もプログラムもまったく中身が違いますが、
どのようなメーカーのロボットにも適応できるのが当社のソフトウェアです。

競合との優位性としては、高精度な点群データを集めることができ、検査にも加工にも使えることが挙げられます。点群を高速で処理する会社はいくつもありますが、実際にみなさんが乗っている自動車を作る、現場の作業工程に導入されているのは当社の大きな強みです。自動車生産において、日本で使える品質があれば世界で通用すると言われています。

―― 従来の製造業界の課題について教えてください。

製造業に携わる人たちは、自分たちが今までやってきたことへの思いが強く、それを変えられない頑固なところがあります。しかし、コロナ禍の影響により、強制的に変わらざるを得なくなりました。コロナ禍前は、どんな現場でも若手はベテランの横で学べばいいという雰囲気がありましたが、出社できない状態になった時、お互いの間に共通の“物差し”が必要になりました。その頃に企画した製品が、LINKWIZ FACTORY CLOUDです。

コロナ禍をきっかけに、データやDXに対するお客様の印象がガラッと変わりました。今までデータに否定的だった方々から「DXはどうやって始めたらいいですか?」という質問をいただくほど、大きな転換点だったと思います。ベテランと若手エンジニアが、データという共通の理解のもとで会話することで、生産の品質は向上します。これがベースとなり、コロナ禍が終わった頃に結果が花開き、製造業は成長するはずです。


リンクウィズの目指すものづくりDX例

生産工程の変革で、消費者により多様な選択肢を

―― 技術開発に至った背景について教えてください。

私はロボットのプロではありませんでしたが、製造業の工場に足りないもの、必要なものをずっと考えていました。3次元座標をベースに動くロボットのフォーマットは、私が以前扱っていた3DCADと同じです。ロボットの素晴らしいところは、シミュレーションで計算したものをそのまま実空間に起こせること。「これだ!」と思って、創業時はロボットの会社にしようと思っていました。

エンジニア3人で創業した当時は、受注生産でお客様の要望に応えたものを作って販売していました。2016年に最初の出資を受けた時、「世の中を変えるなら広く効果をもたらす製品を作るべきだ」という話になり、具現化できるプロダクトは何なのか考えました。

製造業の現場を歩いてみると、物を作るロボットは優秀なように思えても、目の前のものが全然見えていないことや、検査には多くの人が必要であることを改めて感じました。もう一度現場に立ち返って、製品を作るべきだと思ったことが、L-ROBOT、L-QUALIFYの開発につながっています。

今、現場が困っているのはロボットの運用と、作ったものの検査です。高品質と言われる日本でそうなのですから、世界でも同じはず。日本で成功すれば世界でも市場が開けると感じたのは、その時でした。

―― 御社の技術がもたらす消費者のメリットについて教えてください。

消費者にとって一番の利点は、選択肢が増えて必要なものが手に入るようになることだと思います。

私たちの技術によって、メーカーは製造現場で品質に対する責任をすべてコントロールできるようになります。現場の不安や不良品のリスクが払拭されると、そこを担っていた人たちが新しい取り組みにチャレンジすることができ、さまざまな種類のものを作れる可能性が高まります。

工場がフレキシブルになると、カスタマイズのニーズに対応できるようになり、より多くの選択肢から消費者に必要なものを届けられます。みなさんにメリットをもたらすベースラインを作るのは工場であり現場なので、私たちはその手助けができればと思っています。

リンクウィズ 代表取締役 吹野 豪氏

代表取締役 吹野 豪氏

製造業活性化のためのイノベーション

―― 今回調達した資金により、どのような取り組みを加速されるのでしょうか?

開発・拡販の人員への投資で、米国市場向けのパートナーシップ戦略を強化しようとしています。アメリカも日本と同様の課題を抱える中で、EVや内燃機を作る目的で非常に高い自動化ニーズがあります。物価の違いで私たちの製品は割安ですし、人的リソースを有効に使えそうなため、その点に注力して拡販していきたいと思っています。すでにメキシコのお客様に納品が完了していますが、スタートアップ1社だけでの世界展開はハードルが高いので、現地のパートナーシップを含めた拡販体制を考えています。

―― 今後の展望について教えてください。

長期的な展望として、事業の柱となる3つのテーマがあります。まずは、人員の交代に備えた現場のデジタルデータ化です。これはLINKWIZ FACTORY CLOUDを通じて、工場の自動運転を実現することです。次にエリア戦略です。アメリカで拡販するため、ニーズに合わせた製品を開発します。最後に、新たな製品群の立ち上げです。もう一度初心に戻り、人手を要している町工場が使えるような製品の開発を進めています。

実は、人に代わってロボット自身が判断して自動的に動くシステムの製品化が間近です。誰でも板金の溶接ができるプロダクトを製作中で、今年7月をめどに販売開始する予定です。

協働型ロボットを利用して、簡単に操作できることを極めた製品で、町工場で使ってもらう想定で開発しています。職人のレベルは、大手自動車メーカーも町工場もさほど変わりませんが、町工場にはロボットを使う準備ができていません。でも、ロボット化すると職人はさらに難しい仕事にチャレンジでき、売り上げもアップします。そのために、できるだけ簡単に操作できるようにする必要があるのです。

夫婦や家族で営んでいた町工場の板金会社や、人手不足で閉めようと思っていた工場が、このロボットを導入することで、もう一段階上の新たな取り組みをやろうとか、諦めずにもう一度やってみようと思ってもらえるような製品を作りたいと考えています。

日本が世界に誇る製造業をさらに盛り上げ、その発展に貢献していくことを目指します。

リンクウィズ株式会社

リンクウィズ株式会社は、自律型ロボットシステムソフトウエアの開発・販売などを行う企業。 同社は、モノづくりの現場向け産業用ロボットで、ティーチング自動生成・補正機能付きシステム『L-ROBOT』を開発。同製品は対象ワークの微細なカタチの違いに合わせて、ティーチングデータを自動で生成、補正することが可能だという。 そのほか同社では、量産ワークの品質モニタリングツール『L-QUALIFY』、また同製品および『L-ROBOT』の検査・解析結果や、製造時のプロセスデータを収集・保存・閲覧・分析するクラウドサービス『LINKWIZ FACTORY CLOUD』の開発も行う。

代表者名吹野豪
設立日2015年3月26日
住所静岡県浜松市東区篠ケ瀬町1044番地の2
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  • #ロボット関連ソフトウェア
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