2022年6月、遠隔医療通訳サービスやクラウド健康管理システムを運営するメディフォン株式会社が、第三者割当増資と借入による11億円超の資金調達を実施した。(資金調達発表時の取材記事はこちら)
外国人患者来院時に利用する遠隔医療通訳サービス「mediPhone(メディフォン)」のサービス提供からスタートした同社。mediPhoneは医療現場で高く評価され、全国の医療機関、自治体や一般企業にも導入が広がっている。
また、2021年10月には、法人向けクラウド健康管理システム「mediment(メディメント)」を正式リリースした。健康診断やストレスチェックに関連する業務を効率化するサービスだ。medimentも本格サービスインから1年足らずで10万アカウントを突破した。
株式会社ケップルの投資専門子会社である株式会社ケップルキャピタルは、2022年に設立したDXファンドより同社に出資を完了している。
メディフォン執行役員CFOの坂本 隆宣氏(写真左)と、ケップルキャピタルでファンドマネージャーを務める堂前 泰志氏(写真右)は前職からの付き合いで、このたび改めてスタートアップCFOと株主という関係になった。
その背景やメディフォンの取り組みなど、両氏に詳しく話を伺った。
医療業界での新たな挑戦に向け再タッグ
―― お二人はいつ頃どのように出会ったのでしょうか?
坂本氏:私は前職でフィンテックスタートアップのCFOをしていました。堂前さんは金融系VCにいらして、担当していただいたのが出会いですね。当時からとてもお世話になっていました。私がメディフォンに転職した後、堂前さんも会社を移られたと伺っていましたが、ケップルにいらっしゃるとは知りませんでした。現職で資金調達を検討開始しており、投資家候補についてご相談しようと久しぶりに連絡したら、ケップルでVCを立ち上げるとのことで、驚きましたね。
堂前氏:おすすめの投資家候補についてのご相談でしたが、それならばぜひ私たちでというお話をしました。
坂本氏:最近キャピタリストの方は増えましたが、長年活躍されていて顔が広い方って意外と多くなくて。ご相談先として真っ先に浮かんだのが堂前さんでした。ケップルキャピタルは新しいVCですが、堂前さんは以前ミダスリスト(※)に載られたりして実績のある方なので、関係者に話を通すのもスムーズでした。
(※)ミダスリスト:Forbes 誌が毎年発表するベンチャー投資家ランキング
―― どのような理由から出資に至ったのでしょうか?
堂前氏:ポイントは二つあります。ひとつ目は、ビジネスの対象が大きなマーケットで、かつ解決されていない課題がたくさんあること。まだまだアナログな市場のデジタル化に取り組んでいる点に魅力を感じました。
二つ目は、最初に始められた遠隔医療通訳サービスであるmediPhoneが、着実に実績を積み上げていること。医療機関への導入数や通訳の稼働実績からも分かりますが、質の高いサービスを継続されています。この経験値は、今後新しいビジネスを立ち上げる上でも再現性につながるでしょう。
坂本氏:二点目は私も全く同意見で、この会社のCFOを受けようと思った大きな理由です。医療業界で新しいビジネスを創るのは、参入障壁もあり相当難しいです。メディフォンは、日本医師会や厚生労働省など、業界の中心となるステークホルダーと関係構築しながらmediPhoneを成長させています。きちんと事業基盤を築き黒字化しながらも、より大きなマーケットを目指して新しい事業であるmedimentにチャレンジしています。そのようなところに将来性を感じ、入社を決めました。
―― 2022年6月の資金調達発表後、反響はいかがでしたか?
坂本氏:今回の資金調達後、多くのメディアに取材していただきました。私がメディフォンに入って取り組んだことのひとつが広報の立ち上げです。mediPhone・mediment両事業ともに新規受注が多いのでそれに紐づくプレスリリースを相当数出してきましたが、資金調達を契機にそれが一気に花開きました。定量的には検証できませんが、採用にも効果があったように思います。特にmediment事業は立上げ時期であり、採用を加速させていた時期だったのでそちらに貢献できたのではないかと感じています。
堂前氏:実は投資家としても、プレスリリースの更新頻度は見ています。ニュースページを見て、情報がアクティブにUPされている会社は勢いを感じます。逆に三年ぐらい更新が止まっていると良い印象は持てないですよね。
坂本氏:外向けに発信し続けることは重要です。新規導入事例を次々と紹介していくことが、営業面でも効くと営業メンバーからも喜ばれています。
健康管理から予防医療への活用
―― 現在、medimentの急成長が続いているとのことですが、どのような状況ですか?
坂本氏:企業に加え、自治体や医療機関からの引き合いも多くいただいています。自治体や医療機関は、一般企業よりも紙で管理している比率はまだまだ高いため、潜在市場は大きいと感じています。
堂前氏:遠隔医療通訳サービス「mediPhone」との良いシナジーが生まれていますよね。医療通訳では、コロナ発熱外来などで色々な国の方々の相談を受けなければならないので、自治体からのニーズが大きいです。mediPhoneで培った信頼や営業ルートが生きていますね。
坂本氏:そうなんです。クラウド健康管理システム分野では企業向けにサービスを提供するプレイヤーは多いです。当然medimentでも新規受注は多くなってきていますがmediPhoneを通じて医療機関・自治体という独自の顧客基盤ができていることが強みだと考えています。
また、健康管理は予防医療につながります。医療機関とのコネクションを持っている私たちとしては、最終的にはmedimentのデータを予防医療に活用していきたいです。病院に行く人を減らすのは難しくても、病院に行ったときにきちんと健康データが確認できれば、より早く適切な診断や処置につながる可能性がある。そのような連携に結び付けたいですね。
―― 今後、事業を拡大させる上でプラスに働きそうな要素などはありますか?
坂本氏:mediPhoneについては、新型コロナウイルス感染症に関する水際対策が緩和されて、また外国人の方が増え始めていることがプラス要因だと考えています。コロナ禍で止まっていた時計が動き出すというのは大きいですね。
medimentの話でいうと、人的資本経営や健康経営が重視されています。どんどん減っていく労働力を効率的に活用するという普遍のテーマがあります。私たちは、外国人向けのプロダクトと、外国人も含めたすべての働く人に向けたプロダクトの二つを持っています。そのため市場全体の大きな流れがプラスに働くと考えています。
堂前氏:労働人口の減少という止められない流れの中で、より長く、より健康的に働いてもらうためには、予防医療というのは絶対に必要です。予防医療にはさまざまなアプローチがありますが、まず自分の体がどういう状態にあるのかを知り、その状態を色々な人と共有することが重要です。そのためにはデジタル化するしかありません。その入り口に立っているメディフォンのようなプレイヤーは非常に有望な可能性を持っています。
加えて健康保険組合の財政はどんどん逼迫していっています。医療費がかからないようにするため、予防へのインセンティブが高まると考えられます。予防医療の元となるデータの利活用には、フォローの風が吹くはずなので、その流れにうまく乗ってほしいなと思っています。
愚直に取り組むCFOが描く、メディフォンの未来
―― CFOとして、今後どのような取り組みに注力していきたいですか?
坂本氏:ご出資いただいている立場としては、当然お預かりしている資金をちゃんとリターンとして返せるように、事業を伸ばさなければなりません。そのための後方支援はいくらでもしていきます。
事業連携については、色々なチャンスがあると思っています。ケップルキャピタルのように株主の皆様がたくさんボールをくださるので、全部ちゃんと拾って現場に上げて。今までいただいたものは全て何らかのアクションをしています。
ケップルキャピタルのLPである東証プライム市場上場会社RPAホールディングス様をご紹介頂き、medimentを導入いただきました(プレスリリースはこちら)。ありがたい限りです。
他には、他社との共催セミナーなどには積極的に取り組んでいます。medimentのターゲットは基本的に企業の人事労務やコーポレート部門の方々です。そこと接点を持つ企業と組むことには、どんどんチャレンジしていきたいですね。
私自身は独立遊軍的な感じで、色々なピッチやセミナーに参加しています。出るとそれなりにリードを獲得することができます。とりあえず外に出て何か機会を作ってくる役割だと思っています。
堂前氏:その点、坂本さんは昔から変わらないスタンスですよね。愚直にやり切る能力の異常な高さ。
坂本氏:「量をこなせば何か見えてくる景色があるだろう」という、割と体育会系な考え方なので。1年で118本のプレスリリースを出しました(笑)。ある程度定型化すれば、兼務でもやれないことはないです。
堂前氏:118本は大変だったと思いますが、そこから得られる効果は結構計り知れないですよね。
―― 今後のメディフォンに期待してほしいのはどのような点ですか?
坂本氏:医療業界は広範なマーケットです。しかし、予防医療から医療機関におけるプレゼンスまで一気通貫して、バリューチェーンを提供できる会社は数少ないと思います。そこを究めていきたいなと思っています。
堂前氏:ケップルキャピタルとしても、medimentのさらなる成長に期待しています。mediPhoneと相乗効果でさらに飛躍していってほしいです。そのためにも引き続き色々とサポートしていきたいと思います。
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坂本 隆宣氏
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、大和証券SMBC・ドイツ証券・Greenhill・三菱UFJリサーチ&コンサルティングにて一貫してクロスボーダー案件含むM&Aアドバイザリー業務に従事。Greenhillにおいては日本法人、三菱UFJリサーチ&コンサルティングにおいては財務アドバイザリーチームの立ち上げを主導。その後、フィンテックスタートアップであるクラウドクレジットにおいてCFOを務め、資金調達等の資本政策・コーポレート部門立ち上げ等の経営管理・アライアンス等の経営企画業務を牽引。2021年9月、メディフォンの執行役員CFOに就任。
堂前 泰志氏
2002年、新卒で日本アジア投資株式会社に入社し、ベンチャーキャピタリストとしてのキャリアをスタート。その後、ITベンチャーでの経営企画業務・新規事業立ち上げなどの経験を経て、2013年より三菱UFJキャピタル株式会社にて、ベンチャーキャピタリストとして活動を再開。主にFintech・AIセクターを中心としたスタートアップへの投資を担当し、8年間で4社の投資先がIPOを実現。Forbes JAPANが発表した2021年版「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」第7位にランクイン。 スタートアップエコシステムのさらなる発展への貢献を目指し、2021年10月にケップルへ参画。ケップルキャピタルのファンドマネージャーに着任。
メディフォン株式会社
医療に特化した遠隔通訳サービス『mediPhone(メディフォン)』と、法人向けクラウド健康管理システム『mediment(メディメント)』を開発・運営する企業。 『mediPhone』は、ウクライナ語を含む31言語の医療通訳者にいつでも繋ぐことができるようになっており、24時間体制でサービスを提供している。 『mediment』は、社員の健康診断やストレスチェックに関連する業務を効率化するサービスで、効率的な健康管理により従業員のパフォーマンス向上を図るとともに、予防医療データを治療現場に提供する。
代表者名 | 澤田真弓 |
設立日 | 2017年8月1日 |
住所 | 東京都港区赤坂6丁目14番2号赤坂倉橋ビル3階 |