大学コミュニティの活性化と大学のファンドレイジング業務を支援する株式会社AlumnoteがプレシリーズAラウンドにて、第三者割当増資による4.2億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、UTEC、QBキャピタル、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、八十二インベストメント、SMBCベンチャーキャピタル、静岡キャピタル、東大創業者の会、および複数の個人投資家。
今回の資金調達により、システム開発や人材採用の強化、新規事業の展開を加速する。
大学教育を高める自主財源獲得を支援
同社が提供する「Alumnote」は、大学の寄付募集や同窓会組織の運営を支援するSaaSプロダクトだ。
大学の財源が縮小し学生や研究者雇用が減少する中、資金調達手段として、寄付文化の醸成と課題解決のためのシステム構築に目を付けた。支援者からの寄付金を基金として運用することで大学の運営資金とする、海外のモデルを日本にも浸透させたい考えだ。一方で、寄付金獲得のノウハウを持つ大学は少ない。
「Alumnote」は潜在寄付者(卒業生・教職員・保護者等)の名簿のデータベース化や、マーケティングへの活用が可能だ。また、在校生・卒業生向けポータルサイトや、寄付イベントの開催を可能とする機能も備え、潜在寄付者のコミュニティ活性化を支援する。
2023年12月時点で、国公立大学を中心に30校以上が導入する。
Giving Campaignは、研究室や学生団体を対象に資金調達を支援するオンラインチャリティーイベントだ。キャンペーン期間中は特設ページが開設され、参加者は支援したい団体に寄付を行うほか、金銭を伴わない「応援」をすることができる。協賛企業からの協賛金をもとに、各団体が受けた「応援の数」を参考に大学基金・学生団体に分配する形だ。
2023年10月から3週間にわたって開催されたGiving Campaign 2023では、東北大学・京都大学・明治大学をはじめとする約40大学が参加し、15万人以上の応援者が集まった。
同社が目指すのは、財源の補強で国内の大学に国際競争力を与えることだ。そのための手段として、現在はノウハウや人員の不足する大学の寄付金獲得支援に注力している。
今後は卒業生や在校生のデータを軸に、在校生向けキャリア支援事業や大学コミュニティの活性化など、寄付金獲得に限らず大学の事業収入増加を支援する計画だ。
今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 中沢 冬芽氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
目指すは交付金に頼った財政からの脱却
―― 日本の大学運営に関する現状について教えてください。
中沢氏:日本の大学では、運営費交付金と呼ばれる政府からの交付金で多くの運営資金が賄われています。特に国立大学では、学費を下げて多くの人に通わせたいという構造上の背景から、政府からの補助金が運営資金の約半分を占めています。現在では学生数の減少や補助金削減の方針を受け、こうしたビジネスモデルの転換が求められています。
一方、米国を中心とした海外の大学では、卒業生などから受け取った寄付金を大学基金として運用することが一般的です。トップ大学では、このような運用資金は1兆円を超える規模で、運用で得た利益を大学の運営費に充当しています。
こうした資金を調達するために、ファンドレイザーと呼ばれる担当が数百名いる大学もあります。ハーバードなどの一流大学では、寄付金集めやブランディング、卒業生同士のネットワーキングを目的として、毎日数件の同窓会を開催しているのです。海外大学の寄付文化は、人々の生活が宗教や教会と結びついてきた文化的側面も影響しています。
日本でも寄付基金の運用などが求められていますが、きちんと運用できているのは数校程度にとどまり、その規模も海外と比べてかなり小さくなっています。
―― 国内大学における寄付金獲得には、どのような課題がありますか?
現状の課題として、大きく二つあると考えています。
一つ目は、ファンドレイザーが不足している点です。海外では多いところで400名が在籍している一方、日本の国公立大学では平均2名程度に留まっています。これまでの成功事例が少ないために人材も少なく、大型の資金調達実行が困難になっています。
また、卒業生などの潜在的な支援者へのアプローチが不十分であることも課題の一つです。
これまで、個人情報保護の観点もあり、卒業生と大学の繋がりはほとんどありませんでした。その必要性が大きくなかったことが要因の一つです。
そのため、卒業生の名簿データをそもそも持っていない、持っていたとしても適切な管理がされていないことも多いです。払込書で寄付金が支払われても、どの卒業生から寄付を受けたのか判別するだけでも大きな労力がかかっています。
―― 創業のきっかけを教えてください。
父が大学教授だったこともあり、資金の問題から研究活動が制限されるなど、日本の大学運営の課題を聞く機会が多くありました。また、幼少期にアメリカに住んでいた際には習い事で大学を訪れることも多く、設備や環境の良さを身をもって感じていました。
そんな環境で自分も学びたいという思いがありながらも、金銭的な事情から断念し、国内の大学に進学することを決意しました。これまでに見てきた海外大学との差を感じたことをよく覚えています。
数年前には経産省や文科省により、日本でも海外を見倣って自主財源の獲得に注力すべきであるという提言が発表されました。これを一つの後押しに、これまでに感じた負を解消するため、2020年にAlumnoteを創業しました。
海外大学のモデルを構築するには長い時間が必要です。大学の経営を支えるために何ができるか考えた際に、まずは寄付にまつわるアナログな管理を効率化して支出を削減しようとの思いから、名簿管理のSaaS提供から開始しました。
国際競争力のある大学へ
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
前回の資金調達からの2年程度で、大学とビジネスをするために必要な関係性の基盤を築くことができました。実際にプロダクト提供までできたことは大きな成果だと思います。今回の資金調達では、既存サービスの強化とそれに付随したエンジニア採用、サービスのセキュリティ強化に費用を充てます。
また、今後は新規事業も模索していきます。例えば、大学による学生のキャリア支援を強化し、採用が決定した際には大学に収益が入るような事業です。既存のキャリアサービスと異なり、大学のキャリアセンターを活用することで就職活動前の大学1・2年生にリーチできることも大きな強みになります。すでに東北大学や東京藝術大学との取り組みを開始しています。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
独自に財源を獲得し、ファンド運用の取り組みが先行している海外では、今後収益が指数関数的に拡大していくはずです。日本の大学においても、まずは自分たちでお金を稼いでいくモデルへ転換させ、優秀な学生の流出を防がなければいけません。
一方で、稼いだお金を海外大学のようにしっかりと運用できる状態になるには、まだまだ時間がかかります。そのため当社自身がファンドの運用主体として、お金を増やす機能をこの10年で担っていくことも検討しています。
これほど多くの大学と関係性を構築し、卒業生や在校生の名簿データの収集を支援している点は当社の大きな強みです。将来的には、大学だけでなく高校や自治体へもプラットフォームを拡大します。こうしたデータを多く集めて活用可能な状態にすることで、学生向けに企業がマーケティングや採用活動を行うなど、大学がお金を稼ぐ事業の種を生んでいきます。
教育の質に関する議論はこれまで多く行われていますが、実際に行動に移すためにはお金が必要です。大学がお金を稼ぐ手助けを当社が担うことで、教育の質を高めることに貢献していきたいと思います。
株式会社Alumnote
株式会社Alumnoteは、大学のアルムナイネットワークの構築支援やファンドレイズを支援する企業。 同社では、在学生や卒業生、教職員などの大学コミュニティのメンバーがネットワークを構成するためのプラットフォームの提供を行っている。 また、大学における寄付文化醸成を目的としたチャリティイベントの企画・運営なども手がける。
代表者名 | 中沢冬芽 |
設立日 | 2020年10月14日 |
住所 | 東京都台東区上野3丁目16番2号天翔オフィス上野末広町 |