材料開発DX、MI技術が切り拓く素材産業の未来

材料開発DX、MI技術が切り拓く素材産業の未来

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KEPPLE編集部

日本のリーディングインダストリーである素材産業にも、機械学習やデータサイエンスの波が押し寄せている。2022年4月経済産業省製造産業局は、「新・素材産業ビジョン(中間整理)」を発表し、材料開発におけるビジネスイノベーションの促進を掲げた。その手法の一つとして注目されるのがマテリアルズ・インフォマティクス(以下、MI)だ。MIとは、材料開発知識・データと、データサイエンスを組み合わせることにより、目的の特性を持つ材料の開発を効率化する取り組みである。

今回紹介するのは、材料開発のDXを支援するMI-6株式会社。MIの研究開発と社会実装を目的として、2017年に設立した企業だ。

同社は、「Hands-on MI」「miHub」「Robotics」の3つの事業を展開する。創業時からのサービスであるHands-on MIは、その名の通り、MIの取り組みをハンズオンで支援するサービス。顧客の材料開発に同社がデータサイエンティストとして参画し、プロジェクトで得られた情報を基に、データドリブンな実験計画や新規化合物設計を提案し、開発をサポートする。

マテリアルズ・インフォマティクスとは
miHubは、実験計画に特化したMIソフトウェア。機械学習の手法を用いて、次の提案点をソフトウェア上で取得し、実験を繰り返して材料特性を最適化するSaaSだ。
 
そして、研究開発段階のRoboticsは、従来人の手で繰り返し行われてきた材料開発の実験を、ロボティクスとMIを用いて完全自動化する。現在、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成金を得てR&Dを進めると同時に、複数の企業と概念実証に取り組んでいる。同社サービスの導入企業数は累計100社となっており、今後は導入企業における別部署への横展開も目指す。
 
同社はこのたび、シリーズAラウンドにて、第三者割当増資による約5億円と融資・助成金採択による約1.5億円、併せて約6.5億円の資金調達を発表。創業以来の資金累計調達額は14億円となった。今後は、さらなるプロダクトの機能向上と、拡販のためのエンジニア、セールス、マーケティングの人材採用を強化し、さらなる組織拡大を目指すという。執行役員CTO 入江 満氏に詳しく話を伺った。

素材開発とベイズ最適化の融合

―― 御社の技術的な強みについて教えてください。

入江氏:当社のコア技術は、MIに特化したベイズ最適化技術です。ベイズ最適化とは、機械学習を用いて逐次的に最適条件の推奨・評価を繰り返し、重ねて対象の特性の最適化をなるべく少ない回数で達成するアプローチです。深層学習のハイパーパラメータの最適化によく使われていますが、技術者は知っていても、あまりエンドユーザ向けには出てこない技術です。

ベイズ最適化に材料開発での応用可能性があることは、数年前から様々な材料探索の研究で示され続けてきました。当社は、その技術に深い知見やコーディング能力を持たない方々にも有効に使えるようにと、プロダクトを開発しました。

そこで重要なのは、データサイエンスや機械学習に馴染みのないユーザーが使いやすい体験を作り出すソフトウェア技術です。MIで用いるコアなアルゴリズムや機能を理解するデータサイエンティストに加えて、それを実装するソフトウェアエンジニアが揃っているのも、当社の強みだと考えています。

―― 従来の素材開発における業界の課題について教えてください。

最も大きい課題のひとつはノウハウの伝承です。ノウハウを蓄積したベテランがリタイヤに近づいている一方、将来を担う若手人材の数は先細っています。素材開発において、日本企業はずっと最先端を走り続けてきましたが、影響力を拡大するアメリカや中国に追い上げられている状況で、どうすれば日本の強みである素材産業がもっと競争力を持てるのかが喫緊の課題です。

また、マーケットニーズの多様化も課題となっています。今、求められているのはマーケットの変化に適応し、ニーズに合わせたプロダクトを素早く作り出すことですが、既存の材料開発プロセスのままではその対応は容易ではありません。。当社はこういった課題に対して、データサイエンスの応用とインフォマティクスの活用によってアプローチしています。

執行役員CTO 入江 満氏

執行役員CTO 入江 満氏

現場重視の技術開発アプローチ

―― 御社の技術開発の背景について教えてください。

私は、MI-6代表の木嵜を通じてMIをリードする研究者である東大の津田宏治教授との出会いによって、この分野の存在を知りました。興味を持って調べてみると、素材開発においてはデータ活用が全く浸透していない分野であることがわかりました。

また、私には自然科学×データサイエンスのバックグラウンドがあり、データドリブンな材料科学のポテンシャルの大きさに魅力を感じるまで時間はかかりませんでした。。代表の木嵜も、シェアサイクルの会社に在籍していた時に、素材の持つインパクトとデータサイエンス技術の可能性を大きく感じていました。

課題と可能性の大きさに対して、有用な技術をプロダクト通じたソリューションとして社会実装するプレーヤーはいませんでした。自分たちの取り組みで、もっと業界や産業を盛り上げられるのではないだろうかというのが、私たちの使命感、モチベーションとなりました。

―― 技術開発において御社が重視されたポイントについて教えてください。

技術は当然重要ですが、材料開発者の方々のように、データサイエンスとは離れたところにいる方々が円滑に使えるものを提供することが価値だと考えています。技術開発の壁だけではなく、実際に彼らの業務の中で有用に使ってもらうための体験設計を含め、さまざまな課題がありました。

それらを解決するためのアプローチが、Hands-on MI事業です。材料開発者と一緒にプロジェクトを進めることで、彼らの抱える課題や材料実験の実情を深く理解し、実際に有用になる技術の照準を合わせる作業を続けます。

コア技術が先にあり、それを使って課題を解決しようとする技術系の会社とは異なり、当社の場合はまずエンパワーしたい対象の現場があり、そこにデータサイエンスやロボティクスの技術を最大限活用していきたいという想いがあります。支援したい方々への提供価値を最大化する技術にフォーカスするスタンスが、当社の特徴だと考えています。

―― 御社の技術がもたらす消費者のメリットについて教えてください。

素材の持つ価値のひとつは、モノを通じて人々の体験を向上することです。MIを活用することで、私たちの暮らしを豊かにするさまざまなモノの性能や機能が上がり、消費者のより良い体験になることが、わかりやすいメリットとして挙げられます。

また、より社会的意義が大きいのは、地球環境や経済の持続的な発展への貢献です。近年は再生可能な材料や環境負荷の低い樹脂などの開発も活発です。例えば、砂漠の緑化で吸水性ポリマーを使って木を定着しやすくする取り組みや、二酸化炭素の再資源化のための触媒開発のように、地球環境や持続的な経済発展のための材料も必要性が高まっています。インフォマティクスやロボティクスを活用することで、そういった材料やプロセスの開発をより早く実現できると考えています。

マテリアルズ・インフォマティクスの適用領域

素材産業をリードするプラットフォームへ

―― 今回調達した資金により、どのような取り組みを加速されるのでしょうか?

プロダクトマーケットフィットを追求する段階を経て、価値を提供できていることがわかりました。ここからは自信を持って、アルゴリズムのさらなる開発を行い、機能を向上させ、サービスの幅を広げていきます。より多くのユーザーに使ってもらい、材料開発者のチャレンジを支えるプラットフォーム開発にフォーカスしていきます。

また、拡販にも力を入れていきます。調達資金はエンジニア、セールス、マーケティングの人材採用に充て、さらなる組織拡大を目指します。

―― 今後の展望について教えてください。

当社はこれまで、材料開発の実験を行っている方や、その上長、チームメンバーに向けたサービス開発を行ってきましたが、素材開発は製造や開発企画の方々とのやり取りも含め、さまざまなステークホルダーが力を合わせるプロジェクトです。

当社はこの一連のプロセスをもっと早く、より良くしていきたいと考えています。開発技術者だけでなく、ユーザーを広げて価値を提供していくために、プロダクトやサービスを拡張・拡大し、素材開発におけるプラットフォームを作ります。

最終的には、素材開発のバリューがもっと大きくなるように、すべてのステークホルダーに向けた価値提供を目指します。

MI-6株式会社

MI-6株式会社は、マテリアルズ・インフォマティクスを活用し材料開発を支援する企業。 マテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics:通称 MI)とは、情報技術と材料科学を融合し、新素材や代替材料を探索する技術である。 同社は、MI を活用した材料探索において、AI とシミュレーションによる探索結果をクラウドソーシングで評価し、さらに評価結果を学習することで探索制度を向上する手法を確立。的確かつスピーディな材料開発を実現し、さらなる技術の発展や新製品の開発を後押しすることで、社会に広く貢献することを目指している。 2019年2月「Tech Sirius 2019」EY賞受賞。

代表者名木嵜基博
設立日2017年11月17日
住所東京都中央区日本橋小舟町8-13
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