MIL株式会社

インタラクティブ体験を軸としたデジタルコミュニケーション事業を展開するMIL株式会社は、2025年8月にシリーズAラウンドで総額約5.8億円の資金調達を実施した。リード投資家としてニッセイ・キャピタルから出資を受けたほか、DEEPCORE、INNOVATION HAYATE V Capitalからも出資を受けた。
MILは2018年に設立され、インタラクティブ動画編集プラットフォーム「MIL」の提供を中心に事業を展開してきた。累計で8万8000件を超えるインタラクティブ動画の制作・配信実績を持ち、約1300社の法人顧客にサービスを導入している。インタラクティブ動画の特徴は、視聴者が動画上でタップやクリックなどの選択行動を行うことで双方向性の高い体験を実現できる点にある。こうしたユーザーの行動データは企業のマーケティングや営業活動、採用、研修といった多様な業務プロセスの最適化に活用されている。
サービスの用途は拡大を続けており、「インタラクティブ採用」や営業資料のデジタル化など、従来のオンライン説明コンテンツの枠を超えたパーソナライズされた情報伝達を目指している。直近では、ビジネス動画プラットフォーム「bizplay」など他社サービスとの連携も模索しており、既存の動画をアップロードしてインタラクティブ化できる点や、導入のしやすさも企業から支持を集めている。
代表取締役CEOの光岡敦氏は、Webディレクターやコンサルタントとしての経験を持ち、ユーザー行動データに基づくデジタルコミュニケーションの最適化を追求してMILを創業した。創業以来、業種を問わず多様な顧客と取引し、動画体験の改善やデータ活用による業務プロセス支援に力を入れて事業を拡大してきた。2020年からは、取締役CFO兼CSOの榎本陽介氏が経営陣に加わり、公認会計士や事業企画の経験を生かして財務基盤や経営体制の強化にも貢献している。
デジタルコミュニケーション市場の背景としては、コロナ禍以降のデジタルシフトの加速により、企業が発信する情報が「伝わる」ための工夫が求められている。BtoB分野では意思決定者が営業担当者に接触する前に情報収集を終える傾向が強まり、Webページのテキストの閲覧率は平均20%程度にとどまるという調査結果もある。一方で、国内の動画関連市場は約1兆円規模、顧客データ関連市場は3,443億円規模と推定されており、今後も拡大が見込まれている。このような市場環境のもと、従来型の「受動的に見る」動画から「選び、触れる」インタラクティブ体験への移行が企業課題の解決策として注目されている。
同分野では、インタラクティブ動画編集プラットフォームや動画マーケティング支援ツールを展開する国内外の競合が増加している。特にSaaS型の動画解析・配信サービスや、営業・採用領域のデジタルトランスフォーメーション(DX)を掲げるスタートアップが存在感を示している。MILは、ノーコードでの動画編集機能や、幅広い企業規模への導入実績、戦略設計から運用まで一貫した支援体制を強みとしている。
今回の資金調達は、第三者割当増資2.3億円、無担保のベンチャーデット2億円、長期デット1.5億円の構成となっている。調達資金は開発体制の強化、人員拡充、マーケティングに充てる予定だ。また、INNOVATION HAYATE V Capitalとの資本提携を通じてイノベーションとの事業連携も始動し、プラットフォームの機能強化や動画メディアとの協業も視野に入れている。
今後の事業展開として、「インタラクティブ採用」の本格展開を進める。従来型の説明会形式から、学生や候補者が自ら選択し疑問を解消できる体験を提供し、企業側は候補者ごとのインサイトデータを活用した選考プロセスの最適化や歩留まり改善を実現する。すでに導入企業では内定承諾率の向上や年間工数削減などの成果が報告されている。
MILによる今回の資金調達およびリブランディングは、インタラクティブ体験を基軸としたデジタルコミュニケーション市場において、サービスの拡張およびプラットフォームの強化を進める動きとして位置付けられる。デジタル化と動画市場の成長が続く中、同社の今後の動向が業界全体に与える影響は大きいと考えられる。