株式会社イムノロック

神戸大学発の創薬スタートアップ、株式会社イムノロックが2025年7月、神戸大学キャピタルおよび大阪大学ベンチャーキャピタルを引受先とする第三者割当増資により1億8370万円を調達した。今回の資金調達は、シードラウンドBの追加分として実施され、経口ワクチンプラットフォームの臨床開発や希少疾病向けプロジェクトの推進を目的としている。
イムノロックは2021年に設立され、腸内細菌ビフィズス菌を活用した経口ワクチン技術の開発に取り組む。開発中の主なパイプラインには、経口がん治療ワクチン「B440」および新型コロナウイルス感染症予防ワクチン「BCOV332」がある。特にB440は、非臨床段階から臨床開発への移行が進み、実用化に向けた動きが活発化している。
B440の臨床開発では、2023年1月より転移性尿路上皮がん患者を対象とした第Ⅰ相臨床試験(医師主導治験)が神戸大学、広島大学、浜松医科大学で実施された。2025年5月には治験終了届が受理され、安全性が確認されている。また、患者においてWT1特異的細胞性免疫の誘導や無増悪期間(PFS)の延長といった臨床的シグナルが得られた。これらのデータは2025年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された。
イムノロックが開発する経口ワクチンは、腸内細菌が腸管免疫に与える影響に着目している。従来、経口ワクチンの課題とされてきたのは、腸管の免疫組織へ抗原タンパク質を効率よくデリバリーする技術の未確立だった。同社はビフィズス菌表層に抗原タンパク質を発現させる独自の手法により、この課題への対応を進めている。B440は、経口投与後に腸管内のM細胞を介してパイエル板へ到達し、樹状細胞によって抗原提示が行われる。これにより、がん細胞を標的とした細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)の誘導を目指している。
B440は非臨床試験において多様な腫瘍モデルで抗腫瘍効果を示しており、がん免疫療法剤として既に臨床導入が進む免疫チェックポイント阻害剤との併用においても動物試験で相乗効果が確認されている。今後は、希少疾病である悪性胸膜中皮腫患者を対象とした第Ⅰ/Ⅱa相の医師主導治験が2025年10月から開始される予定であり、日本医療研究開発機構(AMED)の創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業にも採択されている。
代表取締役CEOの白川利朗氏は、長年にわたり神戸大学で創薬分野の研究を担当し、2021年のイムノロック設立にあたっては大学の研究成果の技術移転という形で中心的な役割を果たした。白川氏自身が創業者であり、基礎研究で得られた経口ワクチンプラットフォーム技術を事業化に結び付けることを目指している。
がん免疫療法の分野は、過去10年でPD-1/PD-L1阻害剤の登場などによりグローバルに市場が拡大している。2023年時点の世界市場規模は約2000億ドル規模と推計されており、非侵襲的な治療法や経口薬の開発ニーズも高まっている。国内においては、希少疾患を対象とした薬剤開発や、大学発創薬スタートアップへの支援体制が強化されてきた。一方、米国や欧州では創薬系スタートアップの新規参入が相次ぎ、パイプライン開発競争や資金調達・事業化体制の構築が課題となっている。経口ワクチンの分野では、消化管での安定性や十分な免疫誘導の確立といった技術的ハードルが残るが、患者負担の低減や新規作用機序の探索という観点から開発の意義が注目されている。
今回の資金調達は既存投資家による継続出資として実施され、主にB440の後期臨床試験や希少疾患プロジェクトの推進、経口ワクチンプラットフォームの応用パイプライン拡充に活用される予定である。これに加え、AMEDによる助成金も臨床開発資金として活用される見通しとなっている。
イムノロックの資金調達と開発動向は、国内大学発スタートアップによる創薬・医療分野での事業化の進展を示す事例となっている。今回のラウンドを通じ、同社は経口ワクチン技術の実用化およびパイプライン拡充に向けた体制強化を進めている。業界全体では、安全性と有効性のデータに基づいた事業開発や、研究成果の事業化支援体制の強化が求められており、今後も臨床試験の進捗や規制対応、資金調達環境の動向が注目される。