株式会社Linc

外国人材の採用・定着支援に特化したスタートアップ、株式会社Lincが2025年7月に総額3億円の資金調達を実施した。今回のラウンドは、Z Venture Capital(ZVC)がリード投資家を務めた第三者割当増資となる。
Lincは2016年設立。主力サービスであるグロハブは、外国人材を求める日本国内企業と、国内外の人材紹介会社が保有する求職者データベースを統合し、AIを活用したマッチング最適化を実現する。企業の求人要件や過去の採用実績、求職者のスキル・経歴など多様なデータをAIが解析し、最適な人材提案を行う仕組みだ。さらに、採用後の定着支援までを一つのワークフローで管理できる点が特徴となっている。
同プラットフォームには、AIによる書類自動読み取りや多言語対応のチャット機能が実装されている。これにより、従来はExcelなどで管理していた履歴情報や、煩雑な連絡・スケジュール調整業務が自動化され、採用現場の業務負担軽減につながっている。導入企業は首都圏にとどまらず、飲食、宿泊、介護、製造業など幅広い業種や、地方企業にも広がっている。
代表取締役の仲思遥氏は、外国人材支援分野での豊富な経験を持ち、創業以来Lincを率いてきた人物である。仲氏は、外国人材と日本企業の間にある言語・文化面のギャップや、雇用条件のミスマッチ、生活上の課題に着目し、AIやITの導入による解決策を模索してきた。ZVCはシリーズAに続き2ラウンド連続でリード投資家となっており、同社の成長性や実績への評価がうかがえる。
労働力不足が深刻化する日本では、政府が「特定技能」制度などを通じて外国人材受け入れを拡大しており、厚生労働省の発表によれば2024年10月時点で全国の外国人労働者数は230万人を上回った。2029年までにさらに82万人以上の受け入れを見込む方針が示されている。しかし、現場では外国人材の早期離職や企業側とのミスマッチが課題となっており、採用から定着までを一貫して支援するSaaS型のサービスが求められている。競合には大手人材会社の求人メディアや、他の人材系スタートアップによるDXプロダクトなどが挙げられるが、LincのようにAIを活用し採用業務の一元化を図る事例はまだ少数だ。
今回の資金調達では、北京にAI開発拠点を設立する計画も含まれる。中国・北京はAIエンジニアの集積地として知られ、現地での研究開発体制強化により、国内外の最新技術を積極的に自社プロダクトに取り入れる狙いがある。また、LINEヤフー関連事業との連携も強化される。ZVCはLINEヤフーを親会社とし、Lincは今後、金融・住居・ショッピング・コミュニティなど生活インフラ領域でのサービス開発にも調達資金を投入する方針を示している。地方自治体や金融機関、不動産事業者との提携を深め、外国人材の就労と生活支援を一体化したプラットフォーム展開を目指すとされる。
さらに、Lincは外国人材の送り出し国との連携やM&Aの検討も進めており、グローバル展開にも踏み込む計画を明らかにしている。今後はAI面接・面談機能や、在留資格関連の業務自動化、教育・トレーニングシステムなど、採用管理機能のさらなる拡充を図る。これにより、企業側の採用担当者の業務負担を減らし、応募者・入社者へのサポート体制も強化する見通しだ。
Lincは、採用領域にとどまらず、定着支援や生活・金融分野との連携を含めた「スーパーアプリ」型サービス開発にも資金を投じる計画を進めている。
日本における外国人材の需要が高まる中、LincはAIやデータ活用を通じて、採用ミスマッチ解消や定着率の向上といった業界課題に対応している。今回の資金調達およびAI開発拠点設立、LINEヤフーグループとの連携拡大など、同社の動向は今後の人材業界における外国人材受け入れ施策の一例として注目される。