株式会社LayerX

企業のバックオフィス業務効率化をAIで支援する株式会社LayerXが、2025年9月にシリーズBラウンドで総額150億円の資金調達を実施した。リード投資家は米グロース・エクイティファンドのTCVで、三菱UFJ銀行や複数の国内外金融機関、ベンチャーキャピタルも参加した。
LayerXは2018年に創業し、AIを活用したSaaSを中核事業に据える。主力プロダクト「バクラク」は、経費精算、稟議、法人カード、請求書処理、勤怠管理といったバックオフィス業務を一元管理・自動化できるクラウドサービスである。AI OCR(光学文字認識)や自動仕訳エージェントなどの技術を搭載し、導入企業は累計15000社に拡大している。大手から中堅・中小企業まで幅広い顧客層を獲得している点が特徴だ。
Fintech分野にも進出しており、三井物産と合弁で三井物産デジタル・アセットマネジメントを設立。個人向け資産運用サービス「オルタナ」や、デジタル証券を活用した新たな資産運用の仕組みを提供している。また、AI・LLM(大規模言語モデル)を活用した生成AIプラットフォーム「Ai Workforce」も展開。三菱UFJ銀行や三井物産をはじめとする大企業での導入実績がある。
代表取締役CEOの福島良典氏は、大学時代にコンピュータサイエンスと機械学習を専攻し、2012年には大学院在学中に株式会社Gunosyを創業、代表取締役に就任した。創業からわずか2年半で東証マザーズに上場を果たし、その後は東証一部へ市場変更を実現。2018年にはLayerX株式会社の代表取締役CEOに就任し、ブロックチェーンやDXを軸に新たな事業を展開している。
「バクラク」が展開する会計・経費精算SaaS市場では、freeeなど競合として存在する。電子帳簿保存法改正やインボイス制度開始といった法規制の影響もあり、総務や経理部門のデジタル化需要が拡大している。さらに、企業の人手不足や労働人口減少の見通しを背景に、バックオフィス業務の自動化ニーズは一層高まっている。MM総研の調査によれば、2023年時点でクラウド利用企業の割合は約70%に達している。
AI・LLM領域においても、LayerXは2024年度に、生成AIプラットフォーム「Ai Workforce」を三井物産クレジットコンサルティングおよび三菱UFJ銀行に導入し、ナレッジ管理や与信判断レポート作成といったホワイトカラー業務の効率化を推進している。三菱UFJ銀行とは2024年の業務提携に続き、2025年には戦略的パートナーシップに関する覚書を締結。法人向け「バクラク for MUFG」の提供や社内DX支援など、多岐にわたる協業が進行中である。こうした動きは、金融DXや大企業でのデータ活用ニーズの高まりを反映している。
今回の調達においては、NetflixやSpotifyへの投資実績を持つTCVが日本で初めて主導した点も注目された。三菱UFJ銀行、三菱UFJイノベーション・パートナーズ、JAFCOなど複数の投資家が参加している。今回の資金はエンジニアや営業人材の増強、AI活用推進、報酬制度の強化などに投じられる予定だ。
LayerXは、AI SaaSを軸にバックオフィス業務の効率化・自動化を進めるとともに、金融大手や様々な業界の企業と連携し、生成AI活用の裾野を広げている。資金調達による事業基盤の強化を経て、引き続き国内外でのSaaS・AI市場における競争が続く見通しだ。