Miletos株式会社

AIプロダクトを軸に業務プロセスの自動化を進めるMiletos株式会社が、シリーズAラウンドで9.8億円の資金調達を実施した。弥生、インフキュリオン、みずほキャピタルを引受先とした第三者割当増資、同時にデットファイナンスも実施したことで、累計調達額は15.3億円となった。調達資金は主にAI製品の開発、パートナー企業との連携強化、バックオフィス業務の刷新を目的とした運用体制の拡充に充てられる。
2016年設立のMiletosは、AIとデータ活用による業務プロセスの刷新を事業の中心に据える。主に大企業を対象に、AIを活用したSaaSプロダクトの開発・提供や、業務改善支援コンサルティングを行っている。主力サービス「SAPPHIRE」は、経費精算プロセスの自動化を担うプラットフォームで、領収書画像やレシート、クレジットカード明細など複数の証憑データをAIが自動突合する。社内規定や税制、インボイス制度への準拠チェックもAIが担当し、従来手作業で行われていた確認作業の効率化に寄与している。
さらに、請求書処理を対象とした「SAPPHIRE 請求書支払」では、AIによるOCR技術と生成AIを組み合わせ、請求書処理の自動化、帳票間の整合性チェック、不正や入力ミスの検知などを実現。経理部門の負担軽減に寄与している。入金消込分野に特化した「STREAM」では、複雑な勘定科目や消込ルールに基づくトランザクション判定をAIが担い、迅速かつ高精度な処理を可能にしている。
今後の事業展開として、2026年春を目標に法人向けクレジットカード事業への参入を計画している。自社のAI経費精算システムとリアルタイムで連携することで、カード決済情報と経費精算業務を即時にデータ連動させる仕組みを構築する。これにより、明細反映の遅延や手入力作業が削減され、月次決算やキャッシュフローの早期可視化が可能になる。具体的には、カード明細の即時反映、社内規定準拠チェック、申請漏れの自動検知・フォローアップなどを実装し、「申請不要」の経費処理フローを目指す方針を示している。
代表取締役社長 兼 CEOの髙橋康文氏はコンサルティングファーム出身で、経理・財務領域の業務改革やデジタルトランスフォーメーション(DX)支援の知見を持つ。Miletos創業後は、AIを活用した業務自動化領域に注力し、企業が人手や紙に依存せずに業務運用できるプラットフォームの開発を進めてきた。現場適応やプロダクト機能拡張にも積極的に取り組む体制を築いている。
バックオフィス業務のデジタル化需要は拡大を続けている。矢野経済研究所の調査によれば、2022年度の国内クラウド型経費精算市場は約311億円と推計されている。
一方で、サービス選択肢の増加に伴う差別化や、既存システムからの移行コストに起因する「SaaSロックイン」現象の顕在化、AI活用の高度化といった課題も浮上している。経費精算や請求書処理は特に煩雑かつ属人的な作業が多く、不正リスクや統制対応(J-SOXなど)への対応も求められており、AI導入による自動化ニーズが高い。大企業では経費カード支出が年間数百億円規模、明細件数も数十万件に及ぶケースがあり、効率化とガバナンス強化の両立が求められる。
今回の資金調達では、弥生との追加出資および資本業務提携の強化が実現した。これにより、両社が共同で進める経費精算関連プロダクトの拡充が見込まれる。インフキュリオンは決済プラットフォーム分野に強みを持ち、AIを活用したデジタルカード領域での協業も想定される。みずほキャピタルはAIスタートアップ支援に注力しており、成長支援ネットワークの活用が期待される。
競合環境としては、ラクス(楽楽精算)、マネーフォワード、freeeといったSaaS大手や、弥生のクラウド経理基盤、AIエージェント系の新興企業などが市場シェアを争う。市場全体として、AI導入によるバックオフィス業務の効率化・高度化が重要な経営課題となっており、プロダクト運用ノウハウやデータ連携基盤の強みが競争優位性のカギとされる。
Miletosは今回の資金調達を活用し、AIプロダクトの機能拡充、請求・消込・決済分野での新サービス展開、パートナー企業との共同開発体制の強化を進めるとしている。法人カード事業など新領域への参入も準備が進められている。今後は、AIとデータを活用した業務基盤の高度化と、エンタープライズ市場における事業拡大の動向が焦点となる。