空間コミュニケーション・プラットフォーム「ROOV(ルーブ)」を運営する株式会社スタイルポートがシリーズDラウンドにて、第三者割当増資による約7億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、KURONEKO Innovation Fund L.P.、野村不動産、大和企業投資、ケップルキャピタル、ソニーグループ、ゼンリンフューチャーパートナーズの6社。
今回の資金調達により、ROOVの利活用を他産業領域に水平的に拡大、販売接客から集客、入居開始に至るまでの垂直方向への利用拡大に向けたプロダクト開発を目指す。
不動産流通の課題を解決するDXソリューション
同社が提供するROOVは、住宅販売におけるコミュニケーションプラットフォームだ。住宅の購入検討において必要な資料やコンテンツを集約した「ROOV compass」のほか、クラウド型VR内覧システム「ROOV walk」を提供する。
ROOV compassでは、間取りや住宅価格、日照、主要地へのアクセスなど、住宅購入の意思決定に関わる情報をWeb上で共有することが可能だ。顧客は専用のウェブサイトにアクセスし、各項目から知りたい情報を入手できる。また、企業は顧客の行動ログデータを常に確認でき、顧客の状態に合わせた情報提供を可能とする。
クラウド型のVR内覧システムであるROOV walkは、物件の建築図面から3DCGを生成し、VR上で物件を内覧する。テーブルやソファといったあらゆる家具を任意のサイズで自由に配置したり、床や壁の色を変更してシミュレーションするほか、VR空間上での採寸などが可能だ。
このほか、新築戸建て向けのソリューションも提供している。
マンション販売業界における実績を順調に積み重ね、2023年4月時点で90社、500プロジェクトに導入されている。野村不動産や三菱地所レジデンス、大和ハウス工業などの大手企業に加え、地方のデベロッパーへも導入が進む。
今回の資金調達に際して、代表取締役 間所 暁彦氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
変わる住宅販売の購買プロセス
―― 住宅販売の現状について教えてください。
間所氏:これまで、住宅購入者との商談では、顧客が実際にモデルルームの内覧に足を運び、対面で商談をすることが一般的でした。煩雑で大量の物件情報を、半日以上かけて説明されることも珍しくありません。販売員からの膨大な説明を受けて購入に至ることが多かった中、時間を拘束されずに、自分のタイミングで意思決定に必要な情報を知りたいという思いを抱える顧客が増えています。
一方で、事前に重要な情報を開示しすぎると、顧客がモデルルームに来なくなる可能性もあります。こうした背景から、顧客と実際に対面するまでは積極的な情報提供ができないという課題もありました。
また、新築マンション販売のたびに仮設のモデルルームを建設して、売却後に解体することにもコストがかかります。企業も顧客ニーズの変化を受け、デジタルを活用して販売員の接客をより効率的にしたり、広告コストを削減する動きが進んでいます。
―― 顧客の住宅購入における意思決定プロセスは、なぜ変化しているのでしょうか?
SNSによる物件情報の発信が増えたことや、新型コロナウイルスによる対面接客の制限が大きな要因だと思います。
これまでは意思決定に影響する価格などの重要情報は、販売員と直接話さなければ知ることは困難でした。近年では、マンションブロガーなどによるSNS上での情報発信により、顧客が物件情報を得る機会も増えたことで、企業と顧客の情報格差がなくなってきています。そのため、情報を開示していないと顧客の関心を獲得できないとして、検討初期の顧客へも積極的に物件情報を提供していく動きに変わっています。
またコロナ禍によりオフラインでの接客が困難になったきっかけもあり、顧客はよりオンラインでの情報提供を求めるようになりました。元々、モデルルームの運営コストや非効率な営業に課題意識を持っていた企業は、顧客の選び方に合わせた売り方を推進しています。
DXの実現には物件販売の効率化が必要
―― 創業のきっかけを教えてください。
大学卒業後に名古屋にあるゼネコンに就職し、建築営業や経営企画に携わりました。マンションなどの不動産を開発販売するグループ企業では、5年ほど取締役を務めた経験もあり、次第に不動産ビジネスの知見が深まると同時に、業界内でのネットワークが出来てきました。その中で取引先から独立を後押しするお声がけをいただいたことが転機となり、スタイルリンクという社名で創業しました。
―― どのようなきっかけからROOVの開発を始めたのでしょうか?
当初は名古屋を拠点に、DX化支援ではなく、デベロッパーなどのクライアント業務の一部を受託する事業を展開していました。
スタイルリンク創業から5年が経過し、順調に売上が伸びて東京へ進出しようと考える中、前職で関わりがあった企業からデジタル領域での新規事業を立ち上げないかというオファーがありました。2016年にその企業と合併した後、2017年にMBOでスタイルポートを分離独立し、現在の不動産×ITの事業を展開しています。
2017年当時は不動産テックへの関心も高く、多数の不動産IT企業が設立されていました。AIを活用した適正な物件価格の算出や仲介を行う企業が目立つ一方で、大部分では内見を通じた物件販売は変わらず残っていました。非効率な物件販売を効率化しなければ、DXを成し遂げることはできないという思いから、ROOVの開発に着手しています。
コロナ禍によるロックダウンの時期は問い合わせがかなり増え、Zoomで商談を行ったことで、オンラインでの内覧や情報共有を行うプロダクトの価値が非常に伝わりやすく、そこからはかなり順調に導入が進みました。
日本を代表するデジタルツイン企業へ
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
今後3年以内を目安にIPOを計画しており、財務基盤を強化する準備を行っていきます。また、ROOVの仕組みを活かした他産業への展開に加え、接客以外にも集客支援など、提供価値を広げていくためのプロダクト開発費用として資金調達を行いました。エンジニアやカスタマーサクセスを中心に採用を強化し、これから3年間で合計100名ほどの組織体制を作ります。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
他産業への展開として、例えば物流業界では、人手不足による業務効率化の需要が高まっています。建物管理やメンテナンス、動線シミュレーションといった分野での需要に対して、弊社サービスが活用できないか現在検証を進めています。
加えて、海外展開も構想しています。弊社の主要クライアントは、現在海外での住宅開発にも取り組んでいます。まずは国内の実績を作りつつ、クライアントの海外進出も支援していきます。どこにいても国内外の物件情報にアクセスでき、物件を売買できる状態を創り上げながら、今後3年でROOVのシェアを60%程度まで高めることが目標です。
今後10年の見通しとしては、SUUMOと並ぶ住宅関連のインフラとして業界内で確立したいと考えています。将来的には日本を代表するデジタルツインソリューションの会社としての成長を目指して取り組んでいきます。
株式会社スタイルポート
株式会社スタイルポートは、分譲マンションCSサポート事業とインターネットVRを利用した不動産売買支援システムを開発する企業。 同社は不動産販売支援システム『ROOV』を開発・提供している。 『ROOV』は、販売物件の内覧を行える3DCGビュワー「ROOV walk」や物件販売現場で必要な資料、眺望写真等を集約したプレゼンツール「ROOV compass」などを備えたサービス。 同サービスを利用し、VR空間上に再現された物件を用いた家具の配置や日照・景観の確認を行うことで、物件の購入者に生活イメージをより具体的に伝えることが可能となる。
代表者名 | 間所暁彦 |
設立日 | 2017年10月11日 |
住所 | 東京都渋谷区神宮前4丁目3番15号東京セントラル表参道 |