近年、中小企業の事業承継に関する話題に事欠かない。日本では、2025年までに70歳を超える経営者が約245万人と推計されている。このうち約半数の127万人が後継者未定で、黒字廃業の可能性を含んでいる※。
中小企業の潜在的な売りニーズは10年間で約60万件とされる。日本におけるM&Aは2019年に過去最高の4088件を記録した一方、大きな事業承継ニーズに対して、まだまだM&Aの件数は足りていない。
こうした状況で、小規模事業者のM&Aを促進するのがM&Aマッチングプラットフォームの存在だ。プラットフォーム上で売り手と買い手をマッチングし、M&Aの成約を支援する。M&Aマッチングサービスの台頭も影響して、中小企業のM&Aに関する認知は徐々に拡大している。
日本M&Aセンターホールディングスのグループ企業として、M&Aマッチングサイトを手がけるプレイヤーの1社がバトンズだ。
同社が提供する「BATONZ」での年間M&A成約数は1400件を超えた(2023年12月時点)。成約まで専門スタッフが支援するため、M&A経験がなくても利用することができる。
また、「BATONZパートナープログラム」が特徴的だ。M&A仲介会社や中小企業診断士、税理士などの中小企業支援事業者が登録する。登録パートナーはBATONZのプラットフォーム上で、売り手と買い手のマッチングや成約をサポートするビジネス機会を得ることができる。
これまでのM&A仲介における成約金額は数億円規模になることも珍しくない中、BATONZでは数百万円程度の成約も多い。上場している大企業や中小企業から個人まで、幅広い層が活用し、登録会員数も25万人に迫る勢いだ。
2023年12月にはVCのXTech Ventures、アニマルスピリッツ、DIMENSIONの資本参画を発表した。VC参画により経営体制を充実させ、さらなる事業拡大を目指す。
代表取締役CEO 神瀬 悠一氏に、VC参画の背景や今後の展望などについて詳しく話を伺った。
求められる事業承継目的のM&A認知拡大
―― 事業承継を目的としたM&Aが注目される背景について教えてください。
神瀬氏:これまで、日本では子どもが親から経営を引き継ぐ形の事業承継が一般的でした。後継者がいない高齢経営者が増えた結果、第三者に事業承継するM&Aに注目が集まっています。
以前は、M&Aは大規模な案件がほとんどで、高額な仲介手数料を払える中小企業は多くありませんでした。近年では、BATONZのようなマッチングサービスの登場により敷居が下がり、誰でもM&Aができる世の中になっています。
―― 米国では、EXITの手段としてM&Aの割合が高いと聞きます。
米国では、自分でゼロから立ち上げた事業を次の経営者に引き継ぐことが一般的です。そのため事業規模にかかわらず、M&Aによる企業の流通環境が日本よりもかなり先行しています。
日本は米国と比べて開業率が低くなっています。日本でもこうした形で、誰かから経営資源を引き継ぎ、社長として自分で事業を行う人が増えれば、雇用の流動化や経済の活性化につながるはずです。そのため開業促進の文脈で、当社のようなプラットフォームへの注目が集まる側面もあると考えています。
―― M&Aの件数を増やすためには、どのような取り組みが必要でしょうか?
M&Aの件数は、公表データを基にした集計だと年間約4000件です。政府が官民を合わせて、年間6万件のM&A実施を目標に掲げていることを考えると、理想に対して相当のギャップがあると言えます。
こうした中で、国も廃業ではなく事業承継を選択するよう全国の経営者への情報発信を強化しています。一方で、まだまだM&Aに敷居の高さを感じている人や、M&Aマッチングサービスの存在を知らない経営者も多い状況です。
当社もM&Aのノウハウやトラブル事例、リスクなど幅広い情報発信に取り組んでいます。まだまだM&Aへの認知がない経営者もいる中、1社だけではなく、金融機関や士業など地域の専門家とも連携した情報発信を通じて認知を拡大しなければなりません。
M&Aを軸に中小企業経営者の課題解決を目指す
―― VCが株主として参画した背景や目的について教えてください。
日本M&Aセンターホールディングスのグループとして、ITとM&Aのノウハウを組み合わせることでサービスを提供してきました。多くのスタートアップの成長を後押ししてきた実績のあるVCに株主になっていただくことで、経営のレベルを引き上げてサービスをこれまで以上に拡大することが目的です。
今では、個人でもM&Aの選択肢を持てるようになっています。スタートアップのマーケットにおいてもこうした認知を拡大し、プロモーションや採用を強化することも目的の一つです。熱意をもって当社が目指す世界観を共に追いかけてくれる優秀な人材にジョインいただき、マネジメント体制の基盤を整えることがこれから1年で非常に重要です。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
M&Aは、結婚に非常に似ています。事業規模や業種などの表面的な情報だけでなく、会社同士の相性や価値観、ビジョンの一致がとても重要です。人が介在する業務と、デジタルで自動化できる部分を共存させながら、成約の品質を高める取り組みは継続して行います。
また、海外企業とのM&A支援にも今後は力を入れていきます。例えば韓国は、10年後には今の日本と同じく、高齢経営者の増加による後継者不足に陥ると見られています。人口に対する企業の数も、日本より圧倒的に多いんです。日本で先行して得たM&Aのノウハウや仕組みをグローバルに展開していく予定です。
政府が年間6万件のM&A成約を目標に掲げる以上、少なくともその内の6000件程度はBATONZが担える状態を早期に目指しています。日本は今後も高齢化が進みます。どんなに遅くても2030年までには、BATONZで年間1万件の成約を生まなければならない。そう思っています。
M&Aの成約が重要なことはもちろんですが、M&Aの前後にも経営者の課題はあります。資金繰りや、M&Aした会社に送り込む人材を人手不足でどのように確保するのか、などの採用に関する問題です。誰でもM&Aができる時代になった中で、周辺領域も含めた中小企業経営者の困りごとに手を差し伸べられるようなプラットフォームを目標に取り組んでいきます。
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※ 経済産業省 「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」