がん治療薬の最前線、リンクメッドが挑む診断と治療のシームレスな進化

がん治療薬の最前線、リンクメッドが挑む診断と治療のシームレスな進化

DeepTech Trend

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KEPPLE編集部


「がん」は言わずと知れた日本人の死因の第一位である。日本人の2人に1人が生涯でがんを発症すると言われる中、年々がん患者数は増え続けている。がん研究振興財団によると、国内の2022年のがん罹患数は約101万9000件、死亡数では約38万400人※1だと推計されている。

また、世界でもがん患者数は膨れ上がっており、International Agency for Research on Cancer(国際がん研究機関)によると、2020年の世界のがん患者数は1930万人、がん死亡者数は1000万人※2と推計されている。

患者数の増加に比例して、がんの診断薬市場も世界的に成長している。グローバルインフォメーションによると、2030年までに世界のがん診断薬の市場規模は1623億1000万米ドルに到達する※3と予測されている

こうした状況下で、放射性医薬品の研究開発を行うリンクメッド株式会社は、2023年12月、シリーズAラウンドにて第三者割当増資による約6.8億円、本資金調達の完了を条件とするJ-KISS型新株予約権を活用した調達額と合わせて総額9.3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回のラウンドでの引受先は、DBJキャピタル、岩渕薬品、ペプチドリーム、大正製薬、みずほキャピタル、大阪・関西万博活性化投資事業有限責任組合、グリーンコア、白鳥製薬の8社。

同社はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業」にも採択された。

今回の資金調達により、自社工場の新設、64Cu(カッパー64)を用いた創薬支援プラットフォームの確立を目指す。

64Cuで「見える」がん治療を

リンクメッドは、QST(量子科学技術研究開発機構、旧放射線医療総合研究所)認定ベンチャー企業だ。同社は、銅の放射性同位体※4である64Cuを高品質で量産し、64Cu治療薬を合成する独自技術により、放射性医薬品の創薬支援プラットフォームを開発する。

64Cuは他の放射性元素と違い、診断と治療の両方に用いることができる特徴を持つ。PET画像診断装置を用いると、体の外から薬剤の挙動を確認できる。そこで、64Cuの薬を患者に少量を投与しPETで調べると、がんに薬剤が集積している状況を確認でき、疾患を特定して精密な効果予測を行ったうえで、効率のよいがん治療にうつることが可能となる。

また、64Cuは治療という点でも高い有効性を発揮する。従来の放射性医薬品で使われるベータ線の他に、局所的に非常に強いエネルギーを放ち、がんDNAを効果的に損傷するオージェ電子という新しい放射線を出すため、これまで治療効果の低かったがんを治療できるようになるという。

※4  放射性同位体:同一原子番号をもつ元素の原子で、原子核中の中性子の個数が異なる同位体のうち、放射能を持つものを放射性同位体という。ラジオアイソトープや放射性核種、放射性同位元素とも呼ばれる。

リンクメッドの独自技術

画像:リンクメッド 会社紹介資料より掲載


同社は現在、64Cuを用いて悪性脳腫瘍や膵がんをはじめとしたさまざまながんの治療薬・診断薬の臨床開発を行っている。

現在、ペプチドリームの子会社であるPDRファーマと悪性脳腫瘍に向けた放射性薬剤「64Cu-ATSM」の共同開発を行い、国内での製品化に向けた準備を進めている。

今回の資金調達に際して、代表取締役社長 吉井 幸恵氏、取締役執行役員CFO 中村 愼氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

初の国産放射性治療薬を目指す

―― 従来の「がん治療」にはどのような課題がありましたか?

吉井氏:抗がん剤治療は、10人に2〜3人程度の割合でしか効果が見られないと言われています。しかも、効果が現れるかどうかは投与してみないと分からない状況にあります。そのため、患者への身体的な負担や、高額な治療費が課題になっていました。

そして、特に再発悪性脳腫瘍は既存の治療法では十分な効果が得られず、新たな治療法の開発が強く望まれています。従来の治療が効きづらかった原因として、腫瘍内部が酸素の乏しい低酸素環境になり、治療効果が減弱してしまうということがあります。

―― 御社の最新技術について教えてください。

吉井氏:これまで、64Cuは診断薬として活用されてきました。というのも、治療薬として使用するには品質の高さが求められるのですが、安定的に高品質の64Cuを生成することが難しかったのです。

我々は、長年の研究により、品質の高い64Cuを安定的に生産する技術を開発しました。そして、世界で初めて64Cuを治療薬として使用した臨床試験を実施することができました。64Cuを使用することで、一つの化合物で治療薬と診断薬のどちらにも利用できる開発上の利点があり、その結果、開発にかかるコストも時間も削減することが可能になります。

現在は、開発一号品として、再発悪性脳腫瘍に集積するように設計した64Cu-ATSMを中心に薬の開発を行っています。これまでに、非臨床試験で64Cu-ATSMが低酸素状態にある悪性脳腫瘍の増殖を抑制し、生存率を改善することが判明しています。

そして、初の国産放射性治療薬として第Ⅰ相臨床試験を実施しており、悪性脳腫瘍の新たな治療薬の実用化に向けて開発を進めています。

多様ながんに対応するサステナブルな創薬支援プラットフォーム

―― 御社の最新技術の開発背景と事業化できたポイントについて教えてください。

吉井氏:元々、私は国の研究機関であるQSTで10年以上にわたり、64Cuの開発に従事してきました。放射性医薬品による革新的ながん治療の確立を目指して研究開発を行い、その成果を世の中に広く届けるために、リンクメッドを創業しました。

64Cuは、低分子や抗体、ペプチドなど銅を結びつける先を変更することで、さまざまながんをターゲットにすることができます。薬の形を変えあげることで、多様ながんに対応したサステナブルな開発を行うことが可能です。

当社では、この特性を基にして、悪性脳腫瘍、頭頸部がん、子宮頸がん、膵がん、胆管がんなどに対して、診断薬・治療薬の開発を狙っています。そして、次世代の医薬開発を加速する64Cu創薬支援プラットフォームを構築しています。

リンクメッド臨床開発

画像:リンクメッド 会社紹介資料より掲載


―― 技術を開発される中で、どんな課題があり、どのように克服されてきたかを教えてください。

吉井氏64Cuは、サイクロトロンという小型の加速器を用いて安定同位体である64Ni(ニッケル64)を照射することで生成します。生成後、放射能が半分になる半減期までは13時間ほどで、薬の製造はオーダーメイドになります。患者さんごとに薬を作り、放射能が有効なうちに早急に提供しなければなりません。

スピーディな薬の製造と運搬を実現するためには、さまざまな領域の知識や技術を集約して開発を進める必要があり、多くの課題がありました。しかし、幅広い領域の専門家とともに、最先端の科学技術を用いて、こうした課題をひとつずつ乗り越えてきました。

―― 御社の技術、プロダクトが普及した先の社会や人々のメリットについて教えてください。

吉井氏:悪性脳腫瘍の患者は、日本、米国、中国など世界的に増加しています。そのため、革新的な治療薬開発が望まれています。当社の開発する放射性医薬品は、これまで治療が困難だったがんや、全身に転移したがんにもアプローチすることが可能となると期待されます。

また、現状では放射性治療薬は輸入に頼っている状態ですが、私たちの製品を普及させることで、国産放射性治療薬をより安定的に活用いただけるようにしていきたいと思います。

前列右側:代表取締役社長 吉井 幸恵氏、後列左側:取締役執行役員CFO 中村 愼氏

国産の放射性医薬品で世界のがん治療進展の一助に

―― 資金調達の背景や使途について教えてください。

中村氏:今回はNEDOの補助金と合わせる形で、シリーズAラウンドとして資金調達を実施しました。調達資金は、64Cuの自社工場の建設費、人件費、研究開発費に充てる予定です。

また、今回は複数の製薬会社から出資いただきました。これらの企業との連携も行っていきます。放射性医薬品に関する実績やノウハウを持ったペプチドリームとは医薬品の共同開発を行います。そのほか、岩渕薬品とは開発薬の上市後に向けて、最適な流通や医療機関での治療環境の整備を行うなど、各社との取り組みを進めていく予定です。

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

吉井氏:2026年にIPO、2027年には64Cu-ATSMの上市を目指しています。64Cu-ATSMは、現在臨床試験を実施しており、一般の方にも利用していただきやすいよう、保険適用の承認を目指します。

現在は、64Cu-ATSMは悪性脳腫瘍のひとつである神経膠腫という希少疾患をターゲットにしていますが、今後は転移性脳腫瘍まで対応できるよう開発を進めていくつもりです。大腸がんや肺がんなどといった一般的ながんが脳に転移するケースはとても多く、ターゲットを広げることで、多くの患者さんに使っていただける薬になります。

これまで国立の研究所で国の予算を使わせていただきながら開発を進めてきたので、いち早く国内で薬を完成させ、日本の皆様のお役に立てる製品を届けたいと思っています。また、基準の厳しい日本で認可された薬は、世界を救えるとも信じています。ぜひ、この想いに共感していただける投資家の方がいらっしゃいましたら、お声がけいただければ幸いです。

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※1 がん研究振興財団 「がんの統計2023
※2 International Agency for Research on Cancer 「LATEST GLOBAL CANCER DATA: CANCER BURDEN RISES TO 19.3 MILLION NEW CASES AND 10.0 MILLION CANCER DEATHS IN 2020
※3  グローバルインフォメーション「がん診断薬の世界市場:規模、シェア・動向分析レポート - 製品別、タイプ別、用途別、最終用途別、検査タイプ別、セグメント予測、2024~2030年


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