Qlayの台頭、AIが消費者リサーチの未来をどう形作るか

Qlayの台頭、AIが消費者リサーチの未来をどう形作るか

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KEPPLE編集部

市場の変化に即応する──。

顧客ニーズやトレンドが日々変化する中、ブランドはその変化に柔軟かつ迅速に対応する必要がある。一方で、多くの個人が情報発信を行う社会で、企業がリアルタイムに消費者の好みや不安を把握することは難しい。

そんな膨大な消費者の声を分析し、消費財メーカーの商品開発やマーケターを支援するプロダクトを開発するのがクレイ・テクノロジーズだ。

創業は2023年6月。すでに米国を本社として、この春には米国を本拠地に顧客開拓に乗り出す予定だ。

日本で事業が軌道に乗ったタイミングで海外進出を目指す企業が多い中、なぜプロダクトの正式リリース前のスタートアップがグローバルに打って出るのか。

同社が開発を進めるサービス「Qlay」や今後の展開について、CEO中田氏とCOO山下氏に話を伺った。

消費者の声を漏れなく読み解くリサーチツール

―― 御社が開発するQlayはどのようなサービスでしょうか?

中田氏:Qlayは、生成AIを使用して消費財メーカーの商品開発やマーケティング担当者が利用するためのツールです。正式ローンチは春頃を予定しており、現在は日本国内で一部の顧客に利用いただきながらプロダクトをブラッシュアップしています。

サービスイメージ
主にアパレルや化粧品、飲料、食品メーカーなどが商品名を入力すると、消費者の不満や何に満足しているかなどを可視化するイメージです。

商品やサービスに関する消費者の意見は、ECサイトの口コミやSNSなどの膨大なデータから収集しています。収集したデータから、消費者の嗜好をAIで抽出・要約しています。例えば、「香りがいい」「香りが長続きする」といった、ユーザーが具体的に価値を感じているポイントを要約して集計している点が特徴です。


要約・可視化されたアウトプットから、ボタン一つの操作で実際の投稿や口コミを閲覧することもできます。

今後は、時系列で消費者の反応をスコア化して上昇・下降要因を分析する機能や、顧客属性分析・競合比較ができる機能を開発する予定です。

―― 商品開発やマーケティングにQlayが必要な理由を教えてください。

中田氏:マーケターは、実際の消費者の声を取り入れて商品企画を行います。しかし、ECサイトの口コミやSNSの投稿から手作業で情報を収集するには時間がかかりますし、すべての情報を集めるのは不可能です。

マーケターは本来、自社商品に対する消費者の声を分析して商品開発に活かしたいと思っています。一方で、実際にはその難しさから、自分の仮説を後押しする一部の投稿や口コミのみを利用してしまうことがあります。

本来であればすべての消費者の意見をもとに、消費者がどう感じているのか整理することが必要です。しかしながら、膨大な消費者の声を包括的に分析できるツールはこれまでありませんでした。

―― 従来の分析ツールでは不十分なのでしょうか?

中田氏:SNSなどの投稿データを収集・分析する従来のソーシャルリスニングツールの多くは、投稿から頻出単語を抽出し、集計しています。しかし、マーケターに本当に必要なのは、頻出単語だけではなく、実際に消費者がどう考えているのかを理解することです。

CEO中田氏

CEO 中田氏


例えば、「価格が思ったより高い」「費用対効果が良い」「お財布にやさしい」といったといったフレーズが投稿に使われていた場合を考えてください。使っている単語はそれぞれ異なっていても、結局すべてコストに関する情報ですよね。

これらを「コスパがいい」などに要約し、消費者の意見として定性的に処理するのが、私たちのツールの強みです。

また、従来のツールは、マーケターに特化しているわけではありません。マーケターにとって必要な情報を理解していなければ、本当に価値あるインサイトを届けることはできないのです。

―― 米国ではQlayのようなツールの活用は進んでいるのでしょうか?

中田氏:米国でも、マーケターが抱える課題は日本と同様です。日本と大差なくアナログな分析手法がとられています。近年は、徐々にプロダクトの導入も進んでいます。

一方でその多くは、モバイルアプリの消費者レビューを分析し、エンジニアに対して情報を提供するようなツールです。消費財に特化してマーケターに情報提供するようなツールはまだ十分に普及していません。

起業支援プログラムでの意気投合をきっかけに創業

―― 創業のきっかけを教えてください。

中田氏:新卒でマッキンゼーに入社し、これまでに消費財業界でのマーケティングやセールスに関わるプロジェクトを中心に、財務戦略や組織改革などにも携わっていました。

これらの経験が、消費財のマーケティングに深い関心を持つきっかけになりました。消費財マーケティングの規模が日本よりも遥かに大きい場所で経験を積みたいと思い、ロサンゼルスのオフィスに移ることになります。消費財クライアントのマーケティング業務における課題を目の当たりにし、非常に改革のしがいがあると感じたんです。

そこで当初から起業に関心があったこともあり、Antler Japanの起業支援プログラム「Antler Cohort Program」というプログラムに参加し、山下さんと出会ったことが創業のきっかけです。自分と同じく米国での経験があることや、AIなどの先端技術を駆使して大企業に変革をもたらしたいという思想も一致したことから、創業に至りました。

―― 山下さんも以前から起業をしようと考えていたのでしょうか?

山下氏:私も学生時代から、起業への関心を持っていました。学生時代はアフリカや米国で過ごし、インターネット黎明期だったこともあり、この分野で何か新しいことを成し遂げたいと考えるようになりました。そこで、まずはMITに進学して電気工学とコンピューターサイエンスを学びました。

その過程で、不動産系のスタートアップを立ち上げようとしていたウガンダ出身の人と出会います。協力してプロジェクトを進めましたが、うまくいかずに自身の無力さを実感しました。この出来事を機に、開発やチームマネジメント、ファイナンスに関するスキルと知識を向上させるため、企業で経験を積むことにしました。

COO山下氏

COO 山下氏


金融システムの開発や不動産系PEファンドでの経験などを経て、自分でWeb3系の事業を模索した時期もあります。法規制も影響して事業継続が難しいこともあり、次のチャレンジを検討する中で参加したのが中田さんと出会うきっかけになった「Antler Cohort Program」です。

正式リリース前から海外展開を見据える理由

―― 創業初期から、グローバル市場での展開を本格化するのはなぜですか?

中田氏:最初から日本向けのプロダクトとして展開すると市場が狭まってしまいます。そのため、日本国内での事業展開にとらわれず、最初からグローバル市場を視野に入れる必要があると考えています。

また、日本でビジネスが成功しても、日本の顧客に最適化したプロダクトが必ずしも海外で受け入れられるわけではありません。

さらに、AI業界においては変化や成長のスピードも速いため、後からアメリカに展開するというようなアプローチでは、遅れてしまう可能性があります。最初からグローバルな市場を攻めるほうが、よりスムーズに成長できると考えていることも理由の一つです。

グローバル市場で成功するモデルケースに

―― 今後の展望について教えてください。

中田氏:グローバルな消費財企業が、マーケティング業務にAI技術を組み込む際、まずQlay の名前が一番に上がってくるような企業を目指しています。

将来的には、人間にしかできないことに最大限時間を使うことができるよう、その他あらゆる領域において、AIを活用して自動化を進めることが目標です。

山下氏:2024年中にはMRR300万円を達成することを目標としています。また、まずは消費財に注力して実績を作りながら、将来的には不動産など他の分野にも事業を拡大して利用できるよう、プロダクトを開発していきます。

――読者に向けたメッセージをお願いします。

山下氏:初期からの米国市場への展開は大胆な挑戦かもしれませんが、我々には米国での学業・事業経験があるという点で、他の日本企業に比べてアドバンテージがあります。ベトナムなどに住む優秀なエンジニアでチームを作り、コストも下げながら高品質なプロダクトを開発していきたいと思います。

中田氏:最初からグローバル市場を攻めることで、大型のIPOも狙うことができます。創業からグローバルの事業展開を目指すケースの、まさに最初の成功パターンとなる意気込みで取り組みます。

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  • #マーケティング
  • #データ分析
  • #人工知能
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