関連記事
2025年、脱炭素スタートアップは「実証」から「社会実装」へ


クリーンテックは、もはや「環境に良い技術」というだけでは語られなくなっている。いま投資家や事業会社が見ているのは、気候変動対策に加え、エネルギー安全保障、サプライチェーン管理、AI時代の電力需要といった、より切迫した経営課題だ。
2026年4月23日、森ビル株式会社と株式会社ケップルの共催により、セミナー「グローバル・クリーンテック最前線 2026 ──世界動向と国内核融合スタートアップの挑戦」が開催された。筆者は本イベントに運営側として参加し、グローバルなクリーンテック市場の変化と、日本発の核融合スタートアップの現在地に触れる機会を得た。
本イベントでは、グローバルなクリーンテック分野の調査機関であるCleantech GroupのSummer Bae氏を迎え、クリーンテック領域の最新動向が解説されたほか、世界が注目する国内核融合スタートアップ3社──京都フュージョニアリング株式会社、株式会社Helical Fusion、株式会社LINEAイノベーションによるパネルディスカッションも実施された。
本稿では、当日筆者が参加して興味深いと思ったポイントを独断でお届けする。
イベント冒頭では、ケップルから国内脱炭素スタートアップ約500社を対象とした最新動向が紹介され、「資金調達額ランキング」「時価総額ランキング」「投資家別の投資件数ランキング」などが発表された。
EV充電インフラ、空飛ぶクルマ、再生可能エネルギーなど、研究開発フェーズから実証・実装フェーズに移行している企業が多く、核融合関連スタートアップのランクインも目立つ点が特徴である。また、エクイティとデットを組み合わせた調達も一般化しつつある。
国内でも脱炭素スタートアップは、研究開発フェーズから実装フェーズへと移りつつある。では、世界全体ではこの市場をどう見ているのか。その答えの一つが、Cleantech GroupのSummer Bae氏の講演にあった。

次に、Cleantech Groupのアジア太平洋地域担当マネージングディレクターを務めるSummer Bae氏が登壇。同氏はクリーンテックの各領域の市場動向を紹介し、総じて「クリーンテックは決して衰退しているのではなく、むしろ成熟の段階に入っている。2026年は市場の選別が進む年と捉えるべきである。すなわち、どの企業が勝者となり、どの企業が生き残るのかがより明確になる局面にある」と評価した。
特に印象的だったのは、クライメートテック企業の「価値の伝え方」の変化である。(以下、同氏発言より抜粋)
今年、特に興味深い点として、スタートアップの成長ストーリーにおける語り方の変化が挙げられる。多くのスタートアップが、従来のように「気候変動対策」そのものを前面に出すのではなく、「セキュリティ」という観点で自社の価値を説明するようになっている。
地政学的リスクの高まりを背景に、「サプライチェーンを守る」「資源を確保する」「エネルギーや水の安定供給を実現する」といったメッセージが重視されるようになっており、クライメートからセキュリティへとナラティブがシフトしている。この変化は自然な流れであり、現在のサプライチェーンの約80%が中国に依存している状況に対し、多くの国が強い懸念を抱いていることが背景にある。
2021年の流行語大賞に「SDGs」がノミネートされ、「サステナビリティ」という概念が定着した数年前と比較し、多くの意味で不確実性が増している。企業のリスク・サプライチェーン管理といった領域のスタートアップが資金調達したニュースもよく耳にする印象だ。2026年3月には、企業のCO2排出量の可視化・削減やサプライチェーンマネジメントを支援するアスエネが、AI危機管理サービスを提供するSpecteeと資本業務提携を行った。こうした動きも、クライメートテックが単なる環境対応にとどまらず、企業経営におけるリスク管理やレジリエンス強化と結びつきつつあることを示唆しているだろう。
次に行われたパネルディスカッションでは、核融合発電の実用化に向け奔走する核融合スタートアップ3社を迎え、今後のロードマップや開発課題、パートナー企業との連携や資金調達について訊いた。3社はいずれも核融合の社会実装を目指しているが、そのアプローチは大きく異なる。

京都大学での研究成果をもとに誕生した日本初の核融合スタートアップ(2019年設立)。核融合反応そのものではなく、発電に必要なプラズマ加熱(ジャイロトロン)、燃料サイクル(トリチウム)、熱取り出しといった周辺システムに特化し、核融合企業等を顧客とするユニークなビジネスモデルを構築している。
同社は放射性物質であるトリチウムを必要とせず、中性子を出さない「プロトンボロン(p-11B)反応」の採用を提唱している。日本大学・筑波大学のFRC(磁場反転配位)技術とミラー技術を組み合わせ、直接発電が可能な革新的アプローチに挑戦している。装置がシンプルで小型化可能なため、開発スパンを短く設定する「アジャイル型」開発が可能だという。
「日本にもうひとつ、太陽をつくろう」を掲げ、核融合科学研究所の「LHD(大型ヘリカル装置)」の技術蓄積を基盤に商用プラント実現を目指す。2026年から実証装置「Helix HARUKA」の組立フェーズへ移行。最速の核融合炉の実用化に向け、多様な専門分野を持つパートナー企業との協業を最重要戦略に位置付けている。
まず一口に「核融合」と言っても、各社様々な技術や事業戦略を持ってアプローチしている点が印象的だった。
各社に共通していたのは、2030年代の発電実証を目指している点である。
LINEAイノベーションの野尻氏は、多くの核融合スタートアップが2030年代の発電実証を見据えている背景の一つとして、外部環境の変化を挙げ、「日本においてもディープテックへの投資環境が整ってきた。人類がこれまでに到達した技術的背景を踏まえれば、2030年代という目標は技術と投資が交差する、極めて妥当かつ戦略的なタイミングであると確信している」と、期待を滲ませる。
また、開発のリードタイムが長い領域であることから、資本政策にも議論が及んだ。商用化までの時間軸をどのように投資家と共有するのか。早期収益化の道筋をどう描くのか。セカンダリー投資や事業会社との連携をどう位置付けるのかについて、リアルな議論が行われた。
京都フュージョニアリングの西村氏は「ビジネスモデルとして早期に売上を立てる構造を明確に示している点が、投資家への説明において一つのポイントとなっている。加えて、(核融合技術の)他分野応用による多角的な収益化の見通しについても、(投資家に)前向きに評価いただいていると考えている」と説明した。
そして、各社が共通して感じていたのは、エネルギー源としての核融合への社会的要請だ。
パートナーとの協業を重視するHelical Fusionの久保氏は「フュージョンエネルギー発電プラントは極めて複雑な装置であり、それを一つのシステムとして統合していくプロセスこそが当社の強みを発揮すべき領域。膨大な部品点数を一つの製品としてまとめ上げる日本の自動車産業のような “ものづくり”の強みにも通じるものであり、この分野において日本は大いに強みがあると考えている」(一部抜粋)と、オールジャパンでの核融合推進について示唆した。
核融合の実用化に向けた道のりは決して短くない。それでも、日本の大学や研究機関に蓄積された研究成果、ものづくり企業の知見、そしてスタートアップの機動力が結びつけば、日本発の核融合産業が世界で存在感を示す可能性は十分にある。パネルディスカッションからは、そうした期待と現実的な課題の双方が見えてきた。
「クリーンテックは衰退ではなく成熟の過程にある」──Summer Bae氏のこの言葉は、現在のマクロ環境に対する一つの解答であるように思う。クリーンテックを取り巻く文脈は「クライメート」から「セキュリティ」へとシフトし、AI需要の急増がエネルギーインフラの再構築を迫っている。
こうした構造変化の中で、日本の核融合スタートアップ各社が掲げる「2030年代の発電実証」という目標は、決して遠い未来の話ではない。イベントで久保氏が語ったように、今の核融合が15年ほど前の宇宙産業の状況と酷似しているのなら、産業の地殻変動はおそらく我々が思うよりも早く訪れる。
核融合という、かつては「夢のエネルギー」と呼ばれた領域に、日本から世界水準の挑戦者が複数登場している事実は、もっと注目されてよいだろう。問われているのは、彼らをどう支え、社会実装まで届けるかという、エコシステム全体の力であると感じる。投資家として、事業会社として、あるいは一人の生活者として、この転換期にどう関わるか──その問いを各々が持ち帰る機会として、本イベントは意義深いものだったと感じている。
ケップルでは引き続き、クライメートテック領域の動向を追いかけ、スタートアップと投資家・事業会社の接続を支援していきたい。
※本記事は以上です。
当日のセミナーでは、各社の技術開発ロードマップ、資金調達、投資家との向き合い方、実用化に向けた課題について、さらに踏み込んだ議論が行われました。53ページにわたるセミナーの詳細レポートは、クライメートテック・コンソーシアムの会員向けに配信しております。 加入申請(無料)はこちらから。
Writer
KEPPLE編集部
2025年11月にKEPPLEメディアに参画。スタートアップへのインタビューや、イベント取材、コンテンツ企画などを担当する。
取材依頼はこちらから:https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSefZEkWLwlxrs0CMLt0GJl9bRZoqebYPjqfm_uAfy41R2SgqQ/viewform
スタートアップエコシステムを可視化するメディア「KEPPLE」:https://kepple.co.jp/
スタートアップの資金調達情報を漏れなくキャッチアップしたい方へ。
1週間分の資金調達情報を毎週お届けします。
※登録することでプライバシーポリシーに同意したものとします
※配信はいつでも停止できます