建設用3Dプリンタメーカーの株式会社Polyuse(ポリウス)がプレシリーズAラウンドにて、第三者割当増資による7.1億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、ユニバーサルマテリアルズインキュベーター、SBIインベストメント、Emellience Partners、Coral Capital、池森ベンチャーサポート、吉村建設工業の6社。
今回の資金調達により、3Dプリンタの生産体制を拡充し、建設業界の人手不足解消や老朽化するインフラへの技術適用を加速化する。
国土交通省のインフラ工事採択から全国区へ
Polyuseは、自社で研究開発した建設業界向け3Dプリンタを製造・販売する。ハードウェアだけでなく、周辺システムなどのソフトウェア、サービスまで提供する国内メーカーだ。
Polyuse社提供
同社は主に、土木工事において3Dプリンタを活用することでDXを推進。施工の効率化や、人数をかけない工事といった施工DX領域で事業を展開している。
2022年1月には、初めて国土交通省のインフラ工事に採択され、同社の事例は3Dプリンタによる施工として、土木・建築共に全国的に広めることになった。2022年度の施工数は、現在進行中も含めて30件あまりに上る。
今回の資金調達に際して、代表取締役 岩本 卓也氏、同・大岡 航氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
人とテクノロジーが共存した施工へ
―― これまで、建設業界にはどのような課題がありましたか?
大岡氏:建設業界は慢性的な人材不足が続いています。高齢化も相まって、建設業界における55歳以上の割合は全体の43%を占めています。建設の現場で作業している技能労働者は、この先2年で50〜100万人ほど不足すると言われています。さらに、建設業界では1人あたりの業務量が多く、全産業の平均年間出勤日数に比べて26.9日も長い。
Polyuse社提供
また、建設業界は専門性の高い職種に細分化されているため、それぞれの技術継承には時間とコストがかかります。また、3K(きつい、汚い、危険)というイメージも未だにあってか、若者の流入が減り、建設業界は高齢化する一方です。
そこへ追い討ちをかけるように、日本では社会インフラの老朽化が進んでいます。それによる災害も懸念される中、インフラの危機国家として施工自体の効率化を進める必要性があるのです。そうした中で、建設用3DプリンタがICT建機の軸として、課題の解決策になるのではないかと考え、事業を進めています。
―― 建設用3Dプリンタ事業を始めようと思ったきっかけを教えてください。
大岡氏:創業当初は、住宅を中心とした建築における3Dプリンタ活用に取り組むつもりでした。各所へのヒアリングの際に、当社の株主で建設用3Dプリンタ施工における業界のトップランナーでもある、京都の吉村建設工業様から、「建築だけでなく、顕在化した課題の多い土木領域にも、3Dプリンタが活躍できる未来があるのでは?」と問いかけられました。私たちの専門ではありませんでしたが、土木の世界の課題解決で社会にインパクトを与えられる可能性があるのなら、チャレンジしてみようと思ったのがきっかけです。
―― 御社の取り組みは、業界課題にどのような影響を与えますか。
大岡氏:最大のポイントは、人とテクノロジーが共存した施工の実現です。私たちは、3Dプリンタによって施工を省人化し、理想的なコストで簡単にコンクリート構造物を作り出せる世の中にすることに寄与できると考えています。
今まで費やしていたコストや人材のリソースは、企画や設計といった上流工程での要件定義に充てることが可能になります。また施工現場では、3Dプリンタで現場に最適化したコンクリート構造物を製造するだけでなく、将来的には無人ショベルカーやトラックなどの重機と連携できる可能性があります。最低限の人数で工事を進めることで、それを管理する人だけがいればよい世界になるでしょう。アメリカや中国では、こうしたケースも実証実験を含め進んでいます。
生産体制の強化と「デジタル職人」の育成を目指す
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
大岡氏:2023年度は、3Dプリンタの可能性を追求し、ユースケースを増やしていきます。将来的に、3Dプリンタの活用で得られる施工データを、国交省が推進しているBIM/CIM※と紐付けることには、大きな可能性があります。
そこで、今回の資金を利用して、3Dプリンタによる施工の最適化に取り組みます。具体的には、更なる研究開発や3Dプリンタ施工データの蓄積、生産体制の拡充、専門チームの強化など、人・場所・研究に対して追加投資を行います。近い将来には、完全無人化も視野に入れています。
※ BIM/CIM:一連の建設工程に3Dモデルを導入して、建設生産・管理システムの効率化や高度化を図るもの。
また、採用については、現在18名のエンジニアサイドのメンバーを倍にする計画です。当社全体では、来期末をめどに、今の20数名から40名ほどまで増やそうと考えています。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
岩本氏:来年度は「環境整備」をテーマに、ベストなユースケースやBIM/CIMとフィットする構造物などを、環境面から整備します。それ以降は、当社の3Dプリンタ及びシステムを活用したお客様のモデルケースを作成し、量産化に進めると思っています。それと並行して、土木分野では施工評価や品質管理の整備、建築分野では建築基準法に則ったガイドラインの整備も行います。
また、土木領域での価格決定を、従来の単品比較ではなく、3Dプリンタのメリットである扱いやすさや短期施工を基にした総合評価の仕組みに変える必要があります。新しい技術の導入を始め、総合的によいものを使えるようにする環境整備にも来年度から着手します。
中長期的には、量産したマシンが全国各地に普及したら、日本の構造物や施工方法のデータを海外に持ち込みたいですね。どんな環境でもデータがあれば施工できるのも3Dプリンタのメリットです。すでに数件の問い合わせがあり、検討を始めています。
大岡氏:私たちに限らず、今、産官学の連携が全国で起きています。目指したいのは大学との共同研究だけでなく、既存の技術に加えてテクノロジーも理解した「デジタル職人」を生み出すこと。今後、業界において「デジタル職人」は重要なポジションを担っていくでしょう。
10〜20年後に建設業に従事するであろう今の若者や子どもたちが、インフラや建築に携わってキャリアを築くために、今学ぶべきことは何なのか。それが既存の技術や建築の知識だけでなく、3Dプリンタや新しい技術である可能性は十分にあります。そこで来期からは“学”との連携も増やしたいと考え、授業やフィールドワークなどを通じて、将来の「デジタル職人」の教育面を担う取り組みを計画中です。
株式会社Polyuse
株式会社Polyuseは、建設用3Dプリンターを開発する企業。 同社は、集水桝や側溝・小型擁壁などの土木構造物を制作する3Dプリンターを開発。従来は型枠を用意する職人や、それにコンクリートを流し込む職人など、複数の人手が関わっていた。3Dプリンターが代替すれば、建築現場の人手不足の解決につながる。
代表者名 | 大岡航, 岩本卓也 |
設立日 | 2019年6月27日 |
住所 | 東京都港区浜松町2丁目2番15号 |