HITOTSU株式会社

医療現場と企業間のコミュニケーション効率化を目指すHITOTSU株式会社が、シリーズA2ラウンドで総額1.1億円の資金調達を実施した。
HITOTSUは2020年3月に設立。医療機関や関連企業向けに、チャット機能を核としたコミュニケーションプラットフォーム「Link」や、医療機器・資産管理システム「HITOTSU Asset」などのSaaSを開発・提供している。医療業界では、院内外のやり取りが依然として対面・電話・メールなどに依存しており、情報伝達の非効率さやコミュニケーションコストが現場の大きな課題となっている。HITOTSUはこうした状況に着目し、テクノロジーによる業務効率化と連携精度の向上に取り組んでいる。
Linkは、医療機関と外部企業の間でトピックごとにチャットルームを作成し、テキスト・ファイル・画像・動画を一元管理できるサービスだ。従来の口頭伝達や個別ツールの利用に起因する伝達ミスや情報の属人化、紙書類の管理負担、私的チャットアプリの業務利用といった課題を解消する設計となっている。また、ISMS認証を取得し、医療情報の取り扱いに関する国際基準および国内ガイドラインにも準拠することで、情報セキュリティへの対応を強化している。医療機関はユーザー数50名まで無償で利用でき、有償プランも用意されている。企業側は初回3カ月間の無償利用後に段階的な有償接続へ移行する仕組みとなっている。
看護ステーションまで幅広く拡大しており、2025年7月時点で250を超える医療機関と110社以上の企業が利用しているという。導入現場からは、業者との連絡のすれ違い削減や申し送り・トラブル管理の一元化といった具体的な業務改善効果が報告されている。今後は、院内での利用にとどまらず、災害時の病院間連携や、企業と複数医療機関をまたぐ情報共有への活用も想定されている。
経営体制は、代表取締役社長CEOの佐藤公彦氏、創業者で取締役会長の田村光希氏(臨床工学技士)、CTOの宮知秀氏が中心となっている。佐藤氏は保険業界やコンサルティング、バイオベンチャーでの経歴を持ち、2022年からHITOTSUに参画。田村氏は医療現場での機器管理経験をもとに2020年に会社を創業した。宮知氏は金融や通信分野でのシステム開発やDX推進を経験し、セキュリティ対応にも強みを持つ。
医療業界全体の背景として、日本の医療機関の約7割が赤字運営とされており、経営改善や業務効率化は社会的な課題となっている。2023 年度に医療機関の休廃業・解散件数が過去最多(709件)となり、2024年はそれを上回った。現場の生産性向上や業務フローのデジタル化への要請が高まっている。コミュニケーション領域ではDX導入の遅れが指摘されており、私用アプリの業務利用やアナログ運用のままの施設も依然として多い。競合としては、院内限定のグループウェアや一般的なビジネスチャットツールなどが存在するが、HITOTSUのように医療現場の規制やセキュリティ要件、院外連携を前提とした一元的な対応を目指す企業は少数にとどまる。
今回の資金調達ラウンドでは、既存株主のBeyond Next Ventures、Angel Bridge、Spiral Capitalに加え、医療ヘルスケア領域のSaaSを展開するメドレーが新たに参加した。J-KISS型新株予約権発行による資金調達で、総額1.1億円を確保。
調達資金は、病院および取引企業の効率性を上げるためのさらなる機能拡充、および、モデル病院施設数拡大のための営業・マーケティング施策に活用する方針だ。
モデル病院プロジェクトは2025年3月から本格展開予定で、すでに4施設・2500名規模の共同プロジェクトが進行している。HITOTSUのプロダクトを横断的に活用し、経営改善や業務変革の成果を検証する取り組みとなっている。導入ユーザーからは、医療安全や情報管理、残業時間の削減、ペーパーレス推進など、複合的な業務改善効果が報告されている。
HITOTSUは、病院と企業間のコミュニケーション標準化の実現と、オールインワン型業務プロセスのデジタル化を進めている。250施設を超える導入実績をもとに、さらなる機能拡充と利用範囲の拡大に取り組む姿勢を示している。