CAR-T細胞療法のA-SEEDS、シリーズAで23.8億円を調達──臨床と海外展開を本格化

CAR-T細胞療法のA-SEEDS、シリーズAで23.8億円を調達──臨床と海外展開を本格化

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がん治療向けのCAR-T細胞療法を開発する株式会社A-SEEDSは、シリーズAラウンドで23.8億円の資金調達を実施した。調達ラウンドにはデライト・ベンチャーズ、みずほキャピタルがリード投資家として参画し、東京ウェルネスインパクトファンド、大阪大学ベンチャーキャピタルをはじめとする複数のベンチャーキャピタル、商社、大学系ファンドが出資した。加えて、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のディープテック・スタートアップ支援事業による助成金も活用された。

A-SEEDSは2020年4月に設立されたバイオベンチャーで、主にCAR-T細胞製品の研究開発および臨床実装を進めている。CAR-T細胞療法は、患者自身のT細胞を遺伝子改変し、がん細胞を認識する能力を持たせて増殖させ、再び患者に投与する治療法だ。現在、白血病など一部の血液がんに対する承認事例があり、今後は固形がんへの応用が国際的な課題となっている。

同社は信州大学発のスタートアップであり、信州大学および国立がん研究センター東病院と共同で2つの医師主導治験を進めている。これらの治験は第1相段階にあり、主な対象疾患は固形がんや骨髄系腫瘍である。A-SEEDSが採用する遺伝子導入法「PB法」は、ウイルスベクターを用いない手法で、高い薬効と安全性、加えて製造効率の向上を目指している。同社によると、この手法は製造コスト抑制や臨床実装までのスピード短縮にも寄与しているという。

代表取締役の柳生茂希氏は、CAR-T細胞療法の研究開発で国内外から評価を受けてきた人物である。A-SEEDSは、柳生氏が信州大学医学部の中沢洋三教授と協働して設立した経緯を持つ。中沢氏は現在も共同創業者として経営および研究開発を支援している。両氏は、治療選択肢が限られる難治性がんの患者に新たな治療法を届けることを目的に、非ウイルス型かつ国産のCAR-T細胞製品の実用化を目指している。

柳生氏は、「この資金調達は、私たちのミッションである『いまだ治療法の少ないがん患者さんに有効な治療を届け、一人でも多くの人々が、生きる希望を見出す事ができる社会の実現を目指す』ことを実現するための大きな一歩です。私たちは引き続き、がんに立ち向かう世界中の患者さんとそのご家族に希望を届けるべく、挑戦を続けてまいります。」とコメントしている。(一部抜粋)

細胞・遺伝子治療(Cell and Gene Therapy: CGT)領域全体では、近年世界的な市場拡大が続く。英国の市場調査会社GlobalDataの推計によれば、グローバルCGT市場は2022年に186億ドルを超え、2030年には930億ドル規模に成長すると見込まれている。日本でも2020年代に入り、ベンチャーキャピタルや官民ファンドによるバイオスタートアップへの投資が増加傾向にある。しかし、特に固形がんを対象とした治療法の開発には高い技術的障壁や資金調達コストが伴うのが実情だ。

A-SEEDSの主な競合には、ノバルティス、ギリアド・サイエンシズ、武田薬品など大手製薬企業が並ぶほか、海外バイオベンチャーも積極的に同領域へ参入している。従来のCAR-T製品の多くが血液がんを適応疾患としている中、固形がんへの展開や国産技術の商業化、製造コスト削減などを掲げるプレイヤーは限られている。こうした背景から、A-SEEDSの臨床開発やパートナーシップ戦略には業界内でも高い関心が寄せられている。

今回の資金調達により、A-SEEDSは主力製品である「ACS2015」(EPHB4を標的としたCAR-T細胞)のオーストラリアにおける企業治験(CARTiEr E312試験)を本格化させる方針を示している。CDMO(医薬品製造受託機関)への技術移管が進み、現地治験中核病院との協議も最終段階に入った。日本発のバイオベンチャーによる海外治験の推進は、今後のグローバル展開戦略において重要な位置付けとなることが予想されている。

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