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ヒューマンライフコード株式会社は、臍帯(へその緒)由来の間葉系間質細胞(UC-MSCs)を活用した再生医療等製品の開発を手がけるバイオスタートアップだ。
お産の後に残される臍帯、いわゆる「へその緒」。同社はこの組織を「持続可能な医療資源」と捉え、難治性疾患に対する新たな治療選択肢をつくるだけでなく、サルコペニアや糖尿病合併症など、加齢や生活習慣に伴う疾患にも応用の可能性を広げようとしている。
東京大学医科学研究所との協業のもと、GMP※1準拠の細胞製造施設「IMSUT-HLC CPF」において、臨床グレードのUC-MSC製品「HLC-001」の製造体制を構築。現在、同製品は造血幹細胞移植後の非感染性肺合併症(NIPCs)を対象に、第Ⅲ相臨床試験が進められているという。
同社は、日本にとどまらず、米国やUAEにも製造・事業展開の足場を築こうとしている。臍帯を起点に、細胞治療を世界中の患者に届ける「グローバルエコシステム」はどのように構築されるのか。製薬企業での研究開発・マネジメント経験を経て同社に参画した取締役兼執行役員最高執行責任者(COO)の松下信利氏に聞いた。
※1 GMP:Good Manufacturing Practiceの略。医薬品・医薬部外品の製造管理および品質管理に関する基準であり、製造所がGMPに適合していることは、医薬品の製造販売承認における重要な要件となる。
──御社の事業内容について教えてください。
松下氏:私たちは、出産時に得られる臍帯(へその緒)から取れる間葉系間質細胞、「UC-MSCs」を使った細胞治療を、患者さんに届ける事業を行っています。
間葉系間質細胞には、大きく2つの作用があります。1つは免疫を抑制して炎症を抑える作用。もう1つは、炎症によって傷害を受けた組織を修復する作用です。多くの疾患では炎症が関与しますが、UC-MSCsはその炎症を抑え、炎症によって生じた組織傷害の修復にも関わると考えられています。
世界中の論文では肺、肝臓、自己免疫疾患、皮膚・創傷、糖尿病、疼痛、関節領域など、幅広い疾患領域で有効性のシグナルが報告されています。ただし、エビデンスをもって実用化された製品は片手で数えても余るほど限られているのが現状です。安定した品質の細胞を再現性をもって大量に供給できる製造技術の確立が研究開発のボトルネックであったと思います。このボトルネックを突破することで研究開発を進めています。
──細胞のソースとして臍帯に着目した理由を教えてください。
間葉系間質細胞のソースは、主に骨髄、脂肪、臍帯の3つです。
骨髄や脂肪は、18歳から45歳程度の成人ドナーから採取されます。骨髄の場合は、太い注射針を骨に刺して吸引する必要があり、ドナーに痛みを伴います。日本では原料の多くを輸入に頼っているのが現状です。脂肪についても、外科的に採取した組織を使うため、やはりドナーへの侵襲があります。
一方、臍帯は出産時に得られる周産期産物のひとつです。臍帯は100%赤ちゃん由来の組織であり、出産後に提供いただくため、お母さんにも赤ちゃんにも負担や痛みを与えることがありません。さらにドナー年齢が必ず0歳であるため細胞の性質にばらつきが少なく、品質を安定させやすいという特徴があります。加えて、若い細胞であるため増殖能力が高く、大量培養にも適しています。そのため、骨髄や脂肪由来の細胞に比べて、安定した品質の細胞を効率的に製造することが可能になります。
また、出産がある限り臍帯は継続的に得られるため、原料の安定供給という面でも大きな利点があります。だからこそ、私たちは臍帯を「持続可能な医療資源」と位置づけています。

──東京大学医科学研究所との協業体制について教えてください。
私たちの技術の原点は、東京大学医科学研究所(IMSUT)にあります。IMSUTとの協業により、人に投与できる臨床グレードのUC-MSC製品を製造できる体制を構築してきました。
IMSUT内には、当社が投資して設立したGMP準拠の細胞製造施設「IMSUT-HLC CPF」があり、国立大学としては初の再生医療等製品製造業許可を取得しています。原料となる臍帯は、同研究所内の臍帯血・臍帯バンク「IMSUT CORD」で確保・備蓄しています。
──収益モデルについてはいかがでしょうか。
大きく2つあります。1つ目は、ライセンス収入です。HLC-001については、国内で持田製薬と共同事業化契約を締結しており、同契約に基づく収入が見込まれます。また、製品が市場に出れば、販売額に応じたロイヤリティ収入も発生します。
2つ目は、細胞製品の販売収入です。自社で製造・販売する場合には、その製品販売が収益源となります。展開地域やパートナーの有無に応じて、ライセンス収入と製品販売収入を組み合わせながら、事業化を進めていく考えです。
──造血幹細胞移植後の非感染性肺合併症(NIPCs)とは、どのような病気なのでしょうか。また、既存の治療法には、どのような限界があるのでしょうか。
まず、造血幹細胞移植は、白血病などの血液のがんや難治性の血液疾患に対して行われる治療法です。患者さん自身またはドナー(提供者)から採取した造血幹細胞(血液を作るもとになる細胞)を移植することで、正常な血液を作る機能を回復させます。
しかし、移植後にさまざまな合併症が起こることがあります。そのひとつが、非感染性肺合併症(NIPCs:Non-Infectious Pulmonary Complications)です。細菌やウイルスなどの感染によるものではなく、放射線・化学療法によるダメージや、移植後の免疫反応の乱れなどを原因として、肺に炎症や障害が生じる状態を指します。
私たちは臍帯由来の細胞製品「HLC-001」を開発しており、造血幹細胞移植後の非感染性肺合併症(NIPCs)を対象に第Ⅲ相臨床試験を実施中です。
NIPCsの標準治療はステロイドですが、ステロイドが効かない患者さん、いわゆるステロイド抵抗性NIPCsに対しては、現状ほとんど治療選択肢がありません。国内臨床研究では、ステロイド抵抗性となった患者さんの100日後生存率は27.6%と報告されています※2。つまり、約7割の患者さんが100日以内に亡くなる、極めて重篤な疾患です。
NIPCsでは肺の機能が大きく損なわれ、呼吸が困難になるため、人工呼吸器の装着が必要になることもあります。そうした中、第Ⅱ相試験では、HLC-001を投与した患者さんの100日後生存率が71.4%まで改善しました。また、人工呼吸器の必要性、酸素投与量、ステロイド投与量の低下といった有効性を示唆するシグナルも確認されています。血中酸素濃度のモニタリングにおいても改善が見られました※3。
この成績を踏まえ、2025年8月に厚生労働省から「希少疾病用再生医療等製品」の指定を受けました。現在は、持田製薬との共同事業化契約のもと、無作為化プラセボ対照の第Ⅲ相試験を進めています。
※2 Fujii et al.,日本造血・免疫細胞療法学会雑誌, 2026
※3 Doki N, et al. Int J Hematol. 2025;122(5):733–743

──NIPCs以外への技術応用も進めていらっしゃいますか。
NIPCs以外にも、複数のパイプラインが進んでいます。

まず、造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病(aGVHD)については、医師主導治験として第Ⅰ相試験が完了しています。
また、新型コロナウイルス感染症に伴う急性呼吸窮迫症候群(COVID-19 ARDS)についても、第Ⅰ相試験を完了しました。こちらは現在休止中ですが、万が一再びパンデミックが起こった際には、開発を再開できる体制を整えています。
そして、老化関連疾患であるサルコペニア※4への応用にも取り組んでいます。名古屋大学との共同研究により、動物モデルにおけるUC-MSCsの有効性を支持する結果が得られており、治療用途特許を日本で取得しました。今後サルコぺニアでの臨床試験を進めるため、ブラジルのリオ・グランデ・ド・スール連邦大学と疾患特異的バイオマーカー探索のための臨床研究を実施し、複数のバイオマーカーを特定しております。
次の臨床開発の対象疾患と位置づけているのが、新生児慢性肺疾患(CLD)です。CLDは、超早産児の肺に起こる合併症です。臓器がまだ十分に成熟していない段階で生まれてくるため、肺に炎症や障害が生じて肺の成長が阻害され、慢性的な呼吸機能の低下が起こり、学童期くらいまで肺機能に影響が残ることがあります。その結果、同年代の子どもたちと同じように遊ぶことが難しくなるなど、長期にわたって生活に影響を及ぼします。極めてアンメットメディカルニーズの高い領域であり、現在は試験デザインについてPMDAと相談を進めています。
さらに自己免疫疾患領域では、東京科学大学との共同研究において、複数の病態モデルで非臨床PoCを達成しています。現在、同大学の先生方主導の臨床試験が計画されています。
※4 サルコペニア:加齢により筋肉量が減少する疾患。高齢者のサルコペニア有病率は、定義や研究によって異なるものの、世界的に10-15%程度と言われている。健康寿命に深く関連する。
──中長期的な展開について伺えますか。
市場特性が異なる2つの市場アプローチを並行して進めるDual Track戦略により、早期収益化とグローバル展開を目指しています。
日本、米国、EUでは、ICH基準※5に基づくプロセスに従って臨床試験で製品の有用性を検証した後、市場参入するアプローチを取ります。フェーズ1からフェーズ3まで段階的に臨床試験を進め、薬事承認を取得したうえで製品として提供する、いわば王道の医薬品開発です。これらの地域では、治療選択肢が限られた疾患、いわゆる希少・難治性疾患「Rare Diseases」の治療を主軸に据えています。
私自身、かつてグローバル製薬企業に在籍していましたが、メガファーマでもなかなか取り組みにくい希少かつ致命的な疾患こそ、私たちの細胞治療が力を発揮できる領域だと考えています。
一方、先進医療の早期市場導入が可能なUAE等の地域では、まず市場に早く届け、リアルワールドでの治療経験とデータを積み上げてエビデンスを確立するアプローチを取ります。ここでは、糖尿病合併症やサルコペニアといった、患者数が年々増え続け、社会的課題にもなっている、いわゆる患者数の多い疾患「Common Diseases」を対象にしています。UAEのように、先進医療の早期社会実装をめざすサウジアラビアや東南アジア諸国でも、同様のアプローチが可能だと見ています。
※5 ICH基準(ICHガイドライン):日・米・EUの規制当局と製薬業界が協力して定める、医薬品の開発・審査・製造における国際的な共通基準。国際的な臨床試験データの相互利用を可能にし、開発期間の短縮と高品質な医薬品の早期提供を目的としている。
──二つの市場アプローチは、どのように連動するのでしょうか。
「エビデンスの循環」を起こしたいと考えています。UAEのように先進医療を早期に市場導入できる地域で、大規模にリアルワールドデータを蓄積し、そのデータを日本や米国での臨床開発に活用していく考え方です。
ICH地域で製品を市場に出すには、薬事申請に向けた臨床試験の実施が必要になります。ただ、リアルワールドデータが蓄積されていれば、試験規模を縮小したり、試験数を減らしたりできる可能性があります。結果として、より短期間で患者さんに製品を届けられるようになります。
また、ICH地域では共通の指針とルールの下で開発を行うため、そこで構築されたエビデンスは、新興国においても高く評価されます。
地域ごとの特性を活かして役割分担し、エビデンスを相互に循環させる。これが、私たちのグローバル戦略の本質です。
今後は、対象疾患の拡大と地理的拡大の2軸で、事業を大きくしていきます。
──米国ではどのような取り組みを進められていますか。
米国での製造基盤構築に向けて、すでにNew York Blood Center Enterprises(NYBCe)とMOUを締結しています。正式な製造契約の締結に向けた協議を進める段階です。
米国拠点は、日米連携によって製品の製法や規格を世界標準化していくうえで、重要な役割を担います。
──UAEでの展開については。
UAEとは、約2年前からコラボレーションを進めてきました。
UAEでは、経済成長に伴う生活の欧米化を背景に、高齢化、肥満や生活習慣病が大きな社会課題となっています※6。サルコペニアや糖尿病合併症をはじめとする慢性疾患への対応として、先進的な医療、とりわけ細胞治療を国家レベルで推進しようという、国策による追い風があります。
一方で、現地には安定した品質の細胞製品が十分にないという課題がありました。日本の薬機法という厳格な規制のもとで第Ⅲ相試験まで開発を進めている当社の細胞製品が高く評価された背景には、まさにこうした課題があります。
2026年5月には、Abu Dhabi Biobankとの戦略的パートナーシップの構築に関する契約を締結しました。調印式には、グローバルヘルスケアリーダーであるM42 HealthのCOOに加え、アブダビ保健局(DoH)のExecutive Directorも立ち会いました。これは、私たちの技術が国家レベルのイニシアチブに組み込まれていることを示す出席陣だと受け止めています。
※6 UAE Ministry of Health and Prevention, National Health Survey 2017–2018

──最後に、グローバル展開の先に実現したい世界を聞かせてください。
私たちの企業理念は「つなぐ命のきずな、つながる未来」です。へその緒から得られる細胞で、2つの治療を提供したいと考えています。
1つは「命を救う治療」です。NIPCsのように治療選択肢のない希少・難治性疾患や、新生児疾患の患者さんに、まず命をつなぐ手段を届けたい。
もう1つは「命の質を高める治療」です。寿命が延びるなかで、人生の後半をいかにハッピーに過ごすかは大きな社会課題になっています。サルコペニアや生活習慣病など、加齢に伴う疾患に対して、QOLを高める治療を提供できることが目標です。
どこに生まれても、どの年齢でも、必要な人に必要なだけ細胞治療を届けられる世界。それが、私たちが描く未来です。
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