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企業と行政をつなぐLobbyAI、4000万円の資金調達でサービス開発を加速

LobbyAI株式会社は、自治体営業・政策渉外のDXを推進するスタートアップだ。同社が提供する公共情報分析ツール「LobbyLocal(ロビーローカル)」は、自治体の議事録、予算、計画書、入札情報などの膨大な公開情報をAIで解析し、企業が「今、どの自治体に、どのような提案をすべきか」をリアルタイムで提供する。「すべての企業が制度・補助金を使いこなす時代」の実現を目指し、2025年6月16日に正式ローンチした。
代表取締役CEOの髙橋京太郎氏は元衆議院議員秘書、執行役員CTOの石川聡氏はAI分野の専門家としてKaggle(データサイエンス競技プラットフォーム)で20万人中2500位の成績を持つ。そして顧問の山本氏は元大手新聞社政治部記者・現ロビイスト(政策渉外の専門家)という、政治・技術・渉外の専門知識を持つチームが立ち上げた企業だ。
ローンチ2週間で大手エンタープライズとの初契約を獲得し、1ヶ月目で14社と契約、平均顧客単価は月額15万円となっている。売上面では、リリース1ヶ月目で200万円弱、3ヶ月目で500万円を達成し、年内には年間ARR1億円超の達成を見込んでいる。
今回は代表取締役CEOの髙橋氏に、事業内容や創業の背景、そして今後の展望について話を伺った。
――御社の取り組む事業について教えてください。
髙橋氏: 私たちは、ビジネスに必要なあらゆる行政、政治の情報をAIの力で可視化するスタートアップです。分かりやすく他社のサービスで例えるならば、公共情報版のセールスフォース、スピーダといったところでしょうか。
既に多くのお客様にご期待いただいている状況で、契約企業は事業会社、インフラ系企業、外資系企業、内資企業、コンサルファームなど、多様な領域にわたっております。私たちの対象とする市場規模は2.4兆円と定義しており、この市場に対してアプローチしていくことで、ユニコーンになれると確信しています。
LobbyLocalの核となる価値は、商談・規制に関するシグナルをAIが抽出し通知することですね。具体的には、全自治体の議事録データと地域統計データを組み合わせた横断検索、予兆検知、リアルタイム通知により、企業が取るべきアクションのタイミングを明確に把握できます。
例えば「ポケモン」というキーワードで検索すると、全国の自治体で地方創生や教育分野でのゲーミフィケーション活用について議論されていることが分かります。従来は、どの自治体でいつ議論が活発化するかを企業が把握することは困難でしたが、私たちのシステムでは、こうした議論の動向を地域統計データと組み合わせて解析し、企業にとって最適なアプローチタイミングを通知することができるんです。
また、各自治体の政策意図を365日監視し通知しています。スポットワーク関連のサービスを展開する企業の場合、「スポットワーク」「スポットワーカー」といったキーワードが議事録に登場した瞬間に通知を行い、さらに発言者の特定や発言の前向き度合いの分析まで提供可能です。
これらの機能を支える技術的強みが、非構造化データの構造化技術になります。多くの自治体では議事録や政策資料がPDFやExcelファイルなど、バラバラな形式で公開されており、私たちはこれらを統一的な構造化データベースに変換する独自技術を開発しました。
データ収集においても、各議会の開会・閉会スケジュールに合わせた効率的な差分取得システムを構築し、全自治体サイトへの負荷を最小化しています。この技術を持つ企業は現在ほとんど存在せず、当社の競争優位性の源泉となっています。
結果として、営業先の選定精度向上とチャンスの取りこぼし防止、そして提案に必要な説得材料の提供が実現されます。従来は月36時間を要していた商談準備を週1時間まで短縮し、これまで参入が困難だった企業の市場参入も支援していきます。
――自治体営業が抱えている課題について教えてください。
自治体営業における最大の課題は、適切なタイミングでの情報不足ですね。現在の行政情報はDX化が遅れており、企業が必要とする政策動向や規制変更の情報を効率的に収集することができません。その結果、商談の最適なタイミングを逃したり、規制変更への対応が後手に回ってしまうという問題が発生しています。
この課題の重要性を示す分かりやすい対比例が、電動キックボードとライドシェアの規制対応です。電動キックボードは、規制緩和に向けて適切なステークホルダーに効果的なタイミングでアプローチした結果、ルール変更を実現し、市場での先行者利益を獲得することができました。
一方でライドシェアは、初期段階でのアプローチ戦略に課題があったため、現在でも全面解禁に至っておらず、事業展開に大きな制約を受け続けています。このように、政策動向の正確な把握と適切なタイミングでの行動が、事業の成功を大きく左右するのです。
――具体的な導入・活用事例について教えてください。
2件の事例をご紹介いたします。1つ目は、車載LEDサイネージ事業を手がける企業の事例です。個人の自家用車にLEDサイネージを取り付けて、その代わりに広告費をお支払いするビジネスモデルを展開しています。この企業は、車両にサイネージを搭載して走行することが各自治体の景観条例に抵触する可能性があるという課題を抱えていました。
実際に現行法では規制対象となりますが、規制緩和に向けたロードマップを明確にしなければ資金調達も困難になります。そこで私たちは40年分の都議会議事録を分析し、関連する議論の経緯とステークホルダーを特定しました。その結果、適切なアプローチ先を洗い出し、議員を通じて行政担当者から正式な回答を48時間で取得することができました。
2つ目は北海道電力との共同開発事例です。同社が環境省や経済産業省に提出する環境規制報告書の作成において、私たちの公文書データと北海道電力の社内データを連携させたチャットボットを開発。これにより、複雑な規制要件への対応業務を効率化し、社内DXを実現できました。
こうした成果を生み出すため、私たちは導入時のサポートを重視しています。まず通知タグの設定から始め、クライアント企業のサービスがどのような社会課題を解決するかをヒアリングし、関連キーワードやタグを設定して該当する議論や動向を通知する仕組みを構築します。
1週間程度で企業は効果を実感できます。自社のサービス領域に関する議論がどの程度の自治体で行われているか、公共領域でのニーズの高さを数値で確認することが可能です。初期のタグ設計の精度がその後の成果を左右するため、丁寧なヒアリングを心がけています。
――従来型の手法と比較したときの最大の差別化ポイントは何でしょうか。
最大の差別化要因は3つあります。
1つ目は技術による効率化です。従来は公共情報の収集に多大なコストと労力が必要でしたが、私たちはAI技術によってこれを大幅に効率化し、低コストでの情報取得を実現しています。
2つ目は議会発言の意図を正確に読み解く独自のナレッジです。例えば議会で「前向きに検討しています」と発言された場合、実際には検討が行われていないことを意味します。一方、本当に検討が進む際の発言パターンも把握しており、これらをスコアリング化することで審議の真の進捗度を可視化できます。
3つ目は幅広い政策ニーズへの対応力です。私たちは「守りのロビング」と「攻めのロビング」の両方をカバーしています。守りのロビングとは既存産業を保護するための規制対応、攻めのロビングとは規制緩和や実証実験による新市場創出を指します。この両面に対応することで、従来のルールメイキングやパブリックリレーション企業よりも広範囲な市場をカバーできます。
――創業のきっかけについて教えてください。
学生時代の選挙手伝いから政治に興味を持ち、議員秘書として永田町で働く経験を積みました。そこで痛感したのは、企業と行政の間にある深刻な情報格差です。
議員事務所には「この補助金制度は自社に適用されるのか」「この規制の運用状況はどうなっているのか」といった問い合わせが多数寄せられます。しかし議員が直接回答することはできず、行政担当者への問い合わせを経て回答をお返しするという非効率なプロセスが常態化していました。
この仕組みでは限られた企業や個人しか情報にアクセスできません。「制度は存在するのに届かない、届いても活用できない」という現実を目の当たりにし、優れた技術やサービスが行政の壁で止まってしまう社会的損失の大きさを実感しました。すべての企業が制度を活用できる環境を作りたいと考えたのが起業の動機です。
創業においては、同じ課題意識を持つ仲間の存在が決定的でした。経営企画の神谷をはじめ、秘書時代の複数の仲間が参画しており、全員が情報格差の問題を共有していました。
さらに事前ヒアリングでサービスニーズを確信し、プロダクト開発前にピッチ資料のみで資金調達を実現できたことで、課題の切実さと解決策の必要性を確信しました。
――今後の資金調達や事業連携について教えてください。
現在、次回の資金調達を進めており、この秋にシリーズA規模の大型調達を目標としています。
今回の調達では、それぞれのVCが持つシナジーを活用したいと考えています。具体的には、大企業がLP出資しているVC、外資系企業の出資を受けるVC、SaaSビジネスの成長支援に長けたVC、そして公共分野でのネットワークを持つ地銀系VCなどとの連携により、多面的な支援体制を構築する予定です。
事業連携の観点では、特にインフラ、エネルギー、鉄道業界との協力を重視しています。これらの業界は自治体との関係が深く、DX推進や行政対応業務を多数抱えているため、私たちのソリューションによる業務効率化のメリットが大きいと考えています。こうした連携を通じて、社会インフラの質的向上にも貢献したいと思います。
――中長期的なビジョンについて教えてください。
まず、SaaS事業として1000社への導入を目標としております。国と自治体の両方の政策情報を提供し、規制に阻まれているスタートアップに対して継続的なコンサルティングを行っていきます。具体的には、事業の障壁となる規制の特定から、緩和に向けた政策提案、関係者へのアプローチまでを長期的にサポートすることで、ユニコーン企業の創出に貢献したいと考えています。
収益モデルの拡張としては、マッチングプラットフォームへの発展を構想しているところです。自治体や議員も私たちのサービスを議会対応や答弁書作成、政務調査に活用しており、実際にお問い合わせもいただいております。自治体、民間企業、議員という3つのステークホルダーを結びつけることで、政策ベースでのマッチングサービスを提供し、手数料収益を得るモデルですね。私たちが政治の現場で培った経験により、政策に基づいてどの議員や自治体にアプローチすべきか、逆に自治体がどのような民間企業を求めているかを的確に把握できるんです。
上場に向けては、まず日本の公共データ分野でトップシェアを獲得することを最重要視しています。海外展開も視野に入れており、類似サービス企業の買収や、日本市場参入を検討する外資系企業向けの多言語対応サービスなども検討中です。ただし、当面は日本市場に集中し、日本の公共情報を世界標準として発信していくことが最も効果的な成長戦略だと考えています。
最終的な目標は、私たちのサービスによって日本のGDP向上に貢献することです。政治というツールをより多くの人と企業が活用できる環境を整備し、「政治のOS、公共のOS」を構築する。それが私たちの最終形態であり、ユニコーン、デカコーンを目指す原動力となっているのです。
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