株式会社SENRI

SENRI、2億円調達で新興国流通DX加速──「新興国版セブン-イレブンOS」目指す


株式会社SENRIは、アジア・アフリカ12か国でクラウドベースの受発注管理ソフトウェア「SENRI」を展開するスタートアップだ。同社は2015年の創業以来、日系大手企業から外資系化粧品メーカー、現地企業まで幅広い顧客に、新興国特有の流通課題を解決するソリューションを提供している。
今回、インクルージョン・ジャパン、SMBCベンチャーキャピタル、イーストベンチャーズ、サムライインキュベート等を引受先とする第三者割当増資により2億円を調達。現在は正社員7名に加え、子会社社員87名が各国で事業を展開する。
新興国における流通の課題は深刻だ。アジア・アフリカには約3000万店舗の伝統的小売店が存在し、消費財流通の7割以上を担っている。しかし受発注と在庫管理がマニュアルで行われているため非効率が常態化しているのが実情だ。製造業1社あたり50~150社の卸と直接取引を行う複雑な流通構造の中で、営業活動の見える化や顧客カバレッジの向上が喫緊の課題となっている。
代表取締役CEOの永井健太郎氏は、国際協力機構(JICA)やマッキンゼーでの経験を通じて、こうした新興国の流通課題に着目した。「必要なものが必要な人に届く社会をつくる」というミッションの下、現地の営業スタッフが使いやすいモバイルアプリと、マネジメント層向けのWebアプリを組み合わせたプラットフォームを開発している。
今回は、代表の永井氏に事業の詳細や今後の展望について話を聞いた。
日本とは根本的に異なる新興国の流通構造
――事業について教えてください。
私たちは、アジア・アフリカで事業展開する製造業向けの販売流通システムを提供しています。新興国では、Kioskやパパママショップという個人経営の小さい店舗が消費者向け流通の7割~9割以上を担っているのが現状です。
これは日本の流通構造とは大きく異なります。日本では、イオンやセブン-イレブンのような大手チェーン店が中心となり、製造業はエースの営業1人が大手数社と交渉すれば商品を全国に流通させることができます。一方、新興国では100人~200人の営業チームが数百から数千の小規模店舗を個別に回って営業しなければならず、流通へのアプローチが根本的に違うのです。
――どのような課題を解決されているのでしょうか。
大きく3つの課題があります。まず受発注と在庫管理がマニュアルで非効率なことです。受注から発送までの時間がかかり、誤発注や欠品によるトラブルも多数発生しています。
次に、営業の勤務実態が把握できず生産性が低いという問題があります。会社の外に出た営業のモニタリングができない中で、営業がちゃんと仕事をしていない、中には副業を行っている営業もいるのが現実です。
最後に顧客のカバレッジが低いことが挙げられます。そもそも店舗データベースもPOSベースの市場データもなく、卸の活動の透明性もありません。
こうした課題に対して、モバイルアプリとWebアプリを組み合わせたサービスを提供しています。営業スタッフはモバイルアプリで受注や訪問報告を行い、マネジャーはWebアプリでリアルタイムの売上状況や営業活動を把握できる仕組みです。
新興国の環境に配慮し、電波がつながらない地方でも使用できるオフライン機能や、安価な携帯でも動作する軽量設計を実現しています。

顧客企業で実証された大幅な業績改善
――具体的な導入効果を教えてください。
日系消費財メーカーの例では、導入3か月で営業1人当たりの訪問件数が19.7%増加し、売上が32.7%増加しました。2024年2月にはコロナ以降の月間最高売上を達成されています。これまで営業の活動内容が全く見えず、業務の非効率化が課題となっていましたが、GPSトラッキングとKPI設定により、リアルタイムで経営陣も営業スタッフも活動状況を把握できるようになりました。
外資系化粧品メーカーのケニア法人では、50名の営業がSENRIで受注をリアルタイムで受け取ることで、配送までのリードタイムを50%削減し、バックオフィス4名の削減を実現しています。また、味の素ナイジェリアやオムロンインドネシアなど、日系大手企業での導入も進んでおり、製薬業界のある企業では、60名のMRが利用することで顧客カバレッジが78~80%から95~100%に増加、訪問数も週次ベースで50%増加という成果が出ました。
――顧客からの反響はいかがですか。
短期的に売上が伸びて、その後も継続して成長できたという報告をいただいています。全体の売上が10%~20%と1年間で増える中で、SENRIの影響がとても大きかったという評価をいただくことが多くあります。
顧客の拡大については、リファラルでご紹介いただくケースが多いですね。営業部長が別の会社に移って、そこでもSENRIを使いたいというパターンもよくあります。現在の顧客構成は大企業が6~7割を占めており、そのうち外資系企業が約半分となっています。日系企業を含む外資系と現地の財閥系企業などがバランス良く混在しており、幅広い企業規模に対応できることが我々の強みです。現在は12カ国・200社以上の現場で活用されており、着実に事業基盤を拡大しています。
AIで解決する「営業の最適化」という難題
――技術的な進歩についてはいかがでしょうか。
最も重要な技術革新は、AIによる訪問顧客の最適化です。これまでお話ししたように、新興国では営業1人当たりが担当する顧客数が膨大で、どの顧客を優先的に訪問すべきかという判断が非常に困難でした。
我々は過去の購買履歴や取引パターンなどのデータを分析し、各営業スタッフに対して「今週はA店とB店を優先的に訪問してください」といった具体的なレコメンデーションを提供しており、売上向上に大きな効果が出ています。

今回の調達資金では、生成AIを中心とした機能開発に重点投資します。例えば200人の営業がいる企業では、毎日の店舗訪問で1万8千件程度のレポートが上がってきます。これらを人手で分析するのは現実的ではないので、生成AIを活用して自動的に重要な情報を抽出し、マネジメント向けのサマリーを作成する取り組みを試験的に進めているところです。
――他社との差別化ポイントはどこにありますか。
最大の強みは柔軟なシステム連携能力です。新興国で事業を展開する企業の多くは、既にSAPやMicrosoft Dynamicsといった基幹システムを使用しています。我々はこれらのERPシステムに加えて、決済システムやBIツールとのAPI連携を安価で提供できる技術力があります。
システム連携というのは高度な技術力が必要な一方で、現地企業にとってはコストを抑えたいというニーズもあります。この「高い技術力」と「安価な提供」を両立できるのが我々の競合優位性です。
創業の背景――国の成長を支える企業を作りたい
──創業のきっかけを教えてください。
もともと私はJICAで4年間働き、アフリカでインフラ関係のプロジェクトを担当していました。道路を作るようなプロジェクトを中心に携わる中で、社会インフラは国の成長にとって重要だが、人が良くないと国は成長しないと感じていました。
私が携わったエジプトの工業高校をつくるプロジェクトで、卒業生に「ここで学んだスキルを卒業後にどう活かせるか」と聞いたところ、全体の2割程度しか学んだスキルを活かせる仕事に就けないことが分かりました。良い企業があって、良い採用や雇用をしていかないと人材も国も育たない。国の成長を支えるような企業をサポートすることができないかという思いが、事業立ち上げの原点でした。
その後マッキンゼーで働きながら、休みを取ってアフリカに行き、企業30~40社と話をさせていただく中で、一番印象的だったのが製造業の企業が「我々の課題は営業と流通である」と言うことでした。日本でコンサルティングをしている経験からすると、メーカーが流通を課題だと言うことはほとんどないので、これは大きな発見でした。
実際に現場を見てみると、ボロボロの紙に受発注を書いて、今日どういう顧客を訪問してどういう成果だったかという報告書を手書きで作成していました。これは確かに問題だということで、まずはデジタル化してみるところから始め、サービスを作っていったわけです。

組織面では、ケニア、ナイジェリア、インドネシアの3カ国にそれぞれ20~30人のチームを配置し、基本的には現地人のリーダーと現地人の組織で運営しています。日本側は開発拠点として現地チームとコミュニケーションを取りながらプロダクト開発を進めている状況です。
新たな資金調達でアジア展開を加速
――今回の資金調達について教えてください。
今回は第三者割当増資により2億円を調達いたしました。主要な引受先として、インクルージョン・ジャパンとSMBCベンチャーキャピタル等が参画いただいています。我々のような海外事業を展開している企業にとって、事業の経営や戦略に関してインサイトやフィードバックをくれる投資家の存在はありがたいものです。また今後アジアで事業を展開していく上で、企業へのリーチをサポートしてくださる投資家に入っていただけることは重要だと考えています。
調達資金は主に東南アジアのカバレッジ拡大と、日本人を含む事業開発チームの強化に投資する予定です。そのために一部の国でのパートナーとの連携や、より見込み顧客へのリーチ強化を進めています。
――今後連携していきたい業界や企業について教えてください。
まず、我々が最も強みを発揮できる消費財メーカーとの連携を深めていく方針です。食品や化粧品といった業界の企業とは、単にシステムを提供するだけでなく、顧客企業と一緒に新機能の開発も行っています。企業の現場からフィードバックをいただきながら、より使いやすいシステムに改良していくという取り組みです。特に日系企業との共同開発を積極的に進めていきたいと考えています。
また、最近は電子機器や自動車関連の顧客も増えており、こうした業界との提携も拡大していく予定です。これらの業界は消費財よりも複雑なサプライチェーンを持っているため、営業活動や在庫状況を可視化する我々のシステムがより大きな価値を発揮できると見込んでいます。
「新興国版セブン-イレブンのOS」を目指して
――今後の展望と意気込みについて教えてください。
10年後、20年後を見据えて、我々は「新興国版セブン-イレブンのOS」になることを目指しています。小口のKioskやパパママショップは今後もなくならないと考えており、こうした小口店舗が残ったまま、地場の人たちの生活や物の購買に役立つ仕組みが、インドネシアでもアフリカでも続いていくでしょう。
これらのコミュニティ店舗がより電子化してサプライチェーンの中に組み込まれていく世界の実現に貢献したいと考えています。日本にあるセブン-イレブンとは違う、よりもっと小さい店舗が電子化していく世界を描いていくつもりです。
最終的に目指しているのは「必要なものが必要な人に届く」ことです。ケニアでは、主食であるトウモロコシの値段が2倍から3倍に上がって、生活水準が低い人たちにとって本当にクリティカルな状況になったことがありました。こうした商品流通の供給の脆弱性を解決し、特に医療品や生活用品のようなエッセンシャルな商品を安定供給できるようになれば、人々の生活に大きなインパクトを与えることができます。
私たちの重要なミッションは、日本の技術力を使ったサービスで新興国の流通課題を解決し、この領域でナンバーワンの変革者になることです。海外で事業を展開する日本のスタートアップのモデルケースとして、アフリカでもアジアでも日本の技術が役に立つということを証明していく所存です。
掲載企業
Startup Spotlight

Supported by
スタートアップスカウト
「スタートアップスカウト」は、ストックオプション付与を想定したハイクラス人材特化の転職支援サービスです。スタートアップ業界に精通した当社エージェントのほか、ストックオプションに詳しい公認会計士やアナリストが伴走します。